2012年8月28日火曜日

SSメモ:Re:ゼロから始める異世界生活

Re:ゼロから始める異世界生活(鼠色猫)

昨日と同じ今日が延々と続くとしたら、それはまさしく絶望なんだろうなぁ。
人が自殺を考えるのは、辛いからではなく、辛いのがこの先延々と続く確信を抱いた時なんだと個人的には思ってます。日本の社会ってかなり固定化されていますから、ちょっとやそっとじゃ自分の立ち位置から抜け出せないんですよね。だからこそこんなにも年間で自殺者を排出しているんだろうと。まぁ、自殺の9割は他殺という言葉は言い得て妙なりですよね。

さておき、この作品は主人公のスバルくんが死んだら特定の時間軸まで記憶を保って戻ってくる死に戻りループものです。

ループ、そうループ!!

まさかSSでこのネタを使ってくるとは思いませんでした。ノベルゲームなどではすっかりお馴染みの手法なわけですが、ことSSになるとなかなか難しい。なにせ周回プレイという概念がありませんからね。しかしそれを逆手に取り、「周回プレイで少しずつ情報を得ているプレイヤー」自体を描けばご覧のとおり、この作品の完成ですよ。

たぶんこの手の死に戻り設定は既存の作品として(あるいは既存のジャンルとして)存在しているんでしょうけど、少なくとも私が知る限りこのSSほど優秀に、それでいて薄ら寒さを感じさせるようなものはありません。無駄に明るい性格をしている(努めている)ちょっとバカで一途なスバルという主人公だからこそ、一見重い設定にもポップな雰囲気が醸し出されていますが、これ普通の個性のない主人公でやったらめちゃくちゃ重苦しくなるぞ(笑)
仲良くなった人から他人行儀な目で見られ、必死の繕いはさらなる不信を呼び、かといってこれまでのことを一切忘れて過ごそうにも制限時間が課せられ、その先には絶望しか見えない……。おいおいおい、冗談じゃなくこれ主人公がスバルくんでよかったと思えてきたよ。基本的に芸人体質なスバルくんがいるだけで、コメディチックな舞台と登場人物とのコントのような掛け合いが生まれるので、シリアスだけじゃなく物語の空気を味わえます。

1章の時点ではまだ物語の方向性が見えなかったんですよね。スバルくんがこの謎ワールドに突入して、傷つきながら文字通り命を代償に多くの情報を得て、なんとかこの世界で生きていくための基盤を作ることに成功した、というまぁありふれたお話。ちょっと変わった異世界ものだなぁとしか思わなかったんですが、2章で世界から突き放されてどん底に落ちた瞬間は、ループしてないこっちもズシンと腹の下に何かが来るような感触がありました。見てられない、という状況をまさかSSで味わう日がこようとは思っても見なかったので、だからこそ余計に作品の行方を見届けたくなるんですよね。

現段階で物語としてはようやく世界の全容が見えてきたところ。なぜスバルが死に戻るのか、魔女の正体とはなんなのか、どうして1章が存在したのか、様々な謎を提示しつつ風呂敷を広げていく作者のSSを魅せる力には感嘆を覚えます。

だがしかし、テヘペロ☆はいただけないぞ、スバルくん。
そこはせめてメンゴ♪って謝らないと。(3章13話)