2012年8月25日土曜日

SSメモ:絶対ナル孤独

絶対ナル孤独(川原礫)

王道は面白いからこそ王道足り得る、というのを示している作品。
いや、これは面白いわ。
現代異能ファンタジーとしての王道(突然力が宿る、覚醒する)を突き進んでいるにも関わらず、どうしてこんなにも面白く、それでいて目新しく書けるのだろうか。唐突な戦闘、力に目覚めた同士の戦い、悪の力と正義の力の登場、正体不明の敵組織、心の傷……などなど。
いやはや、正直ここまでオーソドックスな題材をよくもまぁこんなにも面白くまとめあげたものだと脱帽するレベル。王道とは斯くあるべしと言っても過言ではない。

とはいえ、面白さの要素が王道だけなのかと言われるとそれもまたちょっと違うんですよね。そこらの作者に比べて、文章力というか、描写力というか……とにかく戦闘描写から日常風景、果てに登場人物の心理描写に至るまでが、凄まじく丁寧に書かれているんですよね。文章から受ける情報量が、明らかに文章を超えていると言ってもいいくらい。昨今ここまで文章力のある作者は珍しいんじゃないでしょうか。

タイトルにある通り孤独というものを一つの題材にしてはいるものの、今のところはっきりと物語の方向性としてそれが顕著に出ているわけではない。ただ随所に(1章ラストのセリフなど)孤独の意味が散りばめられているため、今後に期待といったところか。
それにしても主人公のミノルくん、ちょっと自重しなさいw 1章の時点ではすさまじく根暗で孤独だったのに、3章になってからのその孤独とかけ離れた立場と行動はなんなんだw いいぞ、もっとやれ(

それにしてもこの作者にしてこの作品ありというか、どうしてこう川原さんの描く主人公はこんなにも弱い内面と強い衝動を併せ持っているんでしょうね。作者の別作品である「ソードアート・オンライン」のキリトくんしかり、「アクセル・ワールド」のハルユキくんしかり、人というのはきっかけ次第で変われるものだと言わんばかりのこの圧倒的な人の変化ですよ。
川原さんが描く主人公って、本当冷静に眺めてみると特別な存在ってわけじゃないんですよね。もちろん物語の主人公らしい特別な境遇はあるんですが、かといって殊更に変な思考をしたり、人格が破綻しているわけではないんですよね。にもかかわらず、いざ非日常に突入した瞬間、衝動的にまるでそうするべきだと決められているかのように、自身の内に眠る密やかな、でも誰もが抱いたことのある思いに対して、素直に反応的な態度を取るんですよ。
読んでいる側としてもその反応が自然であると感じるし、まったくもって違和感がないはずなんですが……毎度どうしてこうなった状態に陥るのはもはや作者の罠(笑)

残念な点としてはまだまだ物語が途中(というかこれから佳境に入る)というところで更新停止してしまったこと。作者が書籍デビューして忙しくなってしまったのはファンとして嬉しいものの、いささか寂しい感が否めない。作者の別作品「ソードアート・オンライン」が文庫展開しているのだから、ぜひこっちもお願いしますよ電撃文庫さん。