2013年4月7日日曜日

SSメモ:DARK QUEEN

DARK QUEEN(D・W・W)

昔からある有名作。上司から理不尽な呼び出しを食らったのでちょっと「独裁」について考えていたら、ふとこのSSのことを思いついたので読み返したわけですが、相も変わらず面白い。いつ読んでも面白いというのは、本当ネット小説にかぎらずいい物語の条件だと個人的に思っています。アニメにせよ、ラノベにせよ、名作というのはいつ体験しても面白いもの。懐古厨言うなし。

さてはて、このSSを読み直すきっかけとなった「独裁」というキーワードですが、独裁というのを否定する風潮が世の中にはかなりの割合であると思います。それは独裁が多くの悲劇を引き起こしてきたとか、今日では当たり前の人権をないがしろにしてきたという歴史的経緯を学校なり書籍なり、もしかしたらラノベやアニメ、ゲームなりで学んできたからでしょう。あるいは民主主義が進む世の中において絶対的な決定権、生殺与奪権をもつことに対するやっかみ、嫌悪感といった感情も起因しているのではないでしょう。ある意味では「独裁」という言葉自体に「悪いこと」というイメージが付き纏っているわけです。

本作「DARK QUEEN」はある独裁者を描いたダークファンタジー。中世文化水準の世界で、とある経緯から人類というには非常に怪しい存在になった少女クラナが人類の頂点に立つためにのし上がっていくわけですが、当然のごとく人を殺したり、必要があれば生かしたりと、まんま絵に描いたような独裁者。しかしだからといってそれが人類にとってマイナスかと言えば、どうも読んでいる限りはそうでもない。むしろ人間の価値を認めたり腐敗している行政を成敗したり、合理性を追求して周りの人からは英雄にも等しい扱いをされています。素晴らしいのはクラナ自身がそうした行動をとることこそが自分の望みを叶える最短距離であると考えており、周囲の仲間もまた彼女のそういった思考をわかった上でついていっているということ。

ストーリーやキャラクターの魅力もさることながら、個人的に一番好きなのはメイン登場キャラクターの一人が主人公に対して言った下のセリフ。

「貴方がとても恐い方だとは分かっていました。 ついていけば利用されるのだって分かっていました。 でも、不必要な嘘を付いたり、理不尽な事はしないとも分かっていました」
4.ヒトノココロ より抜粋)

まさにこの一言の中に、自分がこのSSで受けた感銘の全てが入っているといっても過言ではありません。つまり、不必要な嘘をつくことや理不尽な行いをすることは、独裁よりも耐え難いものであると言っているわけです。独裁は「理不尽な行い」をしやすい環境にありますからいろいろと批判されますが、それがなくなってしまえばもはや独裁というのは優れたリーダーによる統率と代わりがないのです。

民主主義を否定する気はないですし、独裁を賛美するわけでもありませんが、いささかどちらも極端に美化、あるいは卑下されすぎていると感じる今日この頃。どちらが良いとか悪いとかそういうのではなくて、何がダメで何がオッケーなのか1つずつ考えていくことが、もしかしたら重要なのかもしれません。

それにしても幼女戦記といい死神を食べた少女といい、どうしてこう独裁的な少女を描く作品が多いのでしょうか……。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

2013年3月11日月曜日

SSメモ:小さな魔女と野良犬騎士

小さな魔女と野良犬騎士(如月雑賀)

心温まるハートフルファンタジーともいうべきなのか。なんだろう、実にいい意味でネット小説らしいファンタジーものなんですよね、この「小さな魔女と野良犬騎士」という作品は。アクのない文体に丁寧なシナリオ、一人一人全力で生きている魅力的なキャラクター。本当どれひとつとっても間違いなく5段階評価で4以上はつくでしょう。突き抜けて面白いわけではないけど、安定して読める作品という意味では、たぶん近年の作品でトップレベルだと勝手に思っています。もちろんシリアスで、理不尽に人が死んで、ハーレムで、ご都合主義な展開もある程度は存在しますが、だからこそ逆にファンタジーに対する安心感というか、「そうそうファンタジーにこういうの求めていたんだ」と思えるというか。

このSSの主人公であるアルトは暗い過去を持ち、戦闘力はかなり高く、でも普段は力を露見させないというネット小説のテンプレの極みを地でいっていますが、作中ではお人好し、ロリコン、ヒモ、ニートと作中で散々罵られているため、正直あんまりそういうところ意識しません。というか読み終わって初めて気づいたレベルです。初見だと間違い無くろくでもない「だめんず」なんですよね、こいつ。実際作中の行動の半分くらいは本当にろくでもないし。ただやる時は本当にやるもので、言葉や行動、そして己の信念を曲げないその矜持が凄まじくかっこいいです。ここまで男らしい、少年漫画の主人公にも劣らない「熱さ」を秘めている主人公ってあんまりいないんですよね。だからこそ余計に普段のダメ具合が目立つわけですが(笑)

そんなアルトを取り巻くヒロインたちですが、これまた揃いも揃ってだめんず好きというダメっぷり。おそらくメインヒロインである魔女のロザリンやニートに餌をやる宿屋の看板娘カトレアとか、これもう完全にだめですわー。世話する喜び覚えちゃってるレベル。冒険者ギルドのサブマスタープリシアとかもはや信者。もちろん本性とかを知った上で主人公とヒロインたちの関係を眺めてみると確かに惚れるのもしょうがないなーと思うわけですが、知らない人から見たら勤勉で真面目で心優しいあの人が、どうしてこうなった状態。ちなみに余談ですが、そういう人ほどだめんずにハマる原因は、たいてい抑圧された自己表現に対する尊敬(自分はダメな部分を人に見せられないのに、あの人は誰にでもオープン。自分にできないこと平然とやってのける、すごい→すてき→抱いての連鎖)らしいですね。思い当たる人は注意しましょう。

さておき。個人的にこういうヒロインってなにげに好きなんですよね。正確には主人公とヒロインの関係性といいますか。ヒロインそれぞれにちゃんとアルトのことを好きになる理由があるんですよ。直接お話として記述されてるものもあれば、匂わせる描写でとどめているだけのものもあるため、完全にそうだとは言えませんが、たぶん読んでいる感じでは単なるいい男に惚れた、ではないんですよね。あれだ、やさしいから惚れたとかそうじゃなくて、やさしいところもだめなところもたまに辛い顔するところもかっこいいところも全部ひっくるめてこの人がいいから惚れたって感じです。どれか一つの要素でも欠けていたら、きっと惚れていないんだろうなぁ。

矜持、というのがたぶんこのSSのキーワードです。様々な人物が自らの矜持を誇り、それに従って対立し、ぶつかりあって決着を付ける。こうした一連の展開は目が離せないどころか、その先はどうなっているのか、何が矜持を支えているのか、のめり込んでしまうほど。特に第一部最後の人の命に関する矜持の持ちようは、どちらも正しいようで、どちらも間違っているようで、善悪の二極論でこの世は語れないんだなぁとしみじみ感じてしまいます。現在第二部に入って、いろいろ世界観が明らかになってきたため、これから先の展開にかなり期待しています。ついに国内だけでなく国外にも話が及び、べたですが主人公の過去に触れる内容も出てきて、まさにこれからと言ったところ。……ただ不安があるとすれば、経験上このあたりがネット小説の中でも最もエタりやすくなる時期なので、作者の如月さんにはぜひ踏ん張って欲しいです。

2013年3月8日金曜日

SSメモ:魔法戦国群星伝

魔法戦国群星伝(八岐)

U-1モノです。

……またか、とか言わないでください。えぇ、わかっています。KanonのSSでこれまでほぼU-1モノしか紹介していないことくらいわかっています。もう厨二は飽きたんだよとか、時代は「奇跡って起こらないから奇跡」から「奇跡も魔法もあるんだよ」になってるとか、十分承知の上です。

でもでも何回も読み返しちゃったんですから仕方ないじゃないですか!!(逆ギレ)

Kanonの二次創作でU-1モノという化石のようなSS。っていうか化石といっても過言では無いかもしれない。それでも何度でも読みなおしてしまう魅力がやはりこのジャンルにはあると思うんですよね。ただ、このSSの場合かなりクロスオーバーが多いので、全作品知らない人は結構読みにくいかもしれません。あと当時のお約束的な展開とかも多々あるので、なろうでSSを読んで育ってきた世代には厳しいかも。ただ、だからこそ余計に読んでほしいなと感じる作品でもあります。特に今の作者さんには。なにせ今のテンプレにつながるような要素がたくさんあるので、その原点を知る意味でも。歴史的経緯を知れば、今後自分がどうアレンジすればいいのか考えることができるので。あながちこうしたSSやラノベの歴史を知ることは書き手にとってかなり有用ですよ。どうしてツンデレが生まれたのかとか調べると面白い。

と、余談はさておき。このSSのストーリーについては語りません。なんかこの手の作品はあらすじ言ってもだいたい似通ってしまうので。ただ戦記と王道ファンタジーをブレンドしてお話を進めるという感じの結構ややこしいSSとだけ言っておきます。物語の構造を勉強している人からすれば、たぶんダメダメな点数をつける気がしますが、こういうフリーダムな感じのSSの方が見てて楽しいですね。キャラは原作あるので当然立っているし、過去話やストーリーの二面展開なんかは、当時とてつもなくわくわくして更新が待ちきれませんでしたね。

ただ大変個人的なお話をしてしまうなら、このSSのエピローグが大好きです。もちろんSSの本編自体もすごく好きで、物語に引きこまれた時なんかは時間を忘れてSSを読み返したりしたこともあるわけですが、それ以上に一つの物語が終わった際の最後に語られるその後の世界が大好きで仕方がありません。ラノベで言えば本編よりも後日談。ゲームで言えばファンディスク。蛇足と評されようがなんだろうが、一つの世界がその後も続いているあの読後感こそに、自分は言い知れない震えるほどの魅力を感じているわけです。エタる傾向が高い長編SSだったからこそ余計にその後の世界のお話に焦がれているのかもしれません。

そんなわけでこのSSを絶賛おすすめ。ちなみに作者の八岐さんは今ではあまり物語を書いておらず、もっぱらラノベレビューをしています。それはもう圧倒的な量と質のレビューがあり、もし気になるラノベで購入を悩んでいたら、ぜひ八岐さんのレビューを読んでみてください。自分もいつも参考にさせていただいています(笑) なにげにこのブログも少し八岐さんの影響を受けて、このような少し長めのSSレビューしているわけで、ある意味では八岐さんが存在しなければこのブログも存在しなかった……はず。この場をお借りして感謝の意をこっそりと表したいと思います。

2013年2月27日水曜日

SSメモ:遊戯王GXへ、現実より

遊戯王GXへ、現実より(葦束良日)

にじふぁん時代は何回か読み返していた作品。最近になってまた発見したので、改めて読み返してみたらだいぶ伏線やら過去やらがいろいろ回収されていたので、これはもう感想を書かずにはいられないと思いたち、衝動書き。あれ、なんかにも似たようなことやったきがする。。。

はてさて、そんなことはさておき。遊戯王モノですよ、奥さん。あの原作からして破茶目茶で、アニメに至っては超展開満載な、だけれどもそれを楽しむ術さえ身につければ全てが面白くて仕方のないあの国民的カードゲーム(?)の遊戯王ですよ。なんでこんなテンション高いのかというと、自分が元OCG(現実のカードゲーム)のプレイヤーでして、何回かいろんな大会に出たりしてたからなんですよねー。そんなわけでして、人一倍遊戯王には関心があるわけです。

……が。

いかんせん、この手のジャンルを書くのってすごく難しいわけで。SSってゲームやスポーツを描写するのがすごく大変なんですよね。漫画だと一目見ればわかることを、延々と文字で描写しなければならないので。しかもこと遊戯王みたいなゲームになると、カードの効果とかも解説しないといけないわけで、読者が戸惑ってしまうわけです。正直並の遊戯王SSを見ても、大抵の読者はつまんないなーと思うかもしれません。さらにいえば、遊戯王は遊戯王デュエルモンスターズ、遊戯王GX、遊戯王5D's、遊戯王ZEXALなどアニメだけでも4つあり、全て総合すると登場人物は通常の作品の4倍、5倍にも膨れ上がり、カードの種類にいたってはOCG、アニメ、そして漫画それぞれのオリジナルのものがあるため、もはや覚えきれません。さすがカードの販売数でギネス記録を保有するだけのことはあります。……こう書いてて今更なわけですが、読者にも筆者にも結構厳しい作品ですよね。

とりあえず遊戯王自体の話はいいとして、SSの話に移りましょう。
このSSはアニメ第2シリーズである遊戯王GXを中心に話が展開するものです。たぶん一番二次創作SSの中でも多い設定なんじゃないでしょうか。同時にGX知らないよ、という人も多いですが。トリップ、オリ主という要素があるため毛嫌いする人も多いかもしれませんが、正直遊戯王SSの中でもトップクラスに面白いと思います。主人公の遠也がシンクロ召喚(アニメ第3シリーズの遊戯王5D'sで登場する新しいモンスター召喚方法)のテスターという設定もなかなかおいしい。この設定だけでGX時代にはなかったシンクロ要素をうまく溶けこませることに成功させています。

ストーリーは基本的にアニメ準拠ですね。原作主人公の十代がデュエルする場所で、代わりに遠也がデュエルすることも多いですが、それでも充分十代にも見せ場があります。遠也は俗にゆう親友ポジションに落ち着いているのかな? なので辺にでしゃばることもないし、十代や他のキャラが埋もれるということもないです。むしろ原作より三沢が輝いているのである意味では原作以上にキャラがいきいきしているかもしれません。
話が中盤になってくると、主人公の過去話や5D'sとの絡みが出てくるので非常に盛り上がります。ここでそのキャラか!!と思わせられることまちがいなし。事実、自分はびっくりしました。そして同時にやられた、とも思いました。そういう設定でそういうストーリー展開の方法があったのかと、ただただ関心しましたね。

現状は遊戯王GXの3期(1期が一年生、2期が二年生、3期が三年生前半)なんですが、これがまた重い話の連続なんですよね。鬱展開あり、闇堕ちあり、多方面同時ストーリー展開あり、というアニメ史上でも稀にみるシリアス具合。ある意味では自分がもっとも好きなパートなんですけど、ここをどう描ききるのか非常に気になっています。またついに主人公の過去話も明かされ、初代主人公遊戯の圧倒的強さも解禁されたので、これからどうなっていくのか全く話が読めません。今後目の話せない展開になることが容易に想像されるので、これからちょっとずつ覗いていきたいと思います。

2013年2月15日金曜日

SSメモ:陶都物語

陶都物語(まふまふ)

ふぃく……しょん? だよね?
え、あれ、これ現実には起こっていないよね? うん、そうだ。そのはずだ。時代小説でもあるまいし、そもそも転生モノなのだからそれが当たり前なはずなんだ。

なのに、SSが醸し出すこの異様なまでの現実感はどうしたものか。

まるで経済小説の大作を見ている気分ですね。いや、本当びっくりです。沈まぬ太陽とか不毛地帯とか、見るだけで現実のものと錯覚しそうになる書籍はあれど、SSでこれほどまでにリアルに迫った転生モノとかほぼ見ないんじゃないでしょうか。それもそのはずで作者の方、完全にこれ下調べどころか、もはや歴史研究の域に達しているほどに資料を読み漁ってるよ。これほどまでに情熱を注ぎ込んでひたむきに一つの物語に向き合っているのだから、それが面白くないわけがない。

舞台は江戸末期、明治で花咲く美濃焼の本元に転生した主人公の草太が内政チートではなく陶磁器チートで成り上がる(?)物語……のはず。なんというかチートはチートなんですが、あんまりSUGEEE系ではないんですよね。もちろんそういう要素も満載なはずなんですが、他の作品に比べて地味というか。それもそのはずで舞台はおちゃらけた異世界なんかではなく江戸。江戸といえば人権宣言びっくりの人権無視社会ですよ。そもそも差別格差万歳の時代で、人情や義理と言った要素はあるものの、そんなもの物語として成り立つほどに珍しい時代です。そしてそれ以上に立場の縦割り社会(武士の子は武士)がひどく、商人の家に生まれなければ商売すら成り立たない状況。そんな世界でやっていくためには、本当足元からこつこつやっていくしかないんですよね。異世界なら普通飛ばされる描写も、こちらでは非常に丁寧に泥臭く描いているので、本当その苦労が忍ばれます。異世界で現代知識披露してポンと金出るのがいかにご都合主義か。

この作品で語らずには居られないのが主人公の草太以上に、草太が執着している陶磁器。作者の陶磁器に関する知識が本当に半端ない。もはやその道の人としか思えないほどにリアルなんだけど、どうなんだろうか。江戸時代にはほぼ美濃焼の価値なんてあってないようなものなんですけど、有田焼や瀬戸物なんか現在海外でも評価されているのを見ると、まさにこの時代にブランド化に成功すればノリタケやウェッジウッド顔負けのモノができるでしょうね。草太がそこに活路を見出していくあたりはさすが元中小企業経営者というべきか。ただ問題はブランドの概念がまだこの時代では世界的に見ても薄いこと。果たしてそれを克服できるか否か。

草太が6歳にして胃潰瘍(原因:ストレス)の恐怖に怯えながら出世していく姿は見てて実に気持ちいいんですが、その裏で初恋の女の子との別れやお家騒動があったりと、いろいろ切なさのグラデーションがかかっています。これらの要素がまた随所でいい働きをしているおかげで、単なるなり上がり物語ではなく、まさしく努力の末に駆け登っている物語という印象が出てきて、続きが読みたくなってきます。しかし成り上がっているのは間違いないんですが、成り上がり過ぎると江戸幕府と共倒れというなんとも歯痒い状況が気になります。この調子でいけば明治維新起こらないんじゃね? という疑惑が浮き出てるのがすごく怖い……。

草太自身のキャラは実に汎用的な主人公だし、周りのキャラクターも取り立てて特筆するほど濃いわけではないんですが、するりと物語に溶け込んでこちらにその存在感を植え付けているのは作者の力量か。現代の安易に記号化されたキャラクターはほとんどおらず、ある意味ではそれがつまらないほどに生々しい。通訳の人なんてそれこそまさにこんな人がいたんだろうなぁ、と思うくらい行動がリアルで、うっかり草太が言ってしまう英語を誰に学んだのか即座に聞きに行くほど。優秀な人ってたしかにこういう行動するんですよねぇ……。こういう些細なところでもリアルを感じるからこそ、この物語全体が非常に繊細で生々しい現実感を醸しだすのかもしれません。