2012年8月26日日曜日

SSメモ:―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE

―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE(蒼月)

ふむふむ、半オリジナルKanonファンタジーとな。

なるほど、ようするにゲーム「Kanon」の主人公祐一くんを魔改造して俺tueeeする所謂U-1ものか。どうせ祐一くんがなぜか初めて会ったヒロインから好意持たれたり、力を隠してランク低かったり、無駄に悲しい過去を抱えていたりするんだろう。強そうな敵キャラ出して一旦負けて、自分の過去を仲間に懺悔し、悲しみを乗り越えた先の友情パワーやらで互角の勝負を演じるも、敵キャラの覚醒に圧倒され、あわや負けそうなところでライバルキャラが駆けつけて一緒に敵倒して大団円、そしてエピローグでヒロインといちゃいちゃするんでしょ、はいはい。


……のはずだったんだ。


何も間違ってない。
上述した内容は決して嘘でも想像上のものでもなく、単なる事実だ。
本当に何一つ間違ったことは書いていない。
にも関わらずなんだこのSSの面白さはっ!?(笑)

ちょっとちょっと、もはや「Kanon」というゲームの登場人物の名前だけを借りた、まったく別の濃厚なダークファンタジーじゃないか。しかもヒロインなんてあれだけ濃い「Kanon」のヒロイン勢をすべて押しのけなんとオリキャラ。もはや原作の面影なんて名前とちょっとした設定しか残されていない。最初から半オリジナルって書いてくれよ!!(書いてます)
あー、ちくしょう。騙された。これは騙された。半端無く面白い。KanonSSの中でもトップクラス魔改造を誇っている癖に、間違いなくこれがKanon SSの中でトップクラスの面白さを誇るだろうと断言できる。主人公の過去に思わずホロリとしてしまうではないか。いや、ホロリじゃないな、なんでこんな生き方しかできないんだよってボロボロしてしまうのが正しいな。

物語の展開はまさしくテンプレといってもいいかもしれない。学園要素がないくらいか?いや、しかしそれすらも気にならないくらい、これでもかと厨二要素を搭載している。武器の二段開放とか、おいおいそれオサレ先生の得意技じゃないかと(笑) しかし読んでいる最中はそんな意識はどこ吹く風、熱い展開に思わず画面越しに息を張り詰めてうおおおぉぉ、と叫びたくなるくらい熱中してしまいました。
これこそまさにSSの醍醐味だよ。とても商業作品ではできない陳腐でテンプレート的な展開をものともせず、面白いものを面白く書いて何が悪い! と開き直るこの勢い。そして結果として凄まじく面白かった時のこの満足感。これだからSS読むのはやめられない。

やや特殊な文体ですが、ほとんど気にならずにすらすら読めました。特にこの作者の戦闘描写は圧巻モノ。ただ切り結ぶ描写をするだけが戦闘描写ではないと思い知らされるくらい、なんというか「かっこいい」です。厨二ともいいますが、今の時代のSSを見渡してこれほど純粋に自分の「かっこいい」と思うものを描写できている人が果たして何人いるか。
くだらない厨二は見飽きて、思わず息を呑むような厨二を見たい人にはおすすめのKanon SSです。