2012年11月1日木曜日

SSメモ:死神を食べた少女

死神を食べた少女(七沢またり)

なんというか、本当に見当違いな感想なのは承知しているんですが、どうにもこの物語は童話みたいな印象を受けてしまう。物語を通して何かを語りかけられているような、一見単純な話の裏で、何かとても大切なものを教えられているような、そんな感覚です。ちょっと待てよ、こんな狂気じみた主人公が、さらに狂気じみた部下を引き連れて戦争するこの物語のどこが童話なんだ、と多方面の方からつっこみを受けてしまうかもしれませんが(笑)

さてさて、間違ってもこのお話は心温まるお話でも、ましてや何か教訓じみたものを語っている作品ではありません。むしろ平気で人が死に、洗脳じみた思想を淡々と描写しているという、ダークファンタジー真っ青な作品です。大好きですよ、こういう化けの皮をかぶったような作品(

少女シェラは空腹から死神を食べて、非常識な力を手に入れています。結果的にはこの力によって立身出世していったので、ちょっと形を変えたチートものと読めなくもない。転生トラックとかのパターンからはみ出したチートモノというか。あれですね、むしろ「ある日突然力に目覚めた俺は……」って導入の方が近いかもしれません。近年でこういう書き出しにチャレンジできるってとても大切な心意気だと思うんですよね。やれ魔法の設定がどうのこうの、主人公の過去はどうのこうのって考えるのもいいんですが、王道そのままで内容を面白くすればだいたい物語は面白くなるよって示してる作品な気もします。といっても、読んでる最中はまったくそんなことを意識しませんけどね。何度か読み直している内に、そういえばこれって敢えてジャンル分けとかしたらこれになるよね、と気づいただけです。

いやでもこれを主人公最強モノってジャンルで区切ると詐欺になる気しかしない。だからといって死神モノと言われるとまったくそうじゃないし、戦記というにしては、いまいち全体の動きが足りない。恋愛要素とか海に投げ捨ててるし、涙誘う展開とかカタルシスがマッハみたいでもない。なので結論としてはザ汎用性キング「ファンタジーモノ」となるわけですが、これのどこがファンタジーなのかイマイチこの表現も厳しい。というわけで結論として「ファンタジーな戦記っぽい死神モノの皮をかぶった何か」というのが正しいですね。うん、なんのこっちゃ(

それにしても注目すべきは少女シェラもそうですけど、その部下たちですよね。
よく小説や漫画にあるような死を恐れない人形兵士というのが描写されますが、まさしくそうした人物像にぴったり当てはまるんですよね、彼ら。といっても正直なところ、こうした人たちって取り立てて特殊な人たちってわけじゃないんですよ。60年前の日本だってこんな人達がたくさんいましたし、おそらく現代の人だって死を恐れないことはないにしても、誰かカリスマ性のある人を信奉してやまない人はたくさんいます。創業者万歳な企業の幹部とか、起業家に憧れる学生とか、もっと身近でいえば故マイケル・ジャクソン氏なんかたぶんファンに何かしてほしいといえば、かなりの確率でそれが実現したと思うんですよ。つまりはそういうことなんです。誰もがシェラの部下のように狂気に染まる可能性があるし、そこに特別な才能や努力って必要ないんです。このSS読んで自分はこうはならないと確信している人ほど、たぶんなる可能性高いですよ。だって何の根拠もない自分の感情で判断を確信できるわけなんですから。

それにしてもなんでこの物語が童話だと感じたんだろうか。こうした部下たちの一件や王国とかの隆盛をきちんと描いているところに、何かひっかかっているのかも? いずれにせよ何度か読みなおしても面白さは褪せない点においては童話と似てます。書籍化するのもなっとく。むしろ今後はこういう童話も読んでみたいな。大人向けの童話というか。

しかし一人の少女を通して描かれる世界が、こんなにも小さく、けれどとてつもなく思想にあふれているのを見ると、リアルな世界もいろいろ考えることに飽きない世界ですよね。