2012年9月14日金曜日

SSメモ:捻れた運命と真理

捻れた運命と真理(わかな)

なんとも珍しい組み合わせを見たものだ。
鋼の錬金術師とFateって等価交換など多少の共通点はあるにせよ、お互いがお互いに確固たる世界観を築いているせいで、組み合わせると齟齬どころか致命的に世界観丸潰してアヒルがネギしょってやってきたという違和感満載状態になると思ってたんですけど……。

いやはや驚いた。

これほどまでに見事に組み合わされているクロスオーバーSSも実に珍しい。パワーバランスすら大きく違う両作品をこれほど鮮やかにミックスさせて、それでいて原作のシリアスさを壊さずストーリーが進行できるとは、ちょっとどころではなく尋常ならざるぐらい作者のバランス感覚優れてます。トランプタワーの上でベイブレード回してるようなものですよ。ちなみに試しにできるかどうかやってみたんですが、トランプタワーすら組み立てられませんでした。不器用なことくらい知ってたさっ(泣)

それはさておき。
凛とアーチャー(ついでにルビー)がハガレン世界に来たらというIFストーリーというのが本作の特徴なわけですが、これがまた馴染む馴染む。エドたちはもちろん、ロイやらスカーやらとの話し合いも違和感なく進むあたり何か間違ってるはずなんですけどねぇ……。それもこれも、両者ともにかなり柔軟な思考をしているからなんでしょう。

凛たちは平行世界とかいろいろ知識と概念があるから納得できたり許容できたりするんですが、本来エドワードたちはそうした考えをもっていませんから、なんのこっちゃと理解できないと思うんですよね。ただそこにあり得ないなんてあり得ない、という言葉をグリードから聞いていることもあり、うまい具合下地が重なって、受け入れることができていると。そしてさらに魔術が自分たちには使えないと言われても、発想は使えるかもしれないと貪欲になれるあたり、こいつらやっぱりどんな作品でも主人公だよ、と思わされます。思考の柔軟性でいえば、ひょっとすると凛よりも(昔の知識にこだわっているため)エドたちの方が強いのかもしれませんね。なまじそれは知識がないからかもしれませんが。

一番肝心なことは、こうした場面を作者が違和感を感じさせずにすべてを描ききっていることなんですよね。エドワードが賢者の石を使う際の葛藤とか、アメストリスの異常に対する凛の反応とか、もう原作以上に原作らしいんですよ。何度もしつこいかもしれませんが、この作品を混ぜ合わせるバランス感覚って本当天性のものだと思うんですよ。間違いなく混ぜるのが難しい作品であり、それはこのクロスオーバーを描いているSSがほぼないことからも明らかなんですが、その上でこれだけうまく物語を展開できるのは、作者の力量がいかに優れているか示しています。

なんというか、このSSって無理のないように物語が在るんですよね。
FateというSSがクロスオーバーする場合、往々にしてエミヤが世界わたって活躍したと思えば敵に別のFateキャラが出てきたり、世界の修正力とかで英霊が出てきたりと、正直その展開はちょっと無理がないかと感じるんですよ。たとえどんな理由があったところで別作品別世界に型月作品の魔術概念をそのまま適用しているあたり、違和感を拭えないというか。
ところがこのSSに関してはそういった兆候があんまり見られないし、むしろアーチャーまったく活躍してないしどっちかって言えばボロボロだし……そういうわけで、今のところ安心してハガレン世界を楽しめるんですよね。

作者のわかなさんにはぜひ完結まで頑張って欲しいところ。クロスオーバーSSの見本として、いろんな人にその面白さが伝わるといいな。