2012年11月28日水曜日

SSメモ:ログ・ホライズン

ログ・ホライズン(橙乃ままれ)

もしもゲームの世界に入り込んだら。

わりかしこのSSはネトゲものというかVR(正確には違うけど)とかで紹介されることが多いんですが、個人的には本質は上にある通りゲーム世界に迷い込んだら、だと思うんですよね。
というのも、ネトゲものにしては正直いろいろ腑に落ちないところが多いからです。定番のデス・ゲームものでもなく、リアルとの駆け引きがあるわけでもない。ネトゲという異世界に突入したにしてはあまりに現実を引っ張っており、かといって転移にしてはあまりにゲームじみている。いまいちどのジャンルもしっくりこなくて、なんなんだろうなーとぼんやり考えた所、最終的に行き着いたのがゲーム世界に突入というジャンルでした。

正直なところあれですよ。思い至ったときは、そういえばそんなジャンルもあったなと思うくらい、昔のジャンル過ぎて望郷の念が立ち込めたくらいです(笑) いやしかし、もはや二次創作系列の作品以外では絶滅したと思われるこのジャンルを、よくも敢えてやろうと思えたものです。商業作品だと編集さんにプロット提出した段階で「VRだと差別化が難しいので他のにしましょう」とか「独自のゲームだと世界観の説明がしつこくなる」とか言われてまず間違いなく企画倒れでしょうね。読んでみないとこの面白さは中々伝わらないものですよ。

さてさて作品のジャンルはいいとして肝心の中身についてなんですが、これまたなんというかお手本のようなキャラクターの作りと話の展開です。ちょっといじわるな言い方をすれば歯車のようなキャラと機械仕掛けの物語、とでもいいましょうか。とにかく主人公の腹ぐろ眼鏡ことシロエを初め、多くのキャラクターが本当に見事なまでに記号化された特徴をもっており、それらが活かされた話しの進め方がされるため、いい意味でこのキャラは現実にはいないし、この話はフィクションだという実感が沸くんですよ。フィクションだとわかっているからある程度の棘が立つキャラの言動も目くじらを立てずに済むし、ご都合主義的な展開にもカタルシスを感じることができます。すばらしいポジショニングですね。

お話としてはネットゲームの世界で主人公たちが活躍するという形なんですが、レベルの暴力やらレベルを上げて物理で殴るやらがないため大変すばらしい出来です。ゲームならではの面白さに加え、ゲーム固有の概念を用いた問題解決法の提示、そしてそこにさらりと稼ぎ方やネゴシエーションの秘訣を入れてくるあたり、さすがの橙乃ままれ氏であると言わざるを得ません。話の後半になってくると今度は格差・自治・経済といったキーワードを入れてくるという贅沢さ。話しのスケールも大きくなってくるし、世界の謎にも迫ってくるし、恋の行方も波瀾な予感だし、いろいろと目が離せない状況です。

それにしてもこの橙乃ままれ氏である。
代表作の「まおゆう」からわかっていたことではありますが、一筋縄ではいかない物語の展開は舌を巻く勢いで毎度驚かされます。前半はそうでもないんですが後半からの群像劇っぷりに磨きがかかると、拍車をかけるように物語が面白くなるのはいったいどういうトリックなんだろうか。王道に一風変わった独自解釈を付け加え、世界観を広めた上で改めて王道に戻るという一連の流れに関しては、もはや崇拝するレベル。このSSの今後の展開が非常に気になります。ただいかんせん橙乃ままれ氏本人の忙しさが尋常じゃなさそうなところが難点。首を長くして更新を待ち続けたい一作。

あ、ちなみに文庫版も出てるのでネットがダメな人はぜひ。あと公式ホームページでコミカライズ情報だったり外伝(元は小説家になろうで掲載していた)だったりが出ているので、ファンの人は要チェックかも。

2012年11月2日金曜日

SSメモ:幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens

幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens(カルロ・ゼン)

うわっ、うっわー……なんだこれは……。

もう感嘆の息しか出ませんよ、これ。よくもまぁ世界大戦を2つ混ぜてこねて、きちんと形として仕上げているものだ。コーラとペプシを混ぜたらよくわからないすごい炭酸飲料ができたよ! と無邪気に喜んでるみたいで、なんかもうこの時点ですごく狂気じみてる。いや、一度は妄想したことありますよ? 大戦2つ混ぜればすごい戦争になるんじゃないかって。2度に渡る大戦において、それぞれ特筆して大きく技術が発展しており、苛烈極まる塹壕戦がいかに凄惨か、そしてそこでどんなドラマが生まれるだろうか、さらにそこに焦土作戦やら核やらが登場してくるとどうなるのか、戦記が好きな人なら多少なりともそこにロマンを感じるはず。

しかし、しかしだ。
そこには多大な困難が待ち受けていることは言うまでもない。
そもそも一般的な人は戦争なぞ知らないし、海外でやってるどんぱちなんぞテレビで知る生ぬるく過激な現状をのほほんと眺めているし、地元のとち狂ったヤクザの総本山でもない限り、こんなにも戦争末期の雰囲気万歳!みたいな頭のネジが飛び散った感想などは抱かないものである。またかなり専門系の人、いわゆる軍オタ、ミリオタになってしまうと、これもやや個人の頭の中で全てが完結しやすく、そうした人間に限ってなかなか自分独自のものを生み出し難いものである。

だがそれを容易くやってのけ、ドイツのルーデルを彷彿させるような主人公を投入し、戦時の英雄と讃えられるなど、まさしくフィクション戦記の王道であり、狂気じみた思想や特別なカリスマ性、歴史造形の詳しい解説は、この物語が提供する一つの完成されたテイストに違いない。そして何とも恐るべきことにこの物語には人を魅了してやまない幼女人の儚さを冷酷なまでに余すところ無く描いている。軍人のジレンマ、理論と現実、狂気と理性、宗教と道徳、それらの題材すらもミックスさせ、戦場における倫理の問題などを逃げることなく扱い、全てを大戦にぶちこんでいる。これを狂気の沙汰と呼ばずになんと言おう。

読み進めている内に、体の内側から見えない何かに食い破られているというか、これまで知ってて、でも見向きもしなかったものに真正面から対峙してしまった時の戸惑いというか。サンデル教授の講義みたいに、いろいろ曖昧に濁して逃げていたものを改めて考えさせられるんですよ。それもこれも主人公の幼女が悪い!! つーかどういうことだよ、作者さん……。潤いで投入してるんだろ……戦時なんだろ……。普段気難しい軍人が魅せるちょっとした恥じらいとか、ぐへへな展開とかもちょっとくらい期待していいじゃないか……。(外道

まぁそれはさておき。

改めて戦時のどうしようもない空気というものを感じた気がします。
どうにもこういう破滅的な話とかはやや苦手なところがあるんですが、ついつい見てしまうんですよね。戦記もので連戦連勝してるやつも好きと言えば好きなんですけど、このSSみたいな硝煙と血が入り混じったリアルな匂いのするやつも定期的に見たくなるときがあるんです。別に破滅願望とかないはずなんですけどねぇ。なんかあれだ、恋すらしていないのに失恋の歌を聞いて心が苦しくなるようなあんな感覚ですよ。うん、ほぼそんな経験ないけどね(

2012年11月1日木曜日

SSメモ:死神を食べた少女

死神を食べた少女(七沢またり)

なんというか、本当に見当違いな感想なのは承知しているんですが、どうにもこの物語は童話みたいな印象を受けてしまう。物語を通して何かを語りかけられているような、一見単純な話の裏で、何かとても大切なものを教えられているような、そんな感覚です。ちょっと待てよ、こんな狂気じみた主人公が、さらに狂気じみた部下を引き連れて戦争するこの物語のどこが童話なんだ、と多方面の方からつっこみを受けてしまうかもしれませんが(笑)

さてさて、間違ってもこのお話は心温まるお話でも、ましてや何か教訓じみたものを語っている作品ではありません。むしろ平気で人が死に、洗脳じみた思想を淡々と描写しているという、ダークファンタジー真っ青な作品です。大好きですよ、こういう化けの皮をかぶったような作品(

少女シェラは空腹から死神を食べて、非常識な力を手に入れています。結果的にはこの力によって立身出世していったので、ちょっと形を変えたチートものと読めなくもない。転生トラックとかのパターンからはみ出したチートモノというか。あれですね、むしろ「ある日突然力に目覚めた俺は……」って導入の方が近いかもしれません。近年でこういう書き出しにチャレンジできるってとても大切な心意気だと思うんですよね。やれ魔法の設定がどうのこうの、主人公の過去はどうのこうのって考えるのもいいんですが、王道そのままで内容を面白くすればだいたい物語は面白くなるよって示してる作品な気もします。といっても、読んでる最中はまったくそんなことを意識しませんけどね。何度か読み直している内に、そういえばこれって敢えてジャンル分けとかしたらこれになるよね、と気づいただけです。

いやでもこれを主人公最強モノってジャンルで区切ると詐欺になる気しかしない。だからといって死神モノと言われるとまったくそうじゃないし、戦記というにしては、いまいち全体の動きが足りない。恋愛要素とか海に投げ捨ててるし、涙誘う展開とかカタルシスがマッハみたいでもない。なので結論としてはザ汎用性キング「ファンタジーモノ」となるわけですが、これのどこがファンタジーなのかイマイチこの表現も厳しい。というわけで結論として「ファンタジーな戦記っぽい死神モノの皮をかぶった何か」というのが正しいですね。うん、なんのこっちゃ(

それにしても注目すべきは少女シェラもそうですけど、その部下たちですよね。
よく小説や漫画にあるような死を恐れない人形兵士というのが描写されますが、まさしくそうした人物像にぴったり当てはまるんですよね、彼ら。といっても正直なところ、こうした人たちって取り立てて特殊な人たちってわけじゃないんですよ。60年前の日本だってこんな人達がたくさんいましたし、おそらく現代の人だって死を恐れないことはないにしても、誰かカリスマ性のある人を信奉してやまない人はたくさんいます。創業者万歳な企業の幹部とか、起業家に憧れる学生とか、もっと身近でいえば故マイケル・ジャクソン氏なんかたぶんファンに何かしてほしいといえば、かなりの確率でそれが実現したと思うんですよ。つまりはそういうことなんです。誰もがシェラの部下のように狂気に染まる可能性があるし、そこに特別な才能や努力って必要ないんです。このSS読んで自分はこうはならないと確信している人ほど、たぶんなる可能性高いですよ。だって何の根拠もない自分の感情で判断を確信できるわけなんですから。

それにしてもなんでこの物語が童話だと感じたんだろうか。こうした部下たちの一件や王国とかの隆盛をきちんと描いているところに、何かひっかかっているのかも? いずれにせよ何度か読みなおしても面白さは褪せない点においては童話と似てます。書籍化するのもなっとく。むしろ今後はこういう童話も読んでみたいな。大人向けの童話というか。

しかし一人の少女を通して描かれる世界が、こんなにも小さく、けれどとてつもなく思想にあふれているのを見ると、リアルな世界もいろいろ考えることに飽きない世界ですよね。