2013年3月11日月曜日

SSメモ:小さな魔女と野良犬騎士

小さな魔女と野良犬騎士(如月雑賀)

心温まるハートフルファンタジーともいうべきなのか。なんだろう、実にいい意味でネット小説らしいファンタジーものなんですよね、この「小さな魔女と野良犬騎士」という作品は。アクのない文体に丁寧なシナリオ、一人一人全力で生きている魅力的なキャラクター。本当どれひとつとっても間違いなく5段階評価で4以上はつくでしょう。突き抜けて面白いわけではないけど、安定して読める作品という意味では、たぶん近年の作品でトップレベルだと勝手に思っています。もちろんシリアスで、理不尽に人が死んで、ハーレムで、ご都合主義な展開もある程度は存在しますが、だからこそ逆にファンタジーに対する安心感というか、「そうそうファンタジーにこういうの求めていたんだ」と思えるというか。

このSSの主人公であるアルトは暗い過去を持ち、戦闘力はかなり高く、でも普段は力を露見させないというネット小説のテンプレの極みを地でいっていますが、作中ではお人好し、ロリコン、ヒモ、ニートと作中で散々罵られているため、正直あんまりそういうところ意識しません。というか読み終わって初めて気づいたレベルです。初見だと間違い無くろくでもない「だめんず」なんですよね、こいつ。実際作中の行動の半分くらいは本当にろくでもないし。ただやる時は本当にやるもので、言葉や行動、そして己の信念を曲げないその矜持が凄まじくかっこいいです。ここまで男らしい、少年漫画の主人公にも劣らない「熱さ」を秘めている主人公ってあんまりいないんですよね。だからこそ余計に普段のダメ具合が目立つわけですが(笑)

そんなアルトを取り巻くヒロインたちですが、これまた揃いも揃ってだめんず好きというダメっぷり。おそらくメインヒロインである魔女のロザリンやニートに餌をやる宿屋の看板娘カトレアとか、これもう完全にだめですわー。世話する喜び覚えちゃってるレベル。冒険者ギルドのサブマスタープリシアとかもはや信者。もちろん本性とかを知った上で主人公とヒロインたちの関係を眺めてみると確かに惚れるのもしょうがないなーと思うわけですが、知らない人から見たら勤勉で真面目で心優しいあの人が、どうしてこうなった状態。ちなみに余談ですが、そういう人ほどだめんずにハマる原因は、たいてい抑圧された自己表現に対する尊敬(自分はダメな部分を人に見せられないのに、あの人は誰にでもオープン。自分にできないこと平然とやってのける、すごい→すてき→抱いての連鎖)らしいですね。思い当たる人は注意しましょう。

さておき。個人的にこういうヒロインってなにげに好きなんですよね。正確には主人公とヒロインの関係性といいますか。ヒロインそれぞれにちゃんとアルトのことを好きになる理由があるんですよ。直接お話として記述されてるものもあれば、匂わせる描写でとどめているだけのものもあるため、完全にそうだとは言えませんが、たぶん読んでいる感じでは単なるいい男に惚れた、ではないんですよね。あれだ、やさしいから惚れたとかそうじゃなくて、やさしいところもだめなところもたまに辛い顔するところもかっこいいところも全部ひっくるめてこの人がいいから惚れたって感じです。どれか一つの要素でも欠けていたら、きっと惚れていないんだろうなぁ。

矜持、というのがたぶんこのSSのキーワードです。様々な人物が自らの矜持を誇り、それに従って対立し、ぶつかりあって決着を付ける。こうした一連の展開は目が離せないどころか、その先はどうなっているのか、何が矜持を支えているのか、のめり込んでしまうほど。特に第一部最後の人の命に関する矜持の持ちようは、どちらも正しいようで、どちらも間違っているようで、善悪の二極論でこの世は語れないんだなぁとしみじみ感じてしまいます。現在第二部に入って、いろいろ世界観が明らかになってきたため、これから先の展開にかなり期待しています。ついに国内だけでなく国外にも話が及び、べたですが主人公の過去に触れる内容も出てきて、まさにこれからと言ったところ。……ただ不安があるとすれば、経験上このあたりがネット小説の中でも最もエタりやすくなる時期なので、作者の如月さんにはぜひ踏ん張って欲しいです。

2013年3月8日金曜日

SSメモ:魔法戦国群星伝

魔法戦国群星伝(八岐)

U-1モノです。

……またか、とか言わないでください。えぇ、わかっています。KanonのSSでこれまでほぼU-1モノしか紹介していないことくらいわかっています。もう厨二は飽きたんだよとか、時代は「奇跡って起こらないから奇跡」から「奇跡も魔法もあるんだよ」になってるとか、十分承知の上です。

でもでも何回も読み返しちゃったんですから仕方ないじゃないですか!!(逆ギレ)

Kanonの二次創作でU-1モノという化石のようなSS。っていうか化石といっても過言では無いかもしれない。それでも何度でも読みなおしてしまう魅力がやはりこのジャンルにはあると思うんですよね。ただ、このSSの場合かなりクロスオーバーが多いので、全作品知らない人は結構読みにくいかもしれません。あと当時のお約束的な展開とかも多々あるので、なろうでSSを読んで育ってきた世代には厳しいかも。ただ、だからこそ余計に読んでほしいなと感じる作品でもあります。特に今の作者さんには。なにせ今のテンプレにつながるような要素がたくさんあるので、その原点を知る意味でも。歴史的経緯を知れば、今後自分がどうアレンジすればいいのか考えることができるので。あながちこうしたSSやラノベの歴史を知ることは書き手にとってかなり有用ですよ。どうしてツンデレが生まれたのかとか調べると面白い。

と、余談はさておき。このSSのストーリーについては語りません。なんかこの手の作品はあらすじ言ってもだいたい似通ってしまうので。ただ戦記と王道ファンタジーをブレンドしてお話を進めるという感じの結構ややこしいSSとだけ言っておきます。物語の構造を勉強している人からすれば、たぶんダメダメな点数をつける気がしますが、こういうフリーダムな感じのSSの方が見てて楽しいですね。キャラは原作あるので当然立っているし、過去話やストーリーの二面展開なんかは、当時とてつもなくわくわくして更新が待ちきれませんでしたね。

ただ大変個人的なお話をしてしまうなら、このSSのエピローグが大好きです。もちろんSSの本編自体もすごく好きで、物語に引きこまれた時なんかは時間を忘れてSSを読み返したりしたこともあるわけですが、それ以上に一つの物語が終わった際の最後に語られるその後の世界が大好きで仕方がありません。ラノベで言えば本編よりも後日談。ゲームで言えばファンディスク。蛇足と評されようがなんだろうが、一つの世界がその後も続いているあの読後感こそに、自分は言い知れない震えるほどの魅力を感じているわけです。エタる傾向が高い長編SSだったからこそ余計にその後の世界のお話に焦がれているのかもしれません。

そんなわけでこのSSを絶賛おすすめ。ちなみに作者の八岐さんは今ではあまり物語を書いておらず、もっぱらラノベレビューをしています。それはもう圧倒的な量と質のレビューがあり、もし気になるラノベで購入を悩んでいたら、ぜひ八岐さんのレビューを読んでみてください。自分もいつも参考にさせていただいています(笑) なにげにこのブログも少し八岐さんの影響を受けて、このような少し長めのSSレビューしているわけで、ある意味では八岐さんが存在しなければこのブログも存在しなかった……はず。この場をお借りして感謝の意をこっそりと表したいと思います。