2012年9月20日木曜日

SSメモ: UBW~倫敦魔術綺譚

UBW~倫敦魔術綺譚(冬霞 / 夏色)

あぁ、この表面上はほのぼのとしていて、けれど裏で薄氷上に立っているような緊張感の混じったなんとも言えない空気感。まさしく原作Fateの日常パートを読んでいる時に感じた安心さと不安さであり、だからこそ否応なしにも話の先にパンドラの匣があることを予感させます。たとえ原作後のストーリーといえど、やはりFateSSの空気はこういうのでなければ。

UBWアフターを描くというのは、そもそもFateSSにおいてNGな行為として捉えられることが多いんですよね。というのもFateSS全盛期において「Fate/In Britain」と「Brilliant Years(へみるworldというサイトで掲載していたが、現在は観閲不可)」というUBWアフターを描いた2つの超大作SSがあり、この2つが双璧を成して他のSSを寄せ付けないほど人気を博してしまったからなんです。そのせいか読者もUBWアフターSSに求めるハードルがぐーんと上がり、生半可なSSを読んでも面白いと感じないどころか、見向きすらしないという状態になっているわけです。作者も作者で上記二作品を見ることなくUBWアフターを書く人はほとんどおらず、そして見たら見たでレベルの高さを目の当たりにして自然と書くのを自重してしまうという。

そういう状況だからこそ、もうこの手のSSは二度と見れないかなーと内心とても残念に思っていたんですが、そんな時にこのSSの登場ですよ。UBWアフター作品と銘打ってるわけですから、そりゃもう目が惹かれます。惹かれないわけがありません。どれどれちょいと顔を拝ませてもらおうかと自信たっぷりにスコップ携えて寄ってみれば、敷地を跨いで地面を踏んだ途端にずぶずぶと足が面白さという地面の穴に嵌り込み、スコップなぞもってんじゃねぇ!(若本ボイス)とこちらを飲み込んでくるではありませんか。これはもう見る他無い。というより抜け出せない。

かぁーっ、もうなんというかオリ主紫遙くんの不幸っぷりがたまんない。士郎って基本的に不幸なことでも大抵前向きに捉えてそれって不幸なの?を地で言ってくるから時々ものすごくイラっとくるんですが、この紫遙くんはむしろ「いいよいいよ……どうせ不幸だよ……」と半ば諦めがついてるので凹む様子の楽しいこと。やるときゃやるのに、なぜこうにもヘタレなのか。まぁ、あの蒼崎姉妹の元でこき使われていれば誰だってこうなるか。
凛もルヴィアも相変わらずで何より。この二人はどのSSでも本当混ぜるな危険状態ですよね。もっともこういう関係は羨ましい限りですが。ぶっちゃけ「似て非なる」からこそ「非なる」部分でわーわー物言いするんだけで、結局似てるところをお互い認めてるあたり似たもの同士って羨ましいなぁって思います。ある意味でエミヤと士郎もそんな関係だと思うんですよね。結局互いに嫌悪する理由がそこだったわけだし。もちろん片方が理想論で、片方が達観論なことは否定しませんが。でもその違いさえなければ、あの二人なにげに良いコンビだと思うわけですよ。誰かそんなSS書いてくれないかなー。二人がこたつで落ち着いて将来について話し合うSS。題名は流行りを取り入れて『士郎「おれ、正義の味方になる」エミヤ「たわけ」』で。

しかしよく書いたよなぁ、これ。
チャレンジ精神満載というか、真っ向からFateという作品を見つめなおしているというか。敢えてこの題材で書こうとするあたり、どこかに作者の伝えたい思いがあると思うんですけどねぇ。それは続きを読んでから、ということでしょうか。まるで昔ながらの家に現代の匠の技を取り入れるかのごとく、昔ながらのアフターと近年流行りのオリ主トリップを組み合わせた至高の一品SS。これぞまさに劇的ビューティフルビフォー&エクセレントアフター。もう古参FateSS読みとしては大歓喜ですよ。

惜しむべきはにじファン閉鎖騒動に巻き込まれて、あれだけの長編を今はちょっとずつ改稿しながら理想郷に投稿しているというところ。ぐぬぬ、見直したいけど見直せないこのもどかしさと、ちょっとずつ作品が更新されていくこの期待でドキムネな感じ。作者の焦らしプレイスキルは非常に高いと見た。


追記(2013年3月11日)

ハーメルンにて改定前の作品の投稿を確認。
UBW~倫敦魔術綺譚 (未改訂版)