2012年9月1日土曜日

SSメモ:LUNAR! CLANNAD

LUNAR! CLANNAD(小椋正雪)

何気ない日常を描くことは非常に難しい。
小説でも映画でも何にでも言えることかもしれませんが、ことSSに限ってその難しさは尋常じゃないくらい難易度が上がると個人的に思っています。

元々からして日常というありふれたものを描写するのは大変なことです。しかも小説などの商業作品になると、どうしても個人の書きたいものより読者の読みたいものを優先して筆を取らないといけないので尚の事大変ですよね。(一部例外みたいな人たちもいますが)。
翻ってSS作家を見てみるとそれはもうフリーダムであり、これでもかと自分の書きたいことを書き連ねています。SS読者も自分たちに合わせた作品を求めているわけではなく、自分たちが考えもつかないような作品を期待しているため、そうしたSS作家の態度を受け止めているわけですよ。なので読者にも想像できるような日常を描いた作品でウケているものといえば、えてしてちょっとした短編くらいでしょう。
したがって商業作品以上にSSは日常系というジャンルを描くのが難しいのです。
(もちろん「面白い」という前提があります)


さて長々と「日常」というジャンルについて個人的な思いを綴ったわけですが、結局のところ何が言いたいのかというと、

この作品、非常に優しい気持ちになれます

ということです(笑)

ちょっとした不思議と、ほんのり心暖まるよう出来事と、妙な現実感を行き来するのは原作ノベルゲーム「CLANNAD」の持ち味であり、アニメ化はもちろん、「CLANNADは人生」という有名ネタが出来上がる(笑)ほどには優しい物語でした。その優しさを、感じたそのままに、それでいてさらにその登場人物たちがいきいきと生活している様子を描いたのがこの作品です。

いや、素晴らしい。
これほどまでに丁寧に、それでいて見事に「CLANNAD」という作品を調理しているCLANNAD SSは他にないと思います。ひたすらに日常を純化させ、サザエさんのごとく平和な世界が展開されている様は、見ていて飽きるどころか心が和むほど。癒されるとはまさにこの作品の読後感のことを言います。
それにしても主人公の○ちゃん(作者のネタバレ回避表現。しかしバレバレ?w)がやたらと馴染む馴染むw ほぼオリキャラなはずなのに、決してそんな空気はなく、むしろもうこれ公式でいいんじゃないかと思うくらい、原作キャラ達との間に混じってますよ。
っていうか原作キャラたち既に大人なんですが、ちょっとお前ら精神年齢おかしくないか!? 作中でいつまでも若いままじゃいられないとかいいつつ、精神的にはすっげぇ若いよ!! むしろ行動力とかも若すぎて羨ましいよ!! ただ、ちゃんと色々な線引ができているのは、さすがといったところか。ちゃんと成長しているんだなぁ、っていろいろ実感できます。

投稿形式がやや特殊で、短編連載という形をとっているわけですが、作者の書きたいものを書いているので時系列がバラバラなんですよね。(幼稚園時代を書いた次は、大学時代を書いているとか)。そうした形式が苦手な人は、時系列にまとめた投稿ページもあるのでそちらを見ればいいと思います。
平凡な日常に潜む穏やかな生活を鮮やかに切り取ってみせる作者の力量、恐れ入るとはこのことです。作者はついに商業デビューしたらしく、これからはネットだけでなく商業の方でも頑張って欲しいですね。