2013年1月9日水曜日

SSメモ:魔王はハンバーガーがお好き

魔王はハンバーガーがお好き(28号)

気づいたら書籍化してたSS。
あまりの衝撃に思わずSSメモに殴り書いてしまうという。

いや、うん。意外というかなんというか。
何度か読み直しているので「おー……」という納得が半分、「おー……?」という疑問が半分という気持ちです。もちろんそれは決してこのSSが面白くないとかそういうのではなくて、このさっぱりしたSSを気に入っている人が意外にいるもんなんだと戸惑っているというか。作品の悪口ではなくて、単純に近年のSSの人気傾向からして、あんまりこうもあっさりとした文体が受けるとは思ってなかったわけです。それがこうして書籍化までしているのを見ると、戸惑いの一つや二つ生まれるものですよ。

話の内容としては異世界で勇者に敗れた魔王が現代のアメリカの片田舎でラブコメするだけなんですよね。おそらくこんな辺境にあるブログに来るような人なら一度くらいは似たような設定を目にしたことがあるのではないでしょうか。しかも連載時はちょうど橙乃ままれ氏の「まおゆう」によって魔王と勇者モノのブームが巻き起こっていた真っ最中で、似たような作品が至る所にごろごろと蔓延していたという凄まじい状況。(しかもネットに限らずライトノベルでも。電撃文庫さんの「はたらく魔王さま!」とか)

つまるところ、とりわけ珍しい作品でもないんですよね、これが。

にも関わらず私が繰り返しこのSSを読んだのは、ひとえにそのあっさり風味の文章と、時々現れる濃厚なシーンに魅了されたからです。なんとなく想像される楽しい日常のセンテンスをふんだんに用いる一方で、その他の部分はそぎ落としているような文章なので、一話一話が軽く読めるんですよ。かといってそれぞれの話が独立しているわけではないので、前の話でまいた伏線を回収したり、徐々にヒロインが主人公の魔王に惹かれていく様子がゆっくり丁寧に描かれています。お題にそって書かれているので、敢えてこういう形でSSを書いていこうと意識したわけではないというはわかっているのですが、それにしたってこんなにも綺麗に話ができるのは作者の力量によるものが大きいんじゃないでしょうか。

現実的な非日常を描くのが非常にうまいんですね、このSS。
ありきたりな空気感を見事にコントロールしている筆力は本当魅せられましたね。ただこれが一般受けするかと言われるとちょっと悩みどころ。個人的にはこのSSって少女漫画のタッチそのままなんですよね。ふわふわしてて、理想的で、でも現実にはないってわかってる儚さが詰まってて、だからこそいろいろな思いを喚起させる作りになっている感じ? ありもしない田舎の河で遊んだ経験を思い出す感覚? いや、この表現じゃわからないですよねー(笑) まぁ、ようするに文章が軽くて味気なく感じる人もいるんじゃないかということです。いや、むしろそっちの方が多数派な気がするんですが、気のせいなんですかね……。

ともあれ、さっぱりしたSSが読みたい時はこういうお話とかみるとすごく幸せな気持ちになれます。小さなお店を経営するお話では、一番こういう空気感が好きですね。古き良きイベントとリアルではなかなか味わえない空気が交わって、物語が少しずつ少しずつ紡がれていくこのネット小説の醍醐味。書籍版でこれをどう再現しているのかぜひ読んでみたいですね。