2013年5月30日木曜日

SSメモ:ショタ勇者様育成計画

ショタ勇者様育成計画(めそ)

ほのぼのだと思った? 残念! 魔王様でした!!

騙された。
いやー、これは素直に騙された。最初は筆がすべっていたのだと思いました。のっけから女魔王が私より強いやつに会いに行く状態だったり、男勇者がショタすぎて困ったり、レベル1から育っていくシーンがほのぼの過ぎて、完全にこれはこの路線で走っていくものだと錯覚してました。

話の大筋は女の大魔王がレベル1の勇者を育成して、将来の自分のライバルにしようという光源氏も真っ青な計画を丁寧に描写していくというもの。もちろん修行シーンもありますが、話の要所要所に出てくる魔王様のツッコミ待ちの行動がなんともシュール。いや、お前はっちゃけすぎだろと誰しもが思うこの破天荒な行動に、部下も胃薬がはなせない。うん、どう考えてもこのあらすじの段階でシリアスな話ができるとは思えない() いや、誰しもが思いますよ、これはほのぼの魔王が勇者を育てる育成小説であると。

勇者の素質も見えて、サブヒロインも登場して、ゆっくりと着実に物語が進み。
そして中盤に差し掛かるわけです。
それはまさしく魔王様全開シーン。別の勇者パーティを蹂躙するその光景はもう凄惨の一言。ここまで容赦なくほのぼのをぶち壊し、一直線にシリアス方向に面舵いっぱいするとは想像していませんでした。
いや、正直に言いましょう。

ここまでシリアスに方向転換できるとは思ってませんでした。

これはもう作者のことを侮っていたとしか言い訳のしようがありません。むしろこれはもう作者の切り替えが鮮やか過ぎたと評するべきだと思います。ただし、なんとなく予兆はありました。このままの作風でいけばマンネリ化するだろうなぁ、という気はしてましたし、話の動きとしてそろそろ何か急転するものがあるんだろうなぁ、と漠然とした話の流れは理解していました。しかしですよ、それを理解したとしても、たぶんこんなにガラッと切り替えられるとは思っていませんでしたし、ことネット小説で言えば、それこそ普通は替えられずだらだら話が続いているものです。まだまだ自分のネット小説への理解は浅はかなものなんだと少し反省しています。そしてそれ以上に、まだまだネット小説にはたくさんの可能性が眠っているんだなと希望も見えます。

シリアスに舵を切ってからは、それはもう話のスピードが加速していきます。王道の武道会。妙なライバルの登場。ひっそり勝利の階段を駆け登る勇者。裏で進む謀略。そして決勝戦でのボス登場、落ちこぼれ勇者の活躍。なんとまぁ、王道的でカタルシスあふれる展開なこと。それでいて決して読者の期待を裏切らない話の筋。もはや序盤のほのぼのなんか忘れて、ただひたすらに読みふけるしかありません。物語に夢中になってのめり込んで、気がつけば頑張れと応援したくなる感情が、たまらないほどにこのSSのうまさを表しています。

この急展開を選ぶ際に、作者の方はかなり葛藤があったんじゃないでしょうか。ほのぼのでも人気が出ているのに、変える必要があるのか、と。しかし結果としてこの切替は英断だったと思います。これがあったからこそ、その後の物語が加速して、無駄に世界観の風呂敷が広がらずにすんだと思うので。広げようと思えばいくらでも広げられる下地はあるけれども、それをせずに本当に書きたいものを書いた作者の、その選択と集中の決断はネット小説で稀にみる素晴らしいものだと思います。

完結した作品なので、ぜひそうして形作られた物語の結末を見て下さい。
きっとみなさんも、こう思うでしょう。
デルフォード爆発しろ。

2013年4月21日日曜日

SSメモ:辺境護民官ハル・アキルシウス

辺境護民官ハル・アキルシウス(あかつき)

ストン、と心に落ちてくるとでも言うんでしょうか。
いやはや、読み終えた瞬間の脱力具合とこれで終わりなのかという疑問の抱き具合がちょうどいい塩梅にブレンドされているこの読後感。何事も「もっと先を」と思わせた所で終わらせるのがちょうどいいという説があるわけですが、まさにその意味が実によくわかるSSでした。小説の終わりにしては少々物足りない感はあるものの、ひとつの完成した物語として見れば完成したパズルのごとくきれいにピースが揃っているので、非常に楽しめるものになってると思います。

ストーリーとしては特筆するものがない、というのが正直な印象。国でそこそこの官吏をしていた主人公のハルが、ある貴族の不興を買ってしまい、辺境に飛ばされたところからストーリーが始まるというのが大筋の流れです。おそらく似たようなシチュエーションのSSを探そうと思えば簡単に見つかるんじゃないでしょうか。その後の展開もおおよそ既定路線というか、完結まで大きく話を踏み外したものはないはず。少なくとも敬虔なSS読者の人ならどこかで見たようなシチュエーションをころころ見ることになると覚悟した方がいいかもしれません。まぁ、だからといって面白くない、というのは早計というもの。いや、もう少しストレートに表現しましょう。

面白い。実に面白い。
そして何より「興味深い」。

これだけ既視感のある展開を組み合わせて、なお面白いと思わせるSSは、長年SSを読んできた自分でもほとんど見たことがありません。特にオリジナル小説になってくると、それはもう脳みそを絞りに絞ってようやく1作か2作出てくるか来ないかくらいしかないと断言できます。一体全体このSSのどこにそう思わせる力があるのか、ついぞ自分にはわからなかったのですが、ただシステム思考的に物語の展開を組み合わせたいならまずこのSSを研究するところから始めると、いろいろ見えてくるものがあるんじゃないかなーと思う次第です。

このSS、きっと賛否両論なんでしょうねー。
たしかに中盤見慣れた展開が続くし、一つ解決してはまた一つ、といった感じの積立方式で話が進むから、スピーディーで斬新な話の組み立てが求められている現在のSS業界においては、あまり受け入れられないお話かもしれません。けれども自分にとっては逆にそここそがこのSSの魅力なんだと言い張りたい。なにせそれは言い返せば初心者に優しいということでもあり、また見返した際にこれはあとでこう繋がるんだよなー、と先に思いを馳せながら読むことができるからです。特にこのSSは中盤のメインが内政ですから、そこをつまらないと感じるかなるほどと感じるかでかなり意見が別れるでしょう。

すべてのSSがシリアスである必要はないし、長編でなくてもいいし、厨二よろしくオサレ戦闘をしなくてもいい。そういうことはおおよそ全SS読者が理解していると思います。なにせこの業界、どこかのジャンルが唐突に爆発的に流行ったり、あるいは風船が萎む勢いで駆逐されたりしていったりするので、多様性がないととても存続できません。今では二次創作でよくあるオリ主要素も、過去ではマイナー、というか明らかに地雷要素だったんです。それが現在ではメジャーに昇進しているあたり、この業界の流行り廃れは読めません。だからこそ。このSSのような見慣れた展開が組み合わさったSSがあることは、これからSSを執筆する人の一つの参考になるし、同じくこれからSSを読む人にとっても判断基準として使えるのだと思います。

いろいろ書いてきましたが、ようするに言いたいことはひとつです。
SS業界では貴重な改訂版を完結させた作品なので、ぜひ読んだほうがいいです(笑)

2013年4月10日水曜日

SSメモ:ドラゴンクエストUSB

ドラゴンクエストUSB(ファイヤーヘッド)

ふ、ふはは、あはははは!!! チャレンジャーだ。生粋のチャレンジャーがここにいる。よくもまぁ自分で黒歴史と認識しているものを公開できるものだ(褒め言葉)。USBに忘れ去っていたというところから来たであろう安直な題名を恥ずかしげ無く披露し、全てを開き直って全力で石投げてこいというウェルカムな状態まで開き直るその勇気、まさに尊敬に値する。しかもおそらく内容はほとんど修正していないのだろう、こういうの妄想したことあるなーというネタや展開がピンポイントに仕込まれていて、これだけオープンであるなら「痛いwww」と笑うよりむしろ「同じ妄想したことあるぜwww」という気持ちが強くなって、次々読み進めてしまう。これほど痛面白い作品がほかにあるだろうか。

本作品「ドラゴンクエストUSB」は「今のはメラゾーマではない・・・メラだ・・・」のセリフで有名なバーン様が登場する漫画「ダイの大冒険」の二次創作SS。ダイの大冒険自体がドラクエの二次創作なので、もしかしたらドラクエの三次創作といったほうが適切なのかもしれません。逆行・主人公最強・TSとまさにSS全盛期の地雷原がマッハですが、まぁそこまで気になるほどの原作崩壊は少ないのでたぶん普通に読むことはできます。というか普通におもしろいので何度でも読めます。SSってどんなに地雷要素があっても面白く調理しようと思えばできるのだなぁ、と感じさせてくれる素晴らしい作品。ここでもう一つ「普段は力を隠して……」という設定を入れればもう完璧でしたね!() そもそもこれらの要素って時代を作ってきたわけですから面白く無いわけがないのですが、やはり同じネタをどこらかしこもやっていると差別化が必要なわけで。地雷ネタをそのまま使うのではなくて、何かしら工夫を施すだけでかなりいいSSができると思うのですがどうなんでしょう。誰かやってみません?(

ストーリー自体はすこぶる逆行系の王道で、最強無双、原作沿い展開、主人公支援とまさにSS懐古厨至れり尽くせりの内容。この古き良き設定が、また厨二心と黒歴史妄想を掻き立てる掻き立てる。圧縮→威力増のコンボはもはや鉄板。魔闘士というネーミングと併せてこれはもう厨二乙、でも面白いからもっとやれ、と言わざるを得ません。主人公はポップの生まれ変わりの少女セラであり、彼女が逆行することで物語がスタートします。当然過去の世界にはポップがいるわけで、セラから見たポップがすごく面白い。過去の自分を見るとまさにこういう気持ちを抱くんだろうなと感じます。仲間とのやりとりも、適度な距離感と信頼感があり、そして何よりポップがセラを疑っているという話のもっていきかたは個人的に逆行系の中でも一番バランスのとれた配分だと感じます。まぁ、ここは人それぞれ感覚は違うでしょう。がっつり原作メンバーに関わるのが好きな人がいれば、原作に関わらないまったく別物の展開の方が好きな人もいるでしょうし。自分は面白ければどっちでもいい派ですけど。

それにしても、誰がどう見ても黒歴史な内容なのに、どうしてこれほど面白くできるんでしょうね。これってかなり重要なことです。正直初めて読んだ時は失礼ながらここまで読み返すとは思っていなかったです。でもいつの間にかふとした時に読み返していたり、ドラクエSSが読みたい衝動に駆られた時はちらっと見たりしているので、本当不思議。痛面白い作品に惹かれているのか、作者の筆力の高さに感心しているのか。真実はいつも謎。ただ言えることは、このSSが逆行王道系として一度は必ず目を通したほうがいい作品であるということ。これ読んで、どこが地雷要素なのか、どこが受ける場所なのか研究すれば、そこそこ作品の質があがると思います。なにせ王道突き進んだ作品ですから。

ん? なに? 逆行系の王道だったら原作主人公のダイが逆行すべき?

……。

ダイの大冒険の主人公はポップです。

2013年4月7日日曜日

SSメモ:DARK QUEEN

DARK QUEEN(D・W・W)

昔からある有名作。上司から理不尽な呼び出しを食らったのでちょっと「独裁」について考えていたら、ふとこのSSのことを思いついたので読み返したわけですが、相も変わらず面白い。いつ読んでも面白いというのは、本当ネット小説にかぎらずいい物語の条件だと個人的に思っています。アニメにせよ、ラノベにせよ、名作というのはいつ体験しても面白いもの。懐古厨言うなし。

さてはて、このSSを読み直すきっかけとなった「独裁」というキーワードですが、独裁というのを否定する風潮が世の中にはかなりの割合であると思います。それは独裁が多くの悲劇を引き起こしてきたとか、今日では当たり前の人権をないがしろにしてきたという歴史的経緯を学校なり書籍なり、もしかしたらラノベやアニメ、ゲームなりで学んできたからでしょう。あるいは民主主義が進む世の中において絶対的な決定権、生殺与奪権をもつことに対するやっかみ、嫌悪感といった感情も起因しているのではないでしょう。ある意味では「独裁」という言葉自体に「悪いこと」というイメージが付き纏っているわけです。

本作「DARK QUEEN」はある独裁者を描いたダークファンタジー。中世文化水準の世界で、とある経緯から人類というには非常に怪しい存在になった少女クラナが人類の頂点に立つためにのし上がっていくわけですが、当然のごとく人を殺したり、必要があれば生かしたりと、まんま絵に描いたような独裁者。しかしだからといってそれが人類にとってマイナスかと言えば、どうも読んでいる限りはそうでもない。むしろ人間の価値を認めたり腐敗している行政を成敗したり、合理性を追求して周りの人からは英雄にも等しい扱いをされています。素晴らしいのはクラナ自身がそうした行動をとることこそが自分の望みを叶える最短距離であると考えており、周囲の仲間もまた彼女のそういった思考をわかった上でついていっているということ。

ストーリーやキャラクターの魅力もさることながら、個人的に一番好きなのはメイン登場キャラクターの一人が主人公に対して言った下のセリフ。

「貴方がとても恐い方だとは分かっていました。 ついていけば利用されるのだって分かっていました。 でも、不必要な嘘を付いたり、理不尽な事はしないとも分かっていました」
4.ヒトノココロ より抜粋)

まさにこの一言の中に、自分がこのSSで受けた感銘の全てが入っているといっても過言ではありません。つまり、不必要な嘘をつくことや理不尽な行いをすることは、独裁よりも耐え難いものであると言っているわけです。独裁は「理不尽な行い」をしやすい環境にありますからいろいろと批判されますが、それがなくなってしまえばもはや独裁というのは優れたリーダーによる統率と代わりがないのです。

民主主義を否定する気はないですし、独裁を賛美するわけでもありませんが、いささかどちらも極端に美化、あるいは卑下されすぎていると感じる今日この頃。どちらが良いとか悪いとかそういうのではなくて、何がダメで何がオッケーなのか1つずつ考えていくことが、もしかしたら重要なのかもしれません。

それにしても幼女戦記といい死神を食べた少女といい、どうしてこう独裁的な少女を描く作品が多いのでしょうか……。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

2013年3月11日月曜日

SSメモ:小さな魔女と野良犬騎士

小さな魔女と野良犬騎士(如月雑賀)

心温まるハートフルファンタジーともいうべきなのか。なんだろう、実にいい意味でネット小説らしいファンタジーものなんですよね、この「小さな魔女と野良犬騎士」という作品は。アクのない文体に丁寧なシナリオ、一人一人全力で生きている魅力的なキャラクター。本当どれひとつとっても間違いなく5段階評価で4以上はつくでしょう。突き抜けて面白いわけではないけど、安定して読める作品という意味では、たぶん近年の作品でトップレベルだと勝手に思っています。もちろんシリアスで、理不尽に人が死んで、ハーレムで、ご都合主義な展開もある程度は存在しますが、だからこそ逆にファンタジーに対する安心感というか、「そうそうファンタジーにこういうの求めていたんだ」と思えるというか。

このSSの主人公であるアルトは暗い過去を持ち、戦闘力はかなり高く、でも普段は力を露見させないというネット小説のテンプレの極みを地でいっていますが、作中ではお人好し、ロリコン、ヒモ、ニートと作中で散々罵られているため、正直あんまりそういうところ意識しません。というか読み終わって初めて気づいたレベルです。初見だと間違い無くろくでもない「だめんず」なんですよね、こいつ。実際作中の行動の半分くらいは本当にろくでもないし。ただやる時は本当にやるもので、言葉や行動、そして己の信念を曲げないその矜持が凄まじくかっこいいです。ここまで男らしい、少年漫画の主人公にも劣らない「熱さ」を秘めている主人公ってあんまりいないんですよね。だからこそ余計に普段のダメ具合が目立つわけですが(笑)

そんなアルトを取り巻くヒロインたちですが、これまた揃いも揃ってだめんず好きというダメっぷり。おそらくメインヒロインである魔女のロザリンやニートに餌をやる宿屋の看板娘カトレアとか、これもう完全にだめですわー。世話する喜び覚えちゃってるレベル。冒険者ギルドのサブマスタープリシアとかもはや信者。もちろん本性とかを知った上で主人公とヒロインたちの関係を眺めてみると確かに惚れるのもしょうがないなーと思うわけですが、知らない人から見たら勤勉で真面目で心優しいあの人が、どうしてこうなった状態。ちなみに余談ですが、そういう人ほどだめんずにハマる原因は、たいてい抑圧された自己表現に対する尊敬(自分はダメな部分を人に見せられないのに、あの人は誰にでもオープン。自分にできないこと平然とやってのける、すごい→すてき→抱いての連鎖)らしいですね。思い当たる人は注意しましょう。

さておき。個人的にこういうヒロインってなにげに好きなんですよね。正確には主人公とヒロインの関係性といいますか。ヒロインそれぞれにちゃんとアルトのことを好きになる理由があるんですよ。直接お話として記述されてるものもあれば、匂わせる描写でとどめているだけのものもあるため、完全にそうだとは言えませんが、たぶん読んでいる感じでは単なるいい男に惚れた、ではないんですよね。あれだ、やさしいから惚れたとかそうじゃなくて、やさしいところもだめなところもたまに辛い顔するところもかっこいいところも全部ひっくるめてこの人がいいから惚れたって感じです。どれか一つの要素でも欠けていたら、きっと惚れていないんだろうなぁ。

矜持、というのがたぶんこのSSのキーワードです。様々な人物が自らの矜持を誇り、それに従って対立し、ぶつかりあって決着を付ける。こうした一連の展開は目が離せないどころか、その先はどうなっているのか、何が矜持を支えているのか、のめり込んでしまうほど。特に第一部最後の人の命に関する矜持の持ちようは、どちらも正しいようで、どちらも間違っているようで、善悪の二極論でこの世は語れないんだなぁとしみじみ感じてしまいます。現在第二部に入って、いろいろ世界観が明らかになってきたため、これから先の展開にかなり期待しています。ついに国内だけでなく国外にも話が及び、べたですが主人公の過去に触れる内容も出てきて、まさにこれからと言ったところ。……ただ不安があるとすれば、経験上このあたりがネット小説の中でも最もエタりやすくなる時期なので、作者の如月さんにはぜひ踏ん張って欲しいです。

2013年3月8日金曜日

SSメモ:魔法戦国群星伝

魔法戦国群星伝(八岐)

U-1モノです。

……またか、とか言わないでください。えぇ、わかっています。KanonのSSでこれまでほぼU-1モノしか紹介していないことくらいわかっています。もう厨二は飽きたんだよとか、時代は「奇跡って起こらないから奇跡」から「奇跡も魔法もあるんだよ」になってるとか、十分承知の上です。

でもでも何回も読み返しちゃったんですから仕方ないじゃないですか!!(逆ギレ)

Kanonの二次創作でU-1モノという化石のようなSS。っていうか化石といっても過言では無いかもしれない。それでも何度でも読みなおしてしまう魅力がやはりこのジャンルにはあると思うんですよね。ただ、このSSの場合かなりクロスオーバーが多いので、全作品知らない人は結構読みにくいかもしれません。あと当時のお約束的な展開とかも多々あるので、なろうでSSを読んで育ってきた世代には厳しいかも。ただ、だからこそ余計に読んでほしいなと感じる作品でもあります。特に今の作者さんには。なにせ今のテンプレにつながるような要素がたくさんあるので、その原点を知る意味でも。歴史的経緯を知れば、今後自分がどうアレンジすればいいのか考えることができるので。あながちこうしたSSやラノベの歴史を知ることは書き手にとってかなり有用ですよ。どうしてツンデレが生まれたのかとか調べると面白い。

と、余談はさておき。このSSのストーリーについては語りません。なんかこの手の作品はあらすじ言ってもだいたい似通ってしまうので。ただ戦記と王道ファンタジーをブレンドしてお話を進めるという感じの結構ややこしいSSとだけ言っておきます。物語の構造を勉強している人からすれば、たぶんダメダメな点数をつける気がしますが、こういうフリーダムな感じのSSの方が見てて楽しいですね。キャラは原作あるので当然立っているし、過去話やストーリーの二面展開なんかは、当時とてつもなくわくわくして更新が待ちきれませんでしたね。

ただ大変個人的なお話をしてしまうなら、このSSのエピローグが大好きです。もちろんSSの本編自体もすごく好きで、物語に引きこまれた時なんかは時間を忘れてSSを読み返したりしたこともあるわけですが、それ以上に一つの物語が終わった際の最後に語られるその後の世界が大好きで仕方がありません。ラノベで言えば本編よりも後日談。ゲームで言えばファンディスク。蛇足と評されようがなんだろうが、一つの世界がその後も続いているあの読後感こそに、自分は言い知れない震えるほどの魅力を感じているわけです。エタる傾向が高い長編SSだったからこそ余計にその後の世界のお話に焦がれているのかもしれません。

そんなわけでこのSSを絶賛おすすめ。ちなみに作者の八岐さんは今ではあまり物語を書いておらず、もっぱらラノベレビューをしています。それはもう圧倒的な量と質のレビューがあり、もし気になるラノベで購入を悩んでいたら、ぜひ八岐さんのレビューを読んでみてください。自分もいつも参考にさせていただいています(笑) なにげにこのブログも少し八岐さんの影響を受けて、このような少し長めのSSレビューしているわけで、ある意味では八岐さんが存在しなければこのブログも存在しなかった……はず。この場をお借りして感謝の意をこっそりと表したいと思います。

2013年2月27日水曜日

SSメモ:遊戯王GXへ、現実より

遊戯王GXへ、現実より(葦束良日)

にじふぁん時代は何回か読み返していた作品。最近になってまた発見したので、改めて読み返してみたらだいぶ伏線やら過去やらがいろいろ回収されていたので、これはもう感想を書かずにはいられないと思いたち、衝動書き。あれ、なんかにも似たようなことやったきがする。。。

はてさて、そんなことはさておき。遊戯王モノですよ、奥さん。あの原作からして破茶目茶で、アニメに至っては超展開満載な、だけれどもそれを楽しむ術さえ身につければ全てが面白くて仕方のないあの国民的カードゲーム(?)の遊戯王ですよ。なんでこんなテンション高いのかというと、自分が元OCG(現実のカードゲーム)のプレイヤーでして、何回かいろんな大会に出たりしてたからなんですよねー。そんなわけでして、人一倍遊戯王には関心があるわけです。

……が。

いかんせん、この手のジャンルを書くのってすごく難しいわけで。SSってゲームやスポーツを描写するのがすごく大変なんですよね。漫画だと一目見ればわかることを、延々と文字で描写しなければならないので。しかもこと遊戯王みたいなゲームになると、カードの効果とかも解説しないといけないわけで、読者が戸惑ってしまうわけです。正直並の遊戯王SSを見ても、大抵の読者はつまんないなーと思うかもしれません。さらにいえば、遊戯王は遊戯王デュエルモンスターズ、遊戯王GX、遊戯王5D's、遊戯王ZEXALなどアニメだけでも4つあり、全て総合すると登場人物は通常の作品の4倍、5倍にも膨れ上がり、カードの種類にいたってはOCG、アニメ、そして漫画それぞれのオリジナルのものがあるため、もはや覚えきれません。さすがカードの販売数でギネス記録を保有するだけのことはあります。……こう書いてて今更なわけですが、読者にも筆者にも結構厳しい作品ですよね。

とりあえず遊戯王自体の話はいいとして、SSの話に移りましょう。
このSSはアニメ第2シリーズである遊戯王GXを中心に話が展開するものです。たぶん一番二次創作SSの中でも多い設定なんじゃないでしょうか。同時にGX知らないよ、という人も多いですが。トリップ、オリ主という要素があるため毛嫌いする人も多いかもしれませんが、正直遊戯王SSの中でもトップクラスに面白いと思います。主人公の遠也がシンクロ召喚(アニメ第3シリーズの遊戯王5D'sで登場する新しいモンスター召喚方法)のテスターという設定もなかなかおいしい。この設定だけでGX時代にはなかったシンクロ要素をうまく溶けこませることに成功させています。

ストーリーは基本的にアニメ準拠ですね。原作主人公の十代がデュエルする場所で、代わりに遠也がデュエルすることも多いですが、それでも充分十代にも見せ場があります。遠也は俗にゆう親友ポジションに落ち着いているのかな? なので辺にでしゃばることもないし、十代や他のキャラが埋もれるということもないです。むしろ原作より三沢が輝いているのである意味では原作以上にキャラがいきいきしているかもしれません。
話が中盤になってくると、主人公の過去話や5D'sとの絡みが出てくるので非常に盛り上がります。ここでそのキャラか!!と思わせられることまちがいなし。事実、自分はびっくりしました。そして同時にやられた、とも思いました。そういう設定でそういうストーリー展開の方法があったのかと、ただただ関心しましたね。

現状は遊戯王GXの3期(1期が一年生、2期が二年生、3期が三年生前半)なんですが、これがまた重い話の連続なんですよね。鬱展開あり、闇堕ちあり、多方面同時ストーリー展開あり、というアニメ史上でも稀にみるシリアス具合。ある意味では自分がもっとも好きなパートなんですけど、ここをどう描ききるのか非常に気になっています。またついに主人公の過去話も明かされ、初代主人公遊戯の圧倒的強さも解禁されたので、これからどうなっていくのか全く話が読めません。今後目の話せない展開になることが容易に想像されるので、これからちょっとずつ覗いていきたいと思います。

2013年2月15日金曜日

SSメモ:陶都物語

陶都物語(まふまふ)

ふぃく……しょん? だよね?
え、あれ、これ現実には起こっていないよね? うん、そうだ。そのはずだ。時代小説でもあるまいし、そもそも転生モノなのだからそれが当たり前なはずなんだ。

なのに、SSが醸し出すこの異様なまでの現実感はどうしたものか。

まるで経済小説の大作を見ている気分ですね。いや、本当びっくりです。沈まぬ太陽とか不毛地帯とか、見るだけで現実のものと錯覚しそうになる書籍はあれど、SSでこれほどまでにリアルに迫った転生モノとかほぼ見ないんじゃないでしょうか。それもそのはずで作者の方、完全にこれ下調べどころか、もはや歴史研究の域に達しているほどに資料を読み漁ってるよ。これほどまでに情熱を注ぎ込んでひたむきに一つの物語に向き合っているのだから、それが面白くないわけがない。

舞台は江戸末期、明治で花咲く美濃焼の本元に転生した主人公の草太が内政チートではなく陶磁器チートで成り上がる(?)物語……のはず。なんというかチートはチートなんですが、あんまりSUGEEE系ではないんですよね。もちろんそういう要素も満載なはずなんですが、他の作品に比べて地味というか。それもそのはずで舞台はおちゃらけた異世界なんかではなく江戸。江戸といえば人権宣言びっくりの人権無視社会ですよ。そもそも差別格差万歳の時代で、人情や義理と言った要素はあるものの、そんなもの物語として成り立つほどに珍しい時代です。そしてそれ以上に立場の縦割り社会(武士の子は武士)がひどく、商人の家に生まれなければ商売すら成り立たない状況。そんな世界でやっていくためには、本当足元からこつこつやっていくしかないんですよね。異世界なら普通飛ばされる描写も、こちらでは非常に丁寧に泥臭く描いているので、本当その苦労が忍ばれます。異世界で現代知識披露してポンと金出るのがいかにご都合主義か。

この作品で語らずには居られないのが主人公の草太以上に、草太が執着している陶磁器。作者の陶磁器に関する知識が本当に半端ない。もはやその道の人としか思えないほどにリアルなんだけど、どうなんだろうか。江戸時代にはほぼ美濃焼の価値なんてあってないようなものなんですけど、有田焼や瀬戸物なんか現在海外でも評価されているのを見ると、まさにこの時代にブランド化に成功すればノリタケやウェッジウッド顔負けのモノができるでしょうね。草太がそこに活路を見出していくあたりはさすが元中小企業経営者というべきか。ただ問題はブランドの概念がまだこの時代では世界的に見ても薄いこと。果たしてそれを克服できるか否か。

草太が6歳にして胃潰瘍(原因:ストレス)の恐怖に怯えながら出世していく姿は見てて実に気持ちいいんですが、その裏で初恋の女の子との別れやお家騒動があったりと、いろいろ切なさのグラデーションがかかっています。これらの要素がまた随所でいい働きをしているおかげで、単なるなり上がり物語ではなく、まさしく努力の末に駆け登っている物語という印象が出てきて、続きが読みたくなってきます。しかし成り上がっているのは間違いないんですが、成り上がり過ぎると江戸幕府と共倒れというなんとも歯痒い状況が気になります。この調子でいけば明治維新起こらないんじゃね? という疑惑が浮き出てるのがすごく怖い……。

草太自身のキャラは実に汎用的な主人公だし、周りのキャラクターも取り立てて特筆するほど濃いわけではないんですが、するりと物語に溶け込んでこちらにその存在感を植え付けているのは作者の力量か。現代の安易に記号化されたキャラクターはほとんどおらず、ある意味ではそれがつまらないほどに生々しい。通訳の人なんてそれこそまさにこんな人がいたんだろうなぁ、と思うくらい行動がリアルで、うっかり草太が言ってしまう英語を誰に学んだのか即座に聞きに行くほど。優秀な人ってたしかにこういう行動するんですよねぇ……。こういう些細なところでもリアルを感じるからこそ、この物語全体が非常に繊細で生々しい現実感を醸しだすのかもしれません。

2013年2月8日金曜日

SSメモ:ヴァルハラ学園物語

ヴァルハラ学園物語(久櫛縁)

たぶんに思い出補正も強く影響していますが、いまでもちょくちょく読み返しているのがこのヴァルハラ学園物語シリーズ。典型的な学園ファンタジーモノで、現在のテンプレにつながる要素もチラホラ。星の図書館というサイトに掲載されていたので、そちらの名前で知っている人の方が多いかもしれません。

基本的に話しの内容はコメディで構成されています。苦労人主人公のライルが周囲の仲間が読んでくるトラブルに巻き込まれてひぃひぃ言ってる感じ。たまに自爆してたり。ノリが完全に中学生なので、展開も文体も今読み返せば苦笑いせざるを得ない箇所もいくつかあったりします(爆発オチとか文字の大きさ変えるとか)。それをつまらないと判断するか生暖かい目で見るかは読み手に委ねますが、個人的には当時のお約束、というものを懐かしがりながら読むと結構楽しめると思います。もちろん元々の内容も面白いので、初めて読む人も文体に対する嫌悪がなければのめりこめるはず。

しかしギャグ・コメディ小説につっこむのはやぶさかなんですが、主人公のライル以外まともな人がいないのはどういうことだw ヒロイン(?)の暴走魔法少女のルナ(決して暴力ヒロインではないと信じたい。原型ではありそうだけど)はもちろん、脳筋大食らいのアレンに女装趣味の王子クリスといったパーティメンバーの個性豊かさといったら、さぞ苦労しそうだなぁと思わされるメンツばかり。そこに精霊のシルフィもまじってどんちゃん騒ぎなのだから、ライルの苦労が忍ばれる。そして一番涙するのはもうそういうポジションでいいよと諦めがついているライルの達観根性ですねー。ストーリー中、一瞬だけ反抗期になるわけですが、即座に元通りのポジションに戻るあたり、本当そういう星の下で生まれたと思わないとやってられないのかもしれませんが。

ただ、この作品を語る上でやはり避けられないのが外伝や番外編の存在。大昔の勇者ルーファスが蘇ったの話やその子供の話もさることながら、勇者が魔王を倒す旅をダイジェストに掲載している「ゆうしゃくんとなかまたちシリーズ」は傑作もの。正直個人的には本編よりこっちの方が好きだったりします。本編と同じく基本ギャグ・コメディな作風なんですが、たまに出てくるシリアスで切ない話が尋常じゃないくらいの破壊力で襲ってくるので、油断なりません。この話を読んで改めて本編を読んだ時、こういう平和な生活ができているのは過去にこういうことがあったからなんだなぁ、というのをしみじみ感じさせてくれます。でもやっぱりギャグものなので笑っちゃうんですけどね!

2013年1月25日金曜日

SSメモ:天葬の聖痕

天葬の聖痕(志賀あきと)

最近の厨二SSと昔の厨二SSを比較して特に面白いと思うのは、主人公が力を持つようになった経緯の描写方法の違いですね。最近のSSは「なぜ主人公が強くなったのか」を説明していることが多いと思っています。それが神様チートであり、転生した主人公の幼児時における修行シーンであれ。最近はそこに経験値概念とか自分だけが知っている抜け道、とかも含まれるかな? で、それに対して昔のSS(といっても数年前のレベル)って案外そうした描写ってないんですよね。そもそもが強いところから物語が始まっているか、或いは過去回想として描写するかされてたわけです。少なくともいきなり師匠との修行シーンとか主人公が他人と違う方法で成長しているシーンとかから始まるSSはなかった気がするんですよ。一概にどちらがいいとは言いませんが、ただ個人的に厨二感情を満たしたい時に読み返す作品って大抵が後者……つまり昔のSSチックに主人公が最初から強いパターンなわけです。たぶんそれって単純に敵をちまちま倒している描写がまどろっこしいからなんですよね。厨二要素を読むまでに厨二以外のものを読まないといけないというのは案外面倒くさいものです。

その点でいえば、この「天葬の聖痕」という作品は突発的に厨二要素を摂取したくなった時に読み返すSSとしてパーフェクトなわけです。現代の厨二テンプレの元となった要素がふんだんに取り入れられているのだから、ある意味では当時としては先駆的テンプレ(?)なのかもしれません。なんといっても最近ではあまり見られない奈須きのこや西尾維新あたりをリスペクトしたこの独特の文体。いわゆるご両名のような新伝奇的な書き方って、素人が真似してもただ回りくどい文になるだけになんですが、このSSに関してはその心配がないほどにリスペクト具合が逸脱しています。本当見事としか言い用がありません。もちろん伝奇活劇小説と銘打つだけのことはあり、シナリオの雰囲気もとても魅力的なものに仕上がっています。

話の筋としては、最強主人公の芙蓉水薙がヒロインの当夜霧を敵対魔術組織から守る感じのものです。いかにもな設定の割に、これが深いところまで過去を練り込んでSSを書いているおかげか、普通の作品なら定番な展開もこの作品ではかなり緊張感があります。主人公が最強なわけですが、それでもできないことはあって、本編中にさりげなく散りばめられた過去話では敵対組織との戦いで仲間が死んだり犯されたりと悲惨な話も垣間見れて、決してご都合主義なだけでは生きていられない世界観が浮き彫りになっています。なので、本当油断ならないお話です。そこがたまらなく読者を惹きつける材料となっている感は否めませんが。不条理な世界で精一杯生きていくキャラクター達が活躍しているからこそ、どうにもストーリーから目が離せないんですよね。

文体やストーリー、そしてその世界観もさることながら、個人的に一番このSSの肝となっているのは筆者の卓越した格闘に対する知識とそれらを十全に表現しきっている描写力ですね。このSSの世界は普通に魔術とかそういうのがあるわけなんですが、困ったことに魔術よりも肉弾戦に目が言ってしまうというある意味ではファンタジーや伝奇として致命的な欠陥があるという謎具合です。もちろんだからといって魔術の描写が悪いとかではなく、むしろ出てくる魔術師の千差万別の能力は非常に魅力的にうつるわけですが、いかんせん刀を用いた戦闘だとか、細かい体の一挙一動の方が手汗握るくらい夢中になって見てしまうわけです。この点においては個人的に文体の元となった作者のレベルを超えていると感じています。といってもそれと同じくらいコメディパートが笑えるので、真剣に見てたと思ったら思わぬギャグの存在に笑ってしまうというか(笑)

ちょっと昔の作品なので、もはや更新は絶望的……だったのですが、最近また少しだけ更新しているようなので、1年1話あたりを目安にのんびり読んでいけたらなと思います。まぁ、とはいってもちょっと連載中と表記するには勇気がいるので、とりあえずラベルは連載:停止中にしておきますが、そのうちまた月1とかでもいいので更新してくれると嬉しいですね。

2013年1月16日水曜日

SSメモ:魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』

魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』(橙乃ままれ)

一体全体この「まおゆう」というSSをどう言葉で書き表せばいいものか。

夢中になって、ひたすらに繰り返し読み込んで、気がつけばこの「まおゆう」世界に魅了されて。勇者と魔王という古き良き題材への物懐かしさ、経済や近代化をテーマにした目新しさ、そしてSS全体から感じる「あの丘の向こうには何があるんだろう」という胸の高鳴りをひっさげ、いざこのSSの感想を口にしようとして。

――はて、自分は何を言おうとしていたのだろうか、と固まってしまう。

溢れ出る言葉の堰がまったく切れないんですよ。SSに対する感情が喉元まで出てきているのに、それを言葉という形に落とし込めることがいっこうにできない。これは困った。しかし、それでいてさらに困ったことには、言葉にできなくていい、と納得している自分がいるということ。たぶん言葉にできない、ということこそがこのSSに対して自分が抱いている感情のすべてなんだと思います。

まいったなぁ。いや、本当まいった。
魔王と勇者の二者関係を改めて見つめなおし、平和な世界への道(作中では丘の向こうと表現。超重要)を模索するというのがこのSSの大筋の流れなわけですが、これがすごいのなんの。これまでの勧善懲悪に疑問を呈する作品やファンタジー世界への考察作品とは違い、信念や思想などではなくあくまで経済という「理論」をもとに世界へ挑戦していく魔王と勇者の姿は、泥臭く地道ながらもそのひたむきさに焦がれるものがあります。紆余曲折、それこそ経済や人権、近代化といった話を経て、最後に超王道的な展開で風呂敷をたたんでくるストーリーなんて、もはや感動すら通り越して畏怖すら覚えるほどまさしく圧巻の一言。こんなのわくわくせずにはいられないじゃないですか。

魔王と勇者を取り巻く人達も実に魅力的で、一人一人がちゃんとこの世界の中で生きているんです。懸命に生き抜いているんです。このSS内で登場する人全員が、名前こそないけれども確かに世界に一人しか存在しない主役なんですよ。だから人が死ぬときはこんなにも悲しいし、その仇をうとうとする姿はこんなにも切ないし、こんなにも敵が憎く、それを受け入れる姿に心が打たれるわけです。もちろんいろいろ考えさせられる場面はたくさんあります。人によっては受け入れられない展開もあるでしょうし、近代化に対する批判や「丘の向こう」というテーマに対してちゃんとした答えを出していないシナリオに激情を覚える人もいるでしょう。目を皿にして親の敵を探すように物語の粗を探せばいくらでも見つかるかもしれません。

でもだからといってこのSSの面白さがそれで損なわれることなんてなく、むしろこうやっていろいろ考えさせられたり意見を抱いたりすることこそに、このSSの魅力ってものが詰まっているのだと思います。「まおゆう 考察」などでググればわかると思いますが、近年でこれほど多くの人に考察・絶賛・批判されているSSはまず他にないと思います。つまりそれだけこのSSはいろんな人に読まれ、考えることを促し、その上でアニメ化するまでに人を巻き込んでいるんです。単純なSSとしての魅力もさることながら、考えることの面白さを提供しているという意味で、SSとしてまさしく理想的で完璧な作りをしているのではないでしょうか。もしこの作品を読んで何かしら思うところがあれば、きっとそれは作者の思う壺にハマっています(笑)

いつかの日か、自分がこのSSの感想をはっきりと言葉で表せた時。
その時初めて自分はこのSSの魂胆に気づくのかもしれません。もしかしたら魂胆なんてものないのかもしれませんが、きっとその時はその時で魂胆なんてない、ということに気づくでしょう。その段階こそが、きっと今の自分にとっての「丘の向こう側」なんでしょうね。

2013年1月9日水曜日

SSメモ:魔王はハンバーガーがお好き

魔王はハンバーガーがお好き(28号)

気づいたら書籍化してたSS。
あまりの衝撃に思わずSSメモに殴り書いてしまうという。

いや、うん。意外というかなんというか。
何度か読み直しているので「おー……」という納得が半分、「おー……?」という疑問が半分という気持ちです。もちろんそれは決してこのSSが面白くないとかそういうのではなくて、このさっぱりしたSSを気に入っている人が意外にいるもんなんだと戸惑っているというか。作品の悪口ではなくて、単純に近年のSSの人気傾向からして、あんまりこうもあっさりとした文体が受けるとは思ってなかったわけです。それがこうして書籍化までしているのを見ると、戸惑いの一つや二つ生まれるものですよ。

話の内容としては異世界で勇者に敗れた魔王が現代のアメリカの片田舎でラブコメするだけなんですよね。おそらくこんな辺境にあるブログに来るような人なら一度くらいは似たような設定を目にしたことがあるのではないでしょうか。しかも連載時はちょうど橙乃ままれ氏の「まおゆう」によって魔王と勇者モノのブームが巻き起こっていた真っ最中で、似たような作品が至る所にごろごろと蔓延していたという凄まじい状況。(しかもネットに限らずライトノベルでも。電撃文庫さんの「はたらく魔王さま!」とか)

つまるところ、とりわけ珍しい作品でもないんですよね、これが。

にも関わらず私が繰り返しこのSSを読んだのは、ひとえにそのあっさり風味の文章と、時々現れる濃厚なシーンに魅了されたからです。なんとなく想像される楽しい日常のセンテンスをふんだんに用いる一方で、その他の部分はそぎ落としているような文章なので、一話一話が軽く読めるんですよ。かといってそれぞれの話が独立しているわけではないので、前の話でまいた伏線を回収したり、徐々にヒロインが主人公の魔王に惹かれていく様子がゆっくり丁寧に描かれています。お題にそって書かれているので、敢えてこういう形でSSを書いていこうと意識したわけではないというはわかっているのですが、それにしたってこんなにも綺麗に話ができるのは作者の力量によるものが大きいんじゃないでしょうか。

現実的な非日常を描くのが非常にうまいんですね、このSS。
ありきたりな空気感を見事にコントロールしている筆力は本当魅せられましたね。ただこれが一般受けするかと言われるとちょっと悩みどころ。個人的にはこのSSって少女漫画のタッチそのままなんですよね。ふわふわしてて、理想的で、でも現実にはないってわかってる儚さが詰まってて、だからこそいろいろな思いを喚起させる作りになっている感じ? ありもしない田舎の河で遊んだ経験を思い出す感覚? いや、この表現じゃわからないですよねー(笑) まぁ、ようするに文章が軽くて味気なく感じる人もいるんじゃないかということです。いや、むしろそっちの方が多数派な気がするんですが、気のせいなんですかね……。

ともあれ、さっぱりしたSSが読みたい時はこういうお話とかみるとすごく幸せな気持ちになれます。小さなお店を経営するお話では、一番こういう空気感が好きですね。古き良きイベントとリアルではなかなか味わえない空気が交わって、物語が少しずつ少しずつ紡がれていくこのネット小説の醍醐味。書籍版でこれをどう再現しているのかぜひ読んでみたいですね。

2013年1月8日火曜日

SSメモ:真・恋姫無双【凡将伝】

真・恋姫無双【凡将伝】(一ノ瀬)

おいおいおい、なんだこの斬新な試みは!
……というのが当初この恋姫SSを読んだ時の感想でした。その試みの正体とは読者のコメントによって主人公のステータスや物語の展開が変わるという一風変わったもの。実際の所、連載もののSSで読者の感想が物語を左右することってほとんどないと思うんですよね。それはプロット云々以前にSSとは作者が書きたいものを書いているからであり、読者は「作る」人ではなくあくまでも「読む」人だからなのです。ゆえに、読者の反応を気にして作者は読者の欲求をみたすようなSSを書くことはあっても、読者がSSに干渉できるわけがないのです。

そう、そのはずなのに。
読者のコメント数でオリ主の能力値が変化して、鬱ルートな小説プロットの展開から抜け出すとかどういうことだ(笑)

作中で説明されているので、敢えてここで具体的な内容を伝えることはしませんが、簡単にいえば「リア充爆発」という言葉を読者から100以上もらうことで、SSがよりリア充的な展開になるという仕組みです。初めてこの仕組みが明かされた時は本当なんぞこれ、と唖然ですよ。同時にすごくわくわくしましたね。なんて意欲的なSSなんだと、そしてある意味でこれこそがweb2.0時代の双方向性あるネット小説としての完成形なんじゃないかと、ひどく感動した覚えがあります。

敢えて恋姫という作品でこの形をとったというところにも注目したい所。外史の観測者に関する考察に始まり、この物語の仕組みへ絡めて、だから主人公へ影響を与えることができるんだという話しの筋は、非常に説得力のあるものとして受け入れることができましたね。これもひとえに作者の一ノ瀬氏の筆力でしょう。物語の内容としても出来が素晴らしく、袁家陣営のよさが本当によく描かれています。特に麗羽様の王っぷりなどは半端無く魅力的に描写されており、ある意味ではこんなの麗羽様ではない!と否定されても仕方ないながらも、個人的には全然ありなキャラクター改変だと思います。ただでさえ面白い物語に、さらに読者のコメントやアンケートなどがあるのだから、これはもう手放しで賞賛する他ありませんよ。

それと忘れてはいけないのがこのSSに登場する魅力的なオリキャラたち。恋姫†無双で出ていない武将はまだまだたくさんいるので、武将の名前を借りたオリキャラを作るのは意外と簡単なわけですが、いかんせん本編のキャラに比べて影の薄いことが多いのがほとんどの恋姫SSの現状だと思います。しかしこのSSではこのオリキャラたちがまた濃いの何の……。っていうかAAで自己紹介するのやめれ、笑い殺す気か(笑) もちろん本編キャラも黙ってはいません。袁家の二枚看板なんてこれほど活躍したSSがあるのかと思うくらい、きちんと武将として描かれていますし、なにより客観的な視点における一刀君のリアルチート状態の忌々しさをこれ以上ないくらい見物できますw 何がすごいって、ここの一刀君は何も原作から外れたことはしていないのに、嫌われっぷりがひどいということ。いや、そりゃまぁ、これまで触れ合ってきたキャラクターが一刀君と触れ合うだけで落ちていく様子を見せられると、なんだかなぁという気にもなりますよ。でもこれが原作であり、オリ主の居るほうが異質なんだよなぁ。そのことをオリ主自身が自覚していますし。アンチやヘイト以外のSSでこれほど一刀君が嫌われているのも珍しい。

物語は現在反董卓連合の佳境。今後どう物語が転がっていくか。読者一人一人の意思表示で、未来はどんどん変わっていきます。ぜひいろんな人に、この感覚を楽しんでほしいですね。
これほどのSSを書いてくださっている一ノ瀬氏に感謝を。