2012年12月15日土曜日

SSメモ:涼宮ハルヒの微笑

涼宮ハルヒの微笑

古くから二次創作SSを読んでいる人はなんとなく感じていると思うんですが、原作の穴や矛盾をついたSSって数多く存在するんですよね。もっと具体的に、原作キャラクターの行動信念や発言などでストーリーや現実と矛盾している箇所に対し、独自の見解を加えるSS、と言ったほうがいいかもしれません。FateとかヱヴァなんかのSSってこういうの多いですし。近年になってからは原作のこうした点に対して、いわゆるSEKKYOやアンチ・ヘイトというスタイルで指摘をするジャンルが増えていますが、これって「この物語を作者はこう解釈した!」っていうだけであって、別に新しくも何ともないわけです。作者や読者がどう思っているのかは知りませんが(安易にアンチ・ヘイトは嫌だ! というのは作品ジャンルに対する侮辱でもあります。安易にアンチ・ヘイトを描くのも原作に対する侮辱ですが)。

でもこういう解釈系(SEKKYO含む)の作品ってほとんどが、本当のところ原作に踊らされているのだと思うんですよ。敢えて物語に穴を用意して解釈の余地を残しておいたり、反発する意見がでるようなことをキャラクターに言わせたりしている原作って多いと思うんですよね。いや、正確にいえば原作者の頭の中にある物語が作品として描写される過程において、取りこぼされてしまった箇所が穴になった結果として解釈の余地を残したり、キャラクターを印象づけるために極端に思想を偏らせた結果、他の多様な思考を想起させるようになったりしている、とした方がいいかもしれませんね。意図的かそうでないかはともかく。

で、結局のところこうして作られた原作の穴にのっかって、二次SS作者は自分の考えた合理的な解釈をSSにしているわけです。なので大抵の作品は原作に躍らされることを強いられている(いや、別にこれが言いたかったわけではありませんよ? 本当デスヨ?)わけです。ところが一部のSSはそうやって踊らされずに、なぜこの物語の穴や矛盾が発生したのかを考えているわけで。もちろん答えなんてないわけですが、なぜを追求した結果出た結論に整合性があればあるほど、SSの説得力がまして物語の深みがでるわけです。つまるところ用意された舞台で踊るのではなく、舞台の生い立ちを考えることがいいSSにつながる秘訣だと思うんですよね。(当然例外もあるので個人的な体感でこういうSSは面白いことが多いというだけです)

さて、なぜこんなことを初っ端から長々つらつら書いているのかというと、この「涼宮ハルヒの微笑」という作品はまさしく原作の穴に真っ向から挑戦しているSSだからです。キョンの一人称一人語り視点を再現しているのはもちろん、原作の矛盾や謎だった組織のことなどを鮮やかに合理的に「なぜ原作でこうなっていたのか」を突き詰めて解釈していく様は、まさしく解釈系SSの鏡ともいえるでしょう。もちろんストーリー進行のほうも実に構成がしっかりしており、泥臭い行動や伏線回収の手法、セリフに対する感情の込め方など、もはや芸術の域といってもいいくらい。特に物語終盤の長門とキョンのやりとりなんかは鳥肌が立つほど素晴らしいと感じましたね。何度も何度も原作を読み返し、明らかにされていない箇所には独自の切り口から分析を加え、どのようにすれば原作に支障を来さずSSを作れるかを黙々と考える作者の姿が目に浮かぶようです。これには本当まいった。原作以上に原作らしいという二次創作SSにとって最上級の褒め言葉すら霞んでしまうほどの出来です。

このSSの恐ろしいところは原作が未完であり、かつSFの舞台装置をラノベにもってきたとも言われる涼宮ハルヒの憂鬱という作品に対して、独自の解釈をしていったことでしょう。なにせ矛盾しかないジャンルNo.1といっても過言でもないSFというジャンルに対して、ラノベ風にテイストされているとはいうものの合理的に解釈しようというなんて正気を疑います。というか普通は途中で破綻してしまうものだと思うんですが、よりによってそれをこのレベルの作品に仕上げるのは常識はずれもいいところ。作者不詳がもったいないほどです。このSSを書いた人にはもっといろんな場所で活躍してほしいですね。

追記(2013年4月20日)

作者様が判明しました。名乗り出ていただいて、ありがとうございます。
……うん。私の調べが至らなかったというだけで、普通に作者は判明していたというね!
というわけで反省も込めて記事本文の内容はそのままにしておきます。。。

さらに追記(2013年5月8日)

誰が作者か論争が起こっているそうなので、ひとまず作者の名前を消しておきます。正直議論が水掛け論になっていて、いきなり「どうも作者です」と言われてもそれこそ単なる荒らしにしか見えないので、あまりこういう措置は採りたくなかったのですが、ちょっとコメント欄が炎上気味だったので仕方なしにこの形になりました。ご了承下さい。

2012年11月28日水曜日

SSメモ:ログ・ホライズン

ログ・ホライズン(橙乃ままれ)

もしもゲームの世界に入り込んだら。

わりかしこのSSはネトゲものというかVR(正確には違うけど)とかで紹介されることが多いんですが、個人的には本質は上にある通りゲーム世界に迷い込んだら、だと思うんですよね。
というのも、ネトゲものにしては正直いろいろ腑に落ちないところが多いからです。定番のデス・ゲームものでもなく、リアルとの駆け引きがあるわけでもない。ネトゲという異世界に突入したにしてはあまりに現実を引っ張っており、かといって転移にしてはあまりにゲームじみている。いまいちどのジャンルもしっくりこなくて、なんなんだろうなーとぼんやり考えた所、最終的に行き着いたのがゲーム世界に突入というジャンルでした。

正直なところあれですよ。思い至ったときは、そういえばそんなジャンルもあったなと思うくらい、昔のジャンル過ぎて望郷の念が立ち込めたくらいです(笑) いやしかし、もはや二次創作系列の作品以外では絶滅したと思われるこのジャンルを、よくも敢えてやろうと思えたものです。商業作品だと編集さんにプロット提出した段階で「VRだと差別化が難しいので他のにしましょう」とか「独自のゲームだと世界観の説明がしつこくなる」とか言われてまず間違いなく企画倒れでしょうね。読んでみないとこの面白さは中々伝わらないものですよ。

さてさて作品のジャンルはいいとして肝心の中身についてなんですが、これまたなんというかお手本のようなキャラクターの作りと話の展開です。ちょっといじわるな言い方をすれば歯車のようなキャラと機械仕掛けの物語、とでもいいましょうか。とにかく主人公の腹ぐろ眼鏡ことシロエを初め、多くのキャラクターが本当に見事なまでに記号化された特徴をもっており、それらが活かされた話しの進め方がされるため、いい意味でこのキャラは現実にはいないし、この話はフィクションだという実感が沸くんですよ。フィクションだとわかっているからある程度の棘が立つキャラの言動も目くじらを立てずに済むし、ご都合主義的な展開にもカタルシスを感じることができます。すばらしいポジショニングですね。

お話としてはネットゲームの世界で主人公たちが活躍するという形なんですが、レベルの暴力やらレベルを上げて物理で殴るやらがないため大変すばらしい出来です。ゲームならではの面白さに加え、ゲーム固有の概念を用いた問題解決法の提示、そしてそこにさらりと稼ぎ方やネゴシエーションの秘訣を入れてくるあたり、さすがの橙乃ままれ氏であると言わざるを得ません。話の後半になってくると今度は格差・自治・経済といったキーワードを入れてくるという贅沢さ。話しのスケールも大きくなってくるし、世界の謎にも迫ってくるし、恋の行方も波瀾な予感だし、いろいろと目が離せない状況です。

それにしてもこの橙乃ままれ氏である。
代表作の「まおゆう」からわかっていたことではありますが、一筋縄ではいかない物語の展開は舌を巻く勢いで毎度驚かされます。前半はそうでもないんですが後半からの群像劇っぷりに磨きがかかると、拍車をかけるように物語が面白くなるのはいったいどういうトリックなんだろうか。王道に一風変わった独自解釈を付け加え、世界観を広めた上で改めて王道に戻るという一連の流れに関しては、もはや崇拝するレベル。このSSの今後の展開が非常に気になります。ただいかんせん橙乃ままれ氏本人の忙しさが尋常じゃなさそうなところが難点。首を長くして更新を待ち続けたい一作。

あ、ちなみに文庫版も出てるのでネットがダメな人はぜひ。あと公式ホームページでコミカライズ情報だったり外伝(元は小説家になろうで掲載していた)だったりが出ているので、ファンの人は要チェックかも。

2012年11月2日金曜日

SSメモ:幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens

幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens(カルロ・ゼン)

うわっ、うっわー……なんだこれは……。

もう感嘆の息しか出ませんよ、これ。よくもまぁ世界大戦を2つ混ぜてこねて、きちんと形として仕上げているものだ。コーラとペプシを混ぜたらよくわからないすごい炭酸飲料ができたよ! と無邪気に喜んでるみたいで、なんかもうこの時点ですごく狂気じみてる。いや、一度は妄想したことありますよ? 大戦2つ混ぜればすごい戦争になるんじゃないかって。2度に渡る大戦において、それぞれ特筆して大きく技術が発展しており、苛烈極まる塹壕戦がいかに凄惨か、そしてそこでどんなドラマが生まれるだろうか、さらにそこに焦土作戦やら核やらが登場してくるとどうなるのか、戦記が好きな人なら多少なりともそこにロマンを感じるはず。

しかし、しかしだ。
そこには多大な困難が待ち受けていることは言うまでもない。
そもそも一般的な人は戦争なぞ知らないし、海外でやってるどんぱちなんぞテレビで知る生ぬるく過激な現状をのほほんと眺めているし、地元のとち狂ったヤクザの総本山でもない限り、こんなにも戦争末期の雰囲気万歳!みたいな頭のネジが飛び散った感想などは抱かないものである。またかなり専門系の人、いわゆる軍オタ、ミリオタになってしまうと、これもやや個人の頭の中で全てが完結しやすく、そうした人間に限ってなかなか自分独自のものを生み出し難いものである。

だがそれを容易くやってのけ、ドイツのルーデルを彷彿させるような主人公を投入し、戦時の英雄と讃えられるなど、まさしくフィクション戦記の王道であり、狂気じみた思想や特別なカリスマ性、歴史造形の詳しい解説は、この物語が提供する一つの完成されたテイストに違いない。そして何とも恐るべきことにこの物語には人を魅了してやまない幼女人の儚さを冷酷なまでに余すところ無く描いている。軍人のジレンマ、理論と現実、狂気と理性、宗教と道徳、それらの題材すらもミックスさせ、戦場における倫理の問題などを逃げることなく扱い、全てを大戦にぶちこんでいる。これを狂気の沙汰と呼ばずになんと言おう。

読み進めている内に、体の内側から見えない何かに食い破られているというか、これまで知ってて、でも見向きもしなかったものに真正面から対峙してしまった時の戸惑いというか。サンデル教授の講義みたいに、いろいろ曖昧に濁して逃げていたものを改めて考えさせられるんですよ。それもこれも主人公の幼女が悪い!! つーかどういうことだよ、作者さん……。潤いで投入してるんだろ……戦時なんだろ……。普段気難しい軍人が魅せるちょっとした恥じらいとか、ぐへへな展開とかもちょっとくらい期待していいじゃないか……。(外道

まぁそれはさておき。

改めて戦時のどうしようもない空気というものを感じた気がします。
どうにもこういう破滅的な話とかはやや苦手なところがあるんですが、ついつい見てしまうんですよね。戦記もので連戦連勝してるやつも好きと言えば好きなんですけど、このSSみたいな硝煙と血が入り混じったリアルな匂いのするやつも定期的に見たくなるときがあるんです。別に破滅願望とかないはずなんですけどねぇ。なんかあれだ、恋すらしていないのに失恋の歌を聞いて心が苦しくなるようなあんな感覚ですよ。うん、ほぼそんな経験ないけどね(

2012年11月1日木曜日

SSメモ:死神を食べた少女

死神を食べた少女(七沢またり)

なんというか、本当に見当違いな感想なのは承知しているんですが、どうにもこの物語は童話みたいな印象を受けてしまう。物語を通して何かを語りかけられているような、一見単純な話の裏で、何かとても大切なものを教えられているような、そんな感覚です。ちょっと待てよ、こんな狂気じみた主人公が、さらに狂気じみた部下を引き連れて戦争するこの物語のどこが童話なんだ、と多方面の方からつっこみを受けてしまうかもしれませんが(笑)

さてさて、間違ってもこのお話は心温まるお話でも、ましてや何か教訓じみたものを語っている作品ではありません。むしろ平気で人が死に、洗脳じみた思想を淡々と描写しているという、ダークファンタジー真っ青な作品です。大好きですよ、こういう化けの皮をかぶったような作品(

少女シェラは空腹から死神を食べて、非常識な力を手に入れています。結果的にはこの力によって立身出世していったので、ちょっと形を変えたチートものと読めなくもない。転生トラックとかのパターンからはみ出したチートモノというか。あれですね、むしろ「ある日突然力に目覚めた俺は……」って導入の方が近いかもしれません。近年でこういう書き出しにチャレンジできるってとても大切な心意気だと思うんですよね。やれ魔法の設定がどうのこうの、主人公の過去はどうのこうのって考えるのもいいんですが、王道そのままで内容を面白くすればだいたい物語は面白くなるよって示してる作品な気もします。といっても、読んでる最中はまったくそんなことを意識しませんけどね。何度か読み直している内に、そういえばこれって敢えてジャンル分けとかしたらこれになるよね、と気づいただけです。

いやでもこれを主人公最強モノってジャンルで区切ると詐欺になる気しかしない。だからといって死神モノと言われるとまったくそうじゃないし、戦記というにしては、いまいち全体の動きが足りない。恋愛要素とか海に投げ捨ててるし、涙誘う展開とかカタルシスがマッハみたいでもない。なので結論としてはザ汎用性キング「ファンタジーモノ」となるわけですが、これのどこがファンタジーなのかイマイチこの表現も厳しい。というわけで結論として「ファンタジーな戦記っぽい死神モノの皮をかぶった何か」というのが正しいですね。うん、なんのこっちゃ(

それにしても注目すべきは少女シェラもそうですけど、その部下たちですよね。
よく小説や漫画にあるような死を恐れない人形兵士というのが描写されますが、まさしくそうした人物像にぴったり当てはまるんですよね、彼ら。といっても正直なところ、こうした人たちって取り立てて特殊な人たちってわけじゃないんですよ。60年前の日本だってこんな人達がたくさんいましたし、おそらく現代の人だって死を恐れないことはないにしても、誰かカリスマ性のある人を信奉してやまない人はたくさんいます。創業者万歳な企業の幹部とか、起業家に憧れる学生とか、もっと身近でいえば故マイケル・ジャクソン氏なんかたぶんファンに何かしてほしいといえば、かなりの確率でそれが実現したと思うんですよ。つまりはそういうことなんです。誰もがシェラの部下のように狂気に染まる可能性があるし、そこに特別な才能や努力って必要ないんです。このSS読んで自分はこうはならないと確信している人ほど、たぶんなる可能性高いですよ。だって何の根拠もない自分の感情で判断を確信できるわけなんですから。

それにしてもなんでこの物語が童話だと感じたんだろうか。こうした部下たちの一件や王国とかの隆盛をきちんと描いているところに、何かひっかかっているのかも? いずれにせよ何度か読みなおしても面白さは褪せない点においては童話と似てます。書籍化するのもなっとく。むしろ今後はこういう童話も読んでみたいな。大人向けの童話というか。

しかし一人の少女を通して描かれる世界が、こんなにも小さく、けれどとてつもなく思想にあふれているのを見ると、リアルな世界もいろいろ考えることに飽きない世界ですよね。

2012年9月27日木曜日

報告と募集

時は無情なり。

どうも、管理人のClownCatです。
いつもブログを見ていただき、大変ありがとうございます。おかげさまで、つい先日ブログの掲載SS件数が30件に達しました。最初は「ブログ、三日坊主にならないかなぁ。むしろ一日坊主にならないかなぁ……」と心配していましたが、思いの外多くの読者さまに恵まれ非常にいい刺激になりました。ここまでSSメモを追加していけたのも、訪問してくださっている皆様のおかげです。この場を持って感謝の意を示したいと思います。

さて、前書きはこの程度にとどめて本題なのですが。

ここ数日、ブログの更新が安定せず申し訳ありません。
実はこの時期になぜか新生活(?)が始まり、帰宅の時間が遅くなってしまいました。帰ってきてからもやらなければならない作業があり、しかもその締め切りが今月末という新生活早々にして慌ただしい日々を送っています。

twitterをご覧の皆さんはご存知かもしれませんが、SSメモを一つ書くのに今のところおおよそ2時間程度かかり、現在のライフスタイルではちょっと更新が難しくなっています。もっとSSメモを書く時間を短縮できるといいんですが、これがなかなか……。現状ですら頭の奥から語彙を毟りとって、おらおらといじめ抜いた末に、なんとか及第点くらいは出せるかな? といった感じでして、とてもこれ以上は「む、娘だけはっ!!」と悪代官に懇願する平民状態です。文章のクオリティを下げれば更新できなくもないですが、今以上にクオリティ下げるとまともに読めない文章になりますし、そんなことしても読者も自分も幸せになれないし、そして何より真剣にSSを生み出した作者様に失礼なので、そういうことは誓ってしません。したくもありません。

そんなわけで当分の間、以前のように毎日更新ということはできません。おそらく数日おきに現実逃避がてらSSメモが追加されていくと思います。まぁ、そもそもを言えば、おそらく作品数が50を超えたあたりで、現在読み返している作品のストックも切れてしまうわけで、いずれはこういう日が来ると思っていましたが。見通しの甘さが如実に現れていますよねー(
毎日多くの人に訪れていただいたにも関わらず、こうした報告も遅れてしまい本当すいません。できるだけ早く今の生活を安定させて、ブログの安定更新を心がけたいと思います。えぇ、大丈夫です。私に任せてください。私を信じてもらえれば、今なら5万円がたったの1ヶ月で100万円に(

さておき。

ちょっと上でも書きましたが、おそらく読み返したいSSが50を超えたあたりでなくなってしまうと予想されます。そこでブログ読者様から「読み返したいおすすめSS」を紹介していただきたいのですが、いかがでしょう。紹介されたものを読んですぐに掲載! とかはブログの性質上難しいですが(読み返したいと思えるSSを紹介するので、実際に読み返したことのないSSは載せません)、読み返すほど夢中になったSSに関しては、できる限りSSメモとして記事にしたいと思います。

twitterやメールフォームはもちろん、どの記事でも構わないのでコメント欄におすすめのSSをコメントしていただければ目を通したいと思います。SS紹介ブログのくせに逆にSS紹介してくださいという何とも突っ込みどころ満載な提案ですがよろしくお願いします。でも他人が読み返したいと思うSSってどんなものか気になりません? もしそこで趣味が合えば素敵な話ですよね。この小さなブログコミュニティで、同じ趣味の人に出会えるんですから。

2012年9月24日月曜日

SSメモ:武器屋リードの営業日誌

武器屋リードの営業日誌(五月八日)

なんというか、武器屋ってこれくらいがちょうどいいですよね。
変に強くなくて、変にキャラ作ってなくて、変にこだわりがなくて。頑固一徹! って感じの武器屋も好きなわけですが、現実あんな職人気質な人がごろごろしていたら立ち回らないわけで、本当これぐらいアバウトなくらいがちょうどいいと思うんです。

というわけで何のことやら普通の武器屋の店主が平凡ではない物語に巻き込まれるお話。これなんというか舞台仕掛けがうまいんですよね。武器屋、という特性を活かした物語の作り方は絶賛モノ。理想的な起承転結、そしてオチの付け方をしているので、いろいろ物書きにとっては参考になることが多いです。しかも章が進むに連れて、微妙に話の組み立て方を変えてくるし。ここでこう来る! と思ったら実は来ず、なにもないだろうと思っていたら残念事件でしたー、と飛び出す始末。しかもオチを毎回笑いやら泣きやらバリエーションを付けてくるので、読後感が非常にいい。一つの作品が連載しているにも関わらず、いろんな短編を一気に読んでいる感覚があります。

ぱっとこうした一般的な武器屋が活躍するSSって思いつかないんですよね。ライトノベルだと「七人の武器屋」とか、一応武器屋ものなのかな。あれはあれでいい作品でしたけど、この作品はより1人の武器屋に焦点をあてて、その人が巻き込まれる様子を手にとって楽しめます。こういってはあれですが、奇をてらわないで専門職を活かした作品って商業、ネット小説に関わらず、珍しいものです。あ、でも一般小説の方ではそうでもないか。経済小説とかもあるし。といっても、あれはあれでちょっと指向性が違いますが。

主人公のリードがこれまた不幸なのか幸運なのかよくわからない境遇で、しかしそれでも前向きに頑張っているあたり、なかなかいい主人公面してます。2章あたりから人物像もはっきりしてきて、あぁこいつは苦労人だなぁって思えるようになりました。始めはややきざったいというか、お人好しのお兄さんみたいな感じだったのですが、なんともいろんな話を見ている内に以外に現実主義だとか、でも絞めるところは絞めて、きちんと人助けするところとか、うん、なんというか生の人間だよなぁ。信用裏切られたのを高い授業料と捉えることのできる人間って案外少ないもんですよ。

しかし、なんとも表現しにくいこの文章から受ける印象。
作者から、とびっきり前線にたって流行をつくる! みたいな突出した才能は感じられないんですけど、それでも安定して良作を提供してそこそこのファンがついて、業界全体の質を保つのに貢献しそうな感じ。縁の下の力持ち的な何か。素直に綴られた文字から誠実さを感じるんですよね。作中でほら吹いてても、あ、このお話はそういうお話なのかと信じそうになるくらい、なんというか文章から物語を信じさせる力が発信されているんですよね。おかげで最初は騙されました(笑)

あと特筆すべきはキャラ立てです。
短編なはずなんですが、なんともどのキャラもきちんと物語に存在しています。レギュラーメンバーのクレアはもちろん、1章にしか登場しないキャラや、2章の友人キャラも、決して突飛なキャラではないんですが、一度読んだらこいつらいたなぁって思います。読み返しても「そうそう、こいつあとでこうなるんだよなぁ」と、予想通りのランダム性みたいな気分で読めます。

あんまりいいたくはないんですけど、正直言って、SSの質的にはちょうど全ネット小説の中間くらいに位置しているのかなーと思っています。テンプレコピー作品は除外するとして。特別優れているわけでもなく、かといって特別劣っているわけでもない。気軽に読める、安心して面白さがある、定番の品、みたいな。ポテトチップスで言えばうす塩。特別好きではないけど、安定しておいしいものがほしいならこれ、とか。だからこそ、万人におすすめできる読み返したいSSだと思います。

2012年9月22日土曜日

SSメモ:魔法の世界の魔術し!

魔法の世界の魔術し!(泣き虫カエル)


泣きたくなるくらい平凡で丁寧で繊細で、まるで竪琴の音色を聞いているかのごとく心が静まるというか、間違いなく読んでて癒されます。Fateとネギま!のクロス作品は数あれど、自分にとってはこの作品が原点なので、いろいろともしかしたら過大評価しているかもしれませんが、それでもこんな優しい文体で物語が紡がれているのは他のクロスではなかなか見られない。

衛宮士郎とエヴァンジェリン。
かたや正義としてにっちからさっちまでえっちらおっちら戦場見たらどっこいしょとどこにでも現れる正義の味方で、かたや悪としてにっちからさっちまでえっちらおっちら戦場見たらそそくさと関わらない闇の福音。結局士郎は自分から関わり、エヴァは他人から関わられるので、力が必要になるのはどっちも同じなんですが、改めてこうも二人が揃って歩いているのを見ると、なんだか不思議な気分です。この二人の心情をとくと描写し、ゆっくりその日常を描いているところが、作者わかってる。

設定としてはもはやテンプレートですね。士郎がどこかから麻帆良に転移するという、そしてエヴァと最初に鉢会うという、どこにでもありふれた展開。といっても、作品ができた当時はまだまだこの設定も現役で、むしろこの作品がテンプレート展開の一助となっているのではないでしょうか。そのあたりを事情を考えて序盤読むと、いろいろ感慨深い。あの作品はここからこういう風に派生したよなーとか、あの作品はそもそもこういう展開から避けたよなーとか、いろいろ読んできたSSを思い浮かべます。

冒頭でも書いたんですけど、すごく展開が丁寧なんですよね。
士郎が世界の違いに驚くのとか、もはや誰も書かないだろうなぁ。書くのを面倒くさがって、これはあれか平行世界というやつか、という一文で収まってしまう。そこでわざわざ考察するのもしない。士郎ってエミヤに近くなればなるほど思慮深くなるんだし、ある程度戦闘能力持ってるならそういうところちゃんと書いて欲しいなと思うわけで、このSSは見事にそこに応えてくれています。まぁ、士郎がちょっとすぐに慣れ親しみ過ぎというのが違和感あるところですが、なでぽほどじゃないのでそういう作品だと思ってスルー。刹那とまじめに戦闘しているところとか、それも実力のゴリ押しではなく非常に狡猾に勝っているところとか見ると、こいつ結構実力はエミヤに近いくせに士郎のままだよなぁ。

あぁ、あれだ。
なんというか文章から優しさとか繊細さとか感じられるけど、根本的にあるのは切なさだ。この士郎、正直言って世界に居るものの、常にどこか遠くを見ているんですよ。客観的というか。もちろん弓矢を投影してエヴァに当てて楽しむという、おいこらほのぼのしてるなぁ! と思う場面とかあるわけですが、どうにもいつか自分はこの世界からいなくなるという前提で動いているようにしか見えない。他人と深く関わることはなく、それはエヴァとの関わり方も同じで、刹那の師匠しているわりに事情に踏み込まず、結局流れるままに生きている。文体にもそれがところどころにじみ出ているんですよね。独白するところとかまさにそんな感じですし、まかり間違っても桜ルートのような士郎には見えません。

投稿数少ないと思われますが、実は本当はもっともっとあって、具体的には超が出てくるあたりまで分量ありました。にじファン以前からずっとファンだったのですが、どうにも何度となく掲載場所が移転したのを受けて、さらに読者のよくわからない辛辣な感想で、現在はもうモチベーションが維持できず更新ストップしています。完結まで書いてあるというのにもったいないとおもいますが、それ以上に作者の方が大丈夫かどうか気になります。ちゃんと静養できていればいんですが。二度とこういう作家のモチベーションを奪わないよう、読者の方には気をつけてもらいたいんですけどねえ。

2012年9月21日金曜日

SSメモ:Eternal Snow

Eternal Snow(神室儀)

俺が、俺達が、U-1だ!!

いや、いきなりこいつ大丈夫か?みたいに思わないで下さいね。なんというか改めてこのSSを見なおして最初に出てきた感想があまりにもこの言葉通りだったので、ちょっと衝動的に書いてしまいました。本来ならもっと熟考して推敲してその上でSSメモを載せているのですが、どうにもこの言葉だけは消せませんでした。それくらい我ながら的確な感想だったわけです。

さて、前置きからもわかるように、このSSはいわゆるU-1系の鍵作品です。それも鍵以外のブランドも含めて5作品くらいクロスオーバーさせた、ようするにごった煮ファンタジーSSです。クロスオーバーというだけで忌避する人がいるかもしれませんが、大丈夫です。

このSSはU-1ものです。
ようするに、原作なぞ知らなくても読めます(

というかU-1ものになると、原作に沿った展開している方が面白くなくなります。キャラだけを借りたほぼオリジナルSSと見ていれば、普通に楽しめます。もちろん原作知っているとより具体的にイメージできるので楽しめるかもしれませんが。鍵作品で繰り返し読みたいSSって大抵が巷でU-1と言われる作品になってしまうんですよね。母数的にもおそらく多い方のジャンルでしょうし。でも特別そういった要素が好きな訳ではなくて、どちらかといえばそういったテンプレは遠慮したい側です。流行の転生トラックとか神様転生とか、正直なところその要素いらないんじゃないかと常々思っていますし。
ただ、そうしたSSの中でもまた改めて読み直したいと思えるSSがあるのは、純粋にそのSSがファンタジー(あるいはSF、あるいは普通の現代作品)として魅力的な世界観を作っているからなんですよね。結局のところ、どんなにテンプレートで陳腐な展開をしていようが、面白いSSであれば問題ないわけですよ。それこそ二次創作なんて始まり方がたいてい同じなわけですし。で、かなり遠回りになってしまいましたが冒頭の感想はどういう意味かというと、

このSS、主人公的な存在が5人いて、皆がU-1っぽく魔改造受けてます(笑)

いや、意味がわからないかもしれませんが、実際そうなんです。KanonからU-1こと祐一くんと一弥くん、ONEから折原くん、ダ・カーポから純一くん、それ散るから舞人くんが出演しているという、時代を物語っているようなこのメンツ。こいつらがそれぞれ違う地域を舞台に、活躍していくわけですが、これが面白いの何の。っていうか祐一以外馬鹿しかいないせいで、こいつ1人万年苦労人になってるんだけどw ブラコンにシスコンに唯我独尊が二人。哀れ、祐一。姿隠して戦ってるくせに、苦労人じみたところがにじみ出てるよ、あんた……。

学園もので、強さにランクがあって、世界に人類の敵が存在し、主人公達かなり力があるけど学園では隠してて弱者に見られてるという、これでもかと厨二要素を詰め込んでいます。しかも復讐のために力をつけているという設定なので、サスケェも顔負けです。もっともだからといって作品の空気が暗いかと言われるとそうでもなく、どの主人公もさすがの主人公であると思わせるほど、いろんな意味で明るいんですよね。

物語は第一部終了といったところ。この展開がまた憎らしい。というかこの展開がなければ、繰り返し読みたいとは思いませんでした。第2部は主人公たちがこれほどまでに明るくなれるきっかけを与えた2人の先輩たちが紡ぐお話です。クロスオーバー作品がこれでまた一つプラスされるわけですが、これくらい開き直って独自に展開してくれるのならこれはこれでありだと思います。連載さえ止まっていなければなっ!!!

2012年9月20日木曜日

SSメモ: UBW~倫敦魔術綺譚

UBW~倫敦魔術綺譚(冬霞 / 夏色)

あぁ、この表面上はほのぼのとしていて、けれど裏で薄氷上に立っているような緊張感の混じったなんとも言えない空気感。まさしく原作Fateの日常パートを読んでいる時に感じた安心さと不安さであり、だからこそ否応なしにも話の先にパンドラの匣があることを予感させます。たとえ原作後のストーリーといえど、やはりFateSSの空気はこういうのでなければ。

UBWアフターを描くというのは、そもそもFateSSにおいてNGな行為として捉えられることが多いんですよね。というのもFateSS全盛期において「Fate/In Britain」と「Brilliant Years(へみるworldというサイトで掲載していたが、現在は観閲不可)」というUBWアフターを描いた2つの超大作SSがあり、この2つが双璧を成して他のSSを寄せ付けないほど人気を博してしまったからなんです。そのせいか読者もUBWアフターSSに求めるハードルがぐーんと上がり、生半可なSSを読んでも面白いと感じないどころか、見向きすらしないという状態になっているわけです。作者も作者で上記二作品を見ることなくUBWアフターを書く人はほとんどおらず、そして見たら見たでレベルの高さを目の当たりにして自然と書くのを自重してしまうという。

そういう状況だからこそ、もうこの手のSSは二度と見れないかなーと内心とても残念に思っていたんですが、そんな時にこのSSの登場ですよ。UBWアフター作品と銘打ってるわけですから、そりゃもう目が惹かれます。惹かれないわけがありません。どれどれちょいと顔を拝ませてもらおうかと自信たっぷりにスコップ携えて寄ってみれば、敷地を跨いで地面を踏んだ途端にずぶずぶと足が面白さという地面の穴に嵌り込み、スコップなぞもってんじゃねぇ!(若本ボイス)とこちらを飲み込んでくるではありませんか。これはもう見る他無い。というより抜け出せない。

かぁーっ、もうなんというかオリ主紫遙くんの不幸っぷりがたまんない。士郎って基本的に不幸なことでも大抵前向きに捉えてそれって不幸なの?を地で言ってくるから時々ものすごくイラっとくるんですが、この紫遙くんはむしろ「いいよいいよ……どうせ不幸だよ……」と半ば諦めがついてるので凹む様子の楽しいこと。やるときゃやるのに、なぜこうにもヘタレなのか。まぁ、あの蒼崎姉妹の元でこき使われていれば誰だってこうなるか。
凛もルヴィアも相変わらずで何より。この二人はどのSSでも本当混ぜるな危険状態ですよね。もっともこういう関係は羨ましい限りですが。ぶっちゃけ「似て非なる」からこそ「非なる」部分でわーわー物言いするんだけで、結局似てるところをお互い認めてるあたり似たもの同士って羨ましいなぁって思います。ある意味でエミヤと士郎もそんな関係だと思うんですよね。結局互いに嫌悪する理由がそこだったわけだし。もちろん片方が理想論で、片方が達観論なことは否定しませんが。でもその違いさえなければ、あの二人なにげに良いコンビだと思うわけですよ。誰かそんなSS書いてくれないかなー。二人がこたつで落ち着いて将来について話し合うSS。題名は流行りを取り入れて『士郎「おれ、正義の味方になる」エミヤ「たわけ」』で。

しかしよく書いたよなぁ、これ。
チャレンジ精神満載というか、真っ向からFateという作品を見つめなおしているというか。敢えてこの題材で書こうとするあたり、どこかに作者の伝えたい思いがあると思うんですけどねぇ。それは続きを読んでから、ということでしょうか。まるで昔ながらの家に現代の匠の技を取り入れるかのごとく、昔ながらのアフターと近年流行りのオリ主トリップを組み合わせた至高の一品SS。これぞまさに劇的ビューティフルビフォー&エクセレントアフター。もう古参FateSS読みとしては大歓喜ですよ。

惜しむべきはにじファン閉鎖騒動に巻き込まれて、あれだけの長編を今はちょっとずつ改稿しながら理想郷に投稿しているというところ。ぐぬぬ、見直したいけど見直せないこのもどかしさと、ちょっとずつ作品が更新されていくこの期待でドキムネな感じ。作者の焦らしプレイスキルは非常に高いと見た。


追記(2013年3月11日)

ハーメルンにて改定前の作品の投稿を確認。
UBW~倫敦魔術綺譚 (未改訂版) 

2012年9月19日水曜日

SSメモ:真・恋姫†無双で部下をやってます

真・恋姫†無双で部下をやってます(BBB)

駄目人間に仕える快感を教えてくれる恋姫SS。


……いや、冗談ですからね? そんな「何このマゾ、ひくわぁ……」って視線で見ないでくださいよ。ビクンビクン。


とまぁ、それはさておき。
恋姫SSの中にはこのSSのようにたまーに袁紹とか袁術とかに仕えるSSがあるんですよねー。主人公が一刀くんかオリ主かで別れるかは別として。最初の頃はそうしたSSを敬遠していたんですが、このSSを読んで以来、すっかり駄目人間の素晴らしさに気が付きましたよ。オリ主モノなのにすっきり読めたのも大きいかもしれません。なんというか、ダメなのが逆にいいんですよねー。自分がしっかりしなきゃという意識と、どうにもならない現実の狭間で苦悩する姿に、共感を覚えるというか、人生そんなうまく進まないよねーという気持ちが湧いてくるというか。

主人公玄胞のほどよいチートさもこれまたいい具合に働いています。内政に干渉して成果はあがったものの、腐った役人をところかまわず放り出したせいで逆に自分が苦労することになってるあたり、なんか人間らしいお茶目さを感じる。人を見る目がいいという特徴はあるものの……はてさて、いろいろ伏線がはられていて、これは果たして人を見る目がいいのか……はたまた識っているのか……。ある意味でこの程度でぼかされると、非常に気になって続きが読みたくなるんですよね。明らかな伏線とわかりつつも、早くその伏線を回収してほしいと思うのなら、それは既に伏線の役割を果たしたと言ってもいいんじゃないでしょうか。

このSSのいいところは、ダメ下(ダメな人間の下の略)に仕える多くのSSが君主を諭して本来のキャラから外そうとすることが多いのに対し、きっちりそのあたりは線をひいてちゃんと原作の麗羽というキャラを崩さずに描いていることですね。いやぁ、まさしくこの作品の麗羽は麗羽だ。まごうことなき麗羽であり、玄胞が必死で交渉していることを努力の甲斐も虚しく0にしてしまうあたり、原作とほぼ変わりない馬鹿で自尊心溢れ、曹操を敵視している。麗羽の違和感が本当皆無なわけで、変な過去を捏造したり、よくわからない解釈をしたりしないところが、また評価を上げるポイント。麗羽はあの馬鹿っぽさがいいんですし、ダメ下に仕える系のSSなのに、駄目人間を更正させるのはよくないと思うんです、うん。

ストーリーの方は、今が完全に佳境。
というか、正直話数的にここまで連載している割に、これほど展開の遅いSSも珍しいものです。以前紹介した「とんでも外史」なんかはそもそも黄巾の乱が集結してませんが、それと同じくらい遅いです。序盤がかなり丁寧で、この時点からいろんなキャラを動かしているのですからそうなるのも当然なんですが。
しかし、ようやく反董卓連合に入り、ようやく玄胞の反撃が始まり、ようやく玄胞の招待がちらほら見えてくる、というところでにじファン閉鎖騒動に巻き込まれたので、うぉおおおおいってリアルで叫びますよ、そりゃ。

そろそろまた更新こないかなー、と待ってはいるんですが、このままエターナルなコースに突入しそうで怖い気持ちもあります。長期停滞の後の1話更新は本当こわい。BBBさん、頑張ってほしいな。せめて反董卓連合編だけでも終わらせてくれれば。いや、終わらなくてもいい、玄胞の正体だけでも戦争中に明かしてくれれば。いや、それすらもどうでもよくて、お願いだから麗羽のダメっぷりをもっと見せ(ry

2012年9月18日火曜日

SSメモ:俺の人生ヘルモード

俺の人生ヘルモード(侘寂山葵)

トリップものがいつもいつも作者の願望を映したような希望溢れる生ぬるい作品になると思うなよ!!と言わんばかりの、のっけからの鬼畜仕様……なはずだったわけですが、いつの間にかご都合主義に変わり気がつけば割りと強い力と心強い相棒を手に入れて、これから無双状態か!と思いきや、やっぱりそんなことなかったぜと次々試練が待ち受け、でも案外展開がテンプレート化してきてて、はいはいヘルモードヘルモード(笑)と安易にSSを読み進めていたら、底なし沼どころか奈落の穴に落とされてすいませんと全力で焼き土下座しているわけで、つまり何が言いたいかというと……。

パネェ。。。

あかんだろ、これ。俺の人生どころか皆の人生ヘルモードだよ。人生3回くらいやり直してもこの状況に放り出されたら間違いなく死ぬ自身があるよ。つーか一話にして主人公意外トリップ者全滅ってどうよ。テンプレどおり魔物に襲われてみました☆みたいなかわいいものじゃなくて巨人と虫に食い散らされたり、人間ボールにされたり、15禁タグの威力が遺憾なく発揮され、しかも死なないために立ち向かうとかではなくて、黒い沼に身を隠してひたすら耐えるとか、それなんてファンタジー……。

始まりからヘルモード全開で飛ばしまくってて大丈夫かよと思いましたが、ワシのヘルモードは108式まであるので大丈夫だ問題ない状態。問題ありすぎだ。所詮序盤のヘルさなんてただの前菜だったわけですよ。魔物が直に向かってくるだけましで、そもそも気づかないうちに捕食されたり、生きたまま栄養分にされたりがざらになる後半を見ると、あぁなんと平和な世界……じゃねぇよ……マジで……。

主人公のメイくん、よくもまぁ耐えれたものだわ……。いくら相棒が励ましてくれたり、いい仲間に恵まれたりしたとはいえ、こんなダンジョンに何度も潜り込む勇気とか湧かないって。しかもなんか黒幕っぽい人物に目をつけられて、狙われるはめになってるし。人生の難易度が変わり過ぎなのに、よくついて行けるなぁ。

メイだけではなく、さりげなくメイの仲間も度胸とか覚悟が相当あるんですよね。相棒たるドリーがメイと一蓮托生な覚悟をしていることはもちろん、ドランやリーンもメイを信頼しているし自分のできることをわきまえている。無理についていくことはせず、自分にできることをやるし、メイもそれを求めているものだから、こいつらのチームワークはすごい。だからこそ、そのチームワークが発揮できない状況においての絶望感が凄まじいわけですが。

しかもこのお話、ただただヘルモードがすごいだけではなくて、話の広げ方もすごい。起伏にとんだ展開とはまさにこのこと。ダンジョンの成り立ちも深く考えられているし、それに関するエピソードを外伝にすることで、徐々に徐々に本編が真実に近づき空気が張り詰めていく様子も直に味わえるし、何より物語の落とし方が異常にうまい。どこまで読者を絶望に叩きこめば気が済むんだ……。
とりあえず現在の最新話は、絶望から軽く持ち上げている状況なので、次の話以降どれだけ下に突き落とされるか楽しみです。

2012年9月17日月曜日

SSメモ:百万ゴールドの男

百万ゴールドの男(テパコ)

お、おう。SS……だよな、これ。
え、ちょっと待て、ドラゴンクエストⅢの縛りプレイをSSにするってどういうことだ!?(笑)

なんという奇作SS。
しかしこれがまた実に面白いのなんの。
ドラゴンクエストには様々な縛りプレイが存在しており、有名なもので一人旅、最短時間クリアなどがあります。このSSはその縛りプレイの内容を解釈して、そのままSSの設定に用いようというお話。なんという冒険。しかしこれを実際にプレイして、その内容をSSにしているのだから恐れ入る……。ちなみに縛りプレイの内容は「ゴールドとアイテムの使用禁止」と「一人旅」。両方共割りとオーソドックスな縛り内容なので、もしかしたら試しにやったことのある人もいるかもしれません。しかしこのプレイ内容をSSにしようと試みたことのある人がこの作者以外にいるのだろうかw

この縛りプレイに適切な解釈を施してSS世界における勇者の設定にしているわけですが、その解釈した内容が非常に上手い。ゴールドとアイテムの使用禁止という縛りは「勇者は父親の負債である借金100万ゴールドを返すために旅にでる。ただし旅の中で取得した換金可能なアイテムはすべて即道具屋で換金して借金返済に当てなければならない」という設定になり、なんというか主人公である勇者が見るのも不憫なくらい哀れです……。
だって宝箱開けてアイテムだ! と思ったら換金しないといけない現実が待ってるんですよ。つまりつまり、たとえそれば貴重なアイテムだとしても、換金しなければならない! わかる人ならわかるであろう超便利アイテム「やみのランプ(夜にするやつ)」すらも! なんという鬼畜プレイ。勇者涙目どころか、魔王どこいった状態ですよ。
ちなみに一人旅(一部物語に必須の場面では仲間を必要としますが)は「仲間の道具すらも無理やりぶんどって、1ゴールドすら掠めとる勇者に付き従う人なんていない」という設定になっています。鬼畜勇者っぷりが半端ないですが、まぁ莫大な借金している人の連帯責任になりかねない真似普通しませんよね……。

SS内での勇者の姿がこれまた涙さそうというか。
まずアイテム使えないのはもちろん宿屋にすら泊まれないのでルーラで毎晩家に帰らなければならない。その上死んだら復活するものの持ち金が半分になるという恐怖。アイテムなしなので保険をかけて冒険ができない上、協会で毒を治すこともできないので、毒=死亡のカウントダウン。普通にゲームで縛りプレイしている時は、うげー、としか思いませんが、SSにされるとここまで心を痛めるような行為になるとは思いませんでした……。うおおおい、勇者頑張れ(涙)

淡々と進む物語。
主人公の感情も非常に淡々としていて、モンスター倒した、アイテム手に入れた、借金を返済した、という単調なものが幾度も繰り返されるわけですが、ゲームを実際にプレイしているとそうなるのも当然という意識もあり、ほとんど飽きることはありません。それになんといってもストーリーが普通にしっかりと作られているのがいい! ゲームのストーリーなぞっているだけなんですが、そこにドラマ性を入れてSSっぽく仕上げているので、期待通りの予想斜め上というか、あぁ、なんだろうストーリー内には収まっているのに未知のワクワク感が通りすぎる感覚が、体中に駆け巡ります。

何よりもなぁ、世界の住人がNPCのように無機質なものかとおもいきや、それぞれ意志が存在するところが憎いところ。勇者の死を何度も目の当たりにする王様とか、都合上必要となる商人の存在とか、そしてなにより淡白で感情の起伏に乏しいプレイヤーの分身である主人公が、最後の最後で非常に人間らしい反応を見せるところとか。たしかにこいつらはこの世界で生きているんだと、そう思えます。おかげでもう縛りプレイが感情的にできなくなりそうなんですが、どうしてくれるんですか!

2012年9月16日日曜日

SSメモ:竜殺しと龍喰らい

竜殺しと竜喰らい(三上康明)

見事なまでの真正面からの正拳突き。
いやー、すごい。真っ向から全力で一切の妥協なくブレもなく、ただただこういう物語が書きたいんだという作者の思いが、一つのSSとなりガツンと心を打ってきます。くはー、これは堪える。体の芯が痺れるほどの衝撃。敵わないなぁ。

題名どおりこのSSの世界には竜がいて、竜を殺す人たちがいて、そして殺した竜を解体する人たちがいます。基本竜が圧倒的に強いわけですが、人が力を合わせればかろうじて戦えるレベル、といったところ。戦闘がだいたい命がけなあたり、お察しください。

それにしてもこの世界の竜、ファンタジーらしくない。
すべての竜種が毒をもっているところとか、子供は襲わないとか、人を殺すと土くれに変えるとか。なんかこう竜の眼! とかブレス! とか げきりん!! とかもうちょっとなんかないのかよ、と。敢えて竜という存在の設定を既存概念から外しているあたり、正直何かの伏線があるのだろうと訝しんでしまうわけですが、後のお楽しみなんですかねえ。

そして実は竜を討伐する側も、あんまりファンタジーらしくない(笑)
一般的なファンタジー世界で竜を倒すとき、なんか魔法使いがサポートしたり、剣士が必死に斬りかかったり、あるいは扱いがぞんざいなものに至るとなんか魔法で消し飛ばされたり、剣士が一瞬で戦闘終わらせたりと、一言で言えばザ・モブって感じなんですよね。危ないと言われている割に主人公サイドからすると倒せる、みたいな。
が、しかしこのSSではことがそう単純ではなく、斥候だして竜の特性を探り、爆薬と香料で竜を混乱させて、最後に武器で倒す、と。なるほど、たしかに現実的に考えて、強大なものに挑む際は相手の弱点を突き、弱らせて仕留めるよな、と感心しています。どっかの兵法書の基本みたいな形でのってそうな、なんというか合理的な戦い方ですよね。ファンタジーとしてはどうなのと思いますが(笑)

お手本みたいなSS、とはちょっと言い過ぎかもしれませんが、少なくとも多くの物書きにとって見習うべきところはたくさんあると思えました。序盤のつかみ、物語の展開、次の話しへの引き方、どれをとっても上手いという他ありません。もちろん粗とも言えるべき場所はたくさんあり、対立構造の様子がちょっとあっさりしていたり、クライマックスの盛り上げ方とかもう少し工夫できるんじゃないかと思ったり、欠点を上げればきりがありません。某理想郷やなろうでこの作品を掲載すると、おそらく感想欄に批判コメが殺到するんじゃないでしょうか。

しかし、そんな親の仇を探すみたいに目くじら立てている感想なんてどうでもいいんです。重要なのは自分の思いに正直になって書きたいシーンを書けているかどうかです。安易に「あいつは心の中で生きている」だとか、「憎しみは憎しみを生むだけだ」とかありきたりな表現に逃げるのではなく、自分の言葉で、自分の思いで、書きたいものを書きさえすればいいんです。このSSはそういった点において、多くの作品のお手本になるのではないでしょうか。

読者に媚を売るなんてしなくていい、他作品の都合のいい解決法なんてもってのほか。SSなんですから、もっと自分の欲望に忠実になって、このシーンが書きたかったんだ! と堂々胸を張っていればいいんですよ。SS読みの人たちなんて意識してるにせよ無意識にせよ、そういう作者の思いを見たいがためにSSを読んでるはずなんですから。

最近読んだSSの中で、もっとも繰り返し読みたいと感じましたねー。ここまで作者が自分の欲求に従って書いたSSも滅多にありませんから、SSの書き手にとってはとてもいい上達材料になるのではないかと思います。もし創作に煮詰まっている人がいたらぜひ。

2012年9月15日土曜日

SSメモ:―THE LEGEND OF DRAGON―

―THE LEGEND OF DRAGON―(YAN)

ちょっとした前書き。

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今回掲載するSSメモはブログに載せていいものかと非常に悩んだのですが、ネット上で検索すれば見れるからいっかと開き直って掲載しています。作者様かサイト管理者様からクレームがあれば記事ごと消すつもりなのでご勘弁を。ちなみに該当SSはDragon000〜059及びDragon.bangai.01〜05です。同作者の別作品も同ページに存在しているので注意。
***

ポケモン×ダークファンタジーという非常に稀有な組み合わせのSS。ポケモンSSの中でも極めて異色なものであり、少なくとも今流行(?)の転生者がゲーム知識いかして無双するSSを好む人は観閲注意です。普通にポケモンが死んだり、人が死んだりします。そもそもダークファンタジーですしね。

しかしまぁ、なんと重厚な空気感を醸し出すSSだろうか。
ポケモンの技やタイプ特性を生まれつき持ち合わせる亜人という人種、戦乱が終わってなお取り巻く慌ただしい雰囲気、そしてポケモンにも人にも牙を剥く「死獣」という存在。ポケモンバトルという概念は廃れ、人も亜人もポケモンと共に戦うことが前提であり、軍という組織まで存在する。

本当にこれがポケモン世界なのかと疑われるかもしれませんが、読めばなるほど、こういうポケモンの世界もありなのかな、と納得します。もしかしたら空気としてはポケットモンスターSPECIALの初期に似てるかもしれませんね。イワークで人を締め付けたり、人をじわれで落としたり、10万ボルトを人に浴びせたり……うん、よく考えればあの作品小学生向けの雑誌で連載してはいけなかったんじゃないのだろうかw

実は世界観や異色な組み合わせの割に、ストーリーはひどく王道なんですよ。主人公のブレスは竜王族というドラゴンタイプの亜人で、ボーイかどうかはともかくミーツガールするところから、本格的に物語が始まります。それまで弟子やら賞金稼ぎやら謎の敵やらおっかないお姉さんキャラが出てきて、いろいろ世界観を固めていくわけですが、間違いなく物語の始まりはヒロインであるファリンというミュウを連れた謎の少女との出逢いですね。
記憶喪失なファリンの記憶を取り戻すため、いろいろと旅をはじめるわけですが、これがまた次々とビックスケールな話になっていく様は、さながらラピュタのようです。突飛な世界の割に堅実なストーリーが展開され、当然黒幕やら死獣の謎というところまで言及し、涙あり別れありの一つのサーガが形作られていくんですよ。風呂敷がどんどん広がっていくこの世界観、たまんないくらいワクワクしませんか?

なんというか、今のポケモンSSで足りないと感じるのはこういうところなんですよね。確固たる世界観を作れていないのと、安易にポケモンバトルを描写しているところと、目的の分からないストーリー展開が続くところ。こうした作品が当たり前というのはちょっといただけない。このSSが示している通り、割りとポケモンっていろいろ話を広げる下地があると思うんですよね。ファンタジーな世界にそのままポケモンのタイプ概念と技を導入すれば、それだけで列記とした魔法体系に匹敵するほどのシステムにもなりうるし。できればこういうポケモンSSがもう少し増えて欲しいところ。あ、でも「ゼクロムに・・・!!」はご遠慮ください。

2012年9月14日金曜日

SSメモ:捻れた運命と真理

捻れた運命と真理(わかな)

なんとも珍しい組み合わせを見たものだ。
鋼の錬金術師とFateって等価交換など多少の共通点はあるにせよ、お互いがお互いに確固たる世界観を築いているせいで、組み合わせると齟齬どころか致命的に世界観丸潰してアヒルがネギしょってやってきたという違和感満載状態になると思ってたんですけど……。

いやはや驚いた。

これほどまでに見事に組み合わされているクロスオーバーSSも実に珍しい。パワーバランスすら大きく違う両作品をこれほど鮮やかにミックスさせて、それでいて原作のシリアスさを壊さずストーリーが進行できるとは、ちょっとどころではなく尋常ならざるぐらい作者のバランス感覚優れてます。トランプタワーの上でベイブレード回してるようなものですよ。ちなみに試しにできるかどうかやってみたんですが、トランプタワーすら組み立てられませんでした。不器用なことくらい知ってたさっ(泣)

それはさておき。
凛とアーチャー(ついでにルビー)がハガレン世界に来たらというIFストーリーというのが本作の特徴なわけですが、これがまた馴染む馴染む。エドたちはもちろん、ロイやらスカーやらとの話し合いも違和感なく進むあたり何か間違ってるはずなんですけどねぇ……。それもこれも、両者ともにかなり柔軟な思考をしているからなんでしょう。

凛たちは平行世界とかいろいろ知識と概念があるから納得できたり許容できたりするんですが、本来エドワードたちはそうした考えをもっていませんから、なんのこっちゃと理解できないと思うんですよね。ただそこにあり得ないなんてあり得ない、という言葉をグリードから聞いていることもあり、うまい具合下地が重なって、受け入れることができていると。そしてさらに魔術が自分たちには使えないと言われても、発想は使えるかもしれないと貪欲になれるあたり、こいつらやっぱりどんな作品でも主人公だよ、と思わされます。思考の柔軟性でいえば、ひょっとすると凛よりも(昔の知識にこだわっているため)エドたちの方が強いのかもしれませんね。なまじそれは知識がないからかもしれませんが。

一番肝心なことは、こうした場面を作者が違和感を感じさせずにすべてを描ききっていることなんですよね。エドワードが賢者の石を使う際の葛藤とか、アメストリスの異常に対する凛の反応とか、もう原作以上に原作らしいんですよ。何度もしつこいかもしれませんが、この作品を混ぜ合わせるバランス感覚って本当天性のものだと思うんですよ。間違いなく混ぜるのが難しい作品であり、それはこのクロスオーバーを描いているSSがほぼないことからも明らかなんですが、その上でこれだけうまく物語を展開できるのは、作者の力量がいかに優れているか示しています。

なんというか、このSSって無理のないように物語が在るんですよね。
FateというSSがクロスオーバーする場合、往々にしてエミヤが世界わたって活躍したと思えば敵に別のFateキャラが出てきたり、世界の修正力とかで英霊が出てきたりと、正直その展開はちょっと無理がないかと感じるんですよ。たとえどんな理由があったところで別作品別世界に型月作品の魔術概念をそのまま適用しているあたり、違和感を拭えないというか。
ところがこのSSに関してはそういった兆候があんまり見られないし、むしろアーチャーまったく活躍してないしどっちかって言えばボロボロだし……そういうわけで、今のところ安心してハガレン世界を楽しめるんですよね。

作者のわかなさんにはぜひ完結まで頑張って欲しいところ。クロスオーバーSSの見本として、いろんな人にその面白さが伝わるといいな。

2012年9月13日木曜日

SSメモ:未来は見果てぬ旅路の先

未来は見果てぬ旅路の先(彩守るせろ)

これまたなんというか……。
敢えて紅茶で例えるなら、このSSはダージリンのファーストフラッシュでしょうね。セカンドに比べて渋く、オータムに比べて風味がなく、人によっては青臭いとさえ蔑まれる若々しい茶葉の香りは、まさにこの物語にしっくりくる。

若いっていいなぁ。
このSSの主人公であるリョウくん、本当若くて一途で人一倍思いやりがあって、そして人一倍「医学」に関しては頑固なんですよね。自分はどうなってもいいし、どう思われてもいい。だけど、人の病を治すことに関しては、誰がなんと言おうと、それこそ宗教的禁忌を犯してでも、譲らない。たとえそれが誰かとぶつかり合う事になっても。

実際、医学の発達が薄い世界で、しかも宗教が信じられている世界で、異端の考えを持ち込むのは非常に困難なことです。こっちの世界の歴史的に見ても、地動説が受け入れられるようになった経緯や進化論が認められるようになる途中で、多くの人々が宗教信仰の前に苦渋をなめさせられています。そして科学が発達した今尚、それらの事象を信じない人もたくさんいます。そんなことわかった上で、それでも自分の医学への思いを貫くのだから、大したものだ。

もっとスマートで理性的で妥協的で協力的な選択ができるはずなんですよ。仕方がないと割りきって、届かないと諦めて、見なかったことにすることだってできる。それがたぶん賢い生き方で、楽な生き方なんですけど、リョウは決してそれをしない。馬鹿だとわかっていても、自分の思いを貫くことを選ぶ。人はそれを愚者と呼ぶかもしれないけれど、そこに何か若い頃に忘れてしまった大切なものがある気がして、無意識のうちに彼の行動に惹かれ、見守り、草陰の中からそっと応援してしまう。

主人公であるリョウも魅力的なんですが、それ以上に彼の周辺にいるキャラクターが魅力的なんですよね。友人であるヘイ、仄かな好意を寄せるカリア、その他よき理解者たるヘイル夫妻やクレイなど、揃いも揃ってこいつら見ててハラハラするリョウを支えているんですよね。まるで子の成長を見守る大人のように、時に叱り導き、時に叱咤し励まし、時に喜び笑い合う。そうやって彼らが傍にいるからこそ、リョウはこの世界に降り立って、自らの夢を折られても、まっすぐ前を向いて進めるんでしょう。

いやぁ、ひたすらに丁寧だわ、このSS。
若い人の理想と、諦めない思考と、応援したくなる周りの気持ちを、段階立ててゆっくりしっかり描いているせいか、臨場感あふれる、とまではいかないものの作中時間と各キャラクターの感情の進行が手に取るようにわかるんですよ。医学という一つのテーマに対して非常に真摯に向き合い、多少の小説舞台というギミックはあれど、ここまで丁寧に書かれるとじっと腰を添えて読まざるを得ません。むしろ読ませて下さいと土下座したいくらいです。

人によっては文章や展開がくどいとか、もっと展開を早くしろとか文句あるでしょうけど、個人的にはそんなものが欲しかったら別のSSを読めと言いたい。というかむしろそれはこのSSの楽しみ方として間違っていると言いたい。このSSみたいに、ただ忠実にキャラクターたちの世界を描いているフレンチな料理と、ド派手な戦闘と泣ける展開という調味料を目分量でどかどかつっこむ中華料理の味わい方を一緒にするのはさすがに違いますよ。私はフレンチも中華も大好きですけどね!! ……コホン、ともかく静かに丁寧に味わってこそ、このSSの面白さがわかるものなんです。エライ人には(ry

2012年9月12日水曜日

SSメモ:IF GOD

IF GOD(鈴木チェロ)

血で滲んだバットのグリップをぎゅっと握りしめ、額に流れる汗から意識をなくして頭の中で尊敬するバッターのフォームを何度も何度も再現し、徐々に自らの姿を選手に重ね合わせてイメージを強め、一寸の狂いもなく姿が合わさったその瞬間、肩・腕・腰・足の力を開放する。現実が想像に追いつくまで、ただひたむきに忠実にまっすぐにバットを振るう。いつしか想像は尊敬するバッターから将来の自分の姿に変わり、そのフォームもバッターの理想から自身に最適化された理想に変わり、現実が理想に変わる。

このSSを読み終えた時、ふとそんな情景が浮かんでいました。
と、ここでこのSSが野球モノと勘違いされても困るので、一応言っておきますがこのSSはヒカルの碁の二次創作で、ちゃんと碁をうってます(笑) 薬も白球もうってませんよー。ダメ、絶対。
おそらくこのSSはヒカルの碁のSSで最も有名なSSだとは思うんですが、なるほどその有名っぷりに違わぬ面白さと原作へのリスペクトです。佐為がネット碁を続けていたらというなんともそそられる設定、そしてその期待に十全に応え切ったストーリー。読んでてまさしく心の震える感覚がわかります。どれくらい心が震えたかというと、あれこのお話って新手のメディアミックスかと勘違いするほど。こういうメディアミックスってありだと思うんですが、集英社さん、どうですか(

何がすごいって、本当にこのSSの中では原作のキャラクターがいるんですよ。原作のキャラが、この時この場にいたら、まさにこう動くだろうと、そう確信させる何かがこのSSにはあります。緒方さんとかまさしくそのまんま。ヒカルへのsai疑惑を強める描写とか、それこそヒカルにあっかんべーとからかわれた時の反応なんて、おいおいコミック化してくれよと言いたいくらい緒方さんの憤怒の表情が思い浮かぶんですよね。もちろんあの瞬間、あのタイミングでヒカルがあっかんべーをするあたり、この作者わかってる。

しかしなんてことはない、このSSがここまで有名になったのも、おそらくこれが二次創作ifストーリーのお手本みたいな存在だからじゃないでしょうか。上達者の誰もが通る守破離という工程を経て、一人の野球少年がプロ野球選手になる道と同じように。この作者も原作を何度も読み返し、原作者と自分の姿を重ねあわせ理想を追求し、しまいには理想を現実に落とし込める。まさしくそうして生み出された作品だからこそ、このSSはこんなにもたくさんの人に愛されているんでしょう。疑いようのないほどに、名作です。

2012年9月11日火曜日

SSメモ:サーヴァントなわたしたち

サーヴァントなわたしたち(春日)

世界の抑止力にして清掃役。
霊長の守護者として拒絶不可能な虐殺に身を投じ続ける契約者たち。
神々の「座」では彼らのことをこう呼んだ。


ーー営業って大変ね。


こらぁっ、お前らーーーーー!!
営業ってなんだよ!? 過労消滅近いとかいってやんなよ!!
お昼のワイドショーできついノルマとか取り扱ってんじゃねーぞ!!!

はぁはぁ……これまたキワモノのSSというか、よくぞまぁ、聖杯戦争を座の視点から描くなんて発想がでたもんだ。。。世界と契約して、あるいは人々の信仰によって至る場所が、よりによってこんなところとは。茶の間でテレビ見て、下界(人々の住んでいる世界)からいろんなモノ持ち帰っては皆と共有してワイワイ騒いで、時に花見をしたり、時にほろ苦い青春を送ったり……。なんか聖杯戦争の舞台裏、のんびりしてるな。クーフーリンとか、もはやフーリンさんという呼び方で落ち着くあたり、なにか言い知れない平和さを感じる。

しかしこれ、一発ネタかとおもいきや、意外に世界観ちゃんと詰めているのはどうしたことだ。地に足のついた世界で、日々をおくる英霊たちが織りなす物語と書けば、まぁなんてことはないほのぼのストーリーになるわけだ。時に事件あり、時に仕事あり、時に上層の企みありと、なかなかまったりしつつ、良い感じにシリアス展開があるあたり、この作者は読者の読みたいものを正面から突いているなぁ、と惚れ惚れする。

ネタは確かに思いつきかもしれないが、それにしたってここまでそのネタに対して真摯に向き合い、誠実なまでに世界を捉えるのは難しいことですよ。いろいろ世界観を詰める上で苦悩する場面とか見えてくるわけですが、そうしたところもきっと作者が悩みに悩んで頭の中かっぽじった果てに、砂漠から一粒のダイヤを見つけ出すがごとくネタを探り当て、描写しているんだろうなあ。

アフターストーリーを描いた「続・サーヴァントなわたしたち」を見ると、いかにきっちりこの世界観がねられているかよくわかります。もちろんコメディなノリは残っているんですが、それでもどういう風に守護者が仕事を行なっているのかとか、正英霊と守護者の違いとかがよく描かれています。非常に上手いのは、これらを一つの事件と絡めて丁寧に描写し、それでいてどう解決していくかちょっとしたミステリチックに描いているところですね。おかげでのめり込むことこの上なし。

こうして見てもやっぱりFateという作品はエミヤシロウの物語なんだなぁ。これだけはちゃめちゃなFateの世界を描いても、やはりエミヤシロウだけはブレないでちゃんと主人公しているあたりに、いかにFateという作品の骨子が太いかを物語っています。もちろんこのSSの作者が意図的にそうしているという側面はあるんですが、でもたぶんこのお話がクーフーリンやメデューサに焦点を当てたとしても、結局エミヤの物語に帰結すると思うんですよね。

型月作品において、神々の座というものはあまりどういうものか具体的に説明されてはいませんでしたが、それを一風変わった視点で捉えようと試みたのがこのSSですね。単にコメディな英霊たちの日常を描くだけなら、こういう設定をつめないで書けばいいのに、それをしないところに律儀さが見て取れます。もう型月作品の設定は飽きたよ、という方も是非一読する価値はあると思います。

2012年9月10日月曜日

SSメモ:NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~

NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~(熊雑草)

変態だーーーっ!!

何この主人公のヤオ子、女なのに変態とドスケベ通り越して、もはや歩く猥褻物じゃねぇか! これみよがしにセクハラしてはお仕置きされ、銭湯入店禁止はもちろんのこと、ヤオ子の服装=変態注意の概念になるとかどうなのよ!? このエロに対するこだわりの深さと潔さ、そして何よりもその執着心!! こいつ、すっげぇ馬鹿だ。馬鹿な上に変態だ。そして変態で、なにより変態だ。極めつけに変態だ。この変態がっ!(褒め言葉

ただ、ヤオ子が単なる変態だったら物語もそこまで進まないんですよね。馬鹿で変態だけれども、優しくて献身的で努力家で、やっぱり普通の女の子の感情もあるわけですよ。そんな女の子だからこそ、サスケは見過ごせなくて自分と重ねてついついかまってしまうんです。かぁーっ、なんとも甘酸っぱい青春の匂いじゃないですか。

この作品、実は変態だけじゃなくて地味ーにいろんなテーマを内包しているんじゃないかと思う時があります。大人になることや受け継ぐことあたりが一番読み取りやすいものじゃないでしょうか。だいぶ露骨に描かれているので、結構わかりやすいはず。たぶん。もしかしたら勝手な思い込みかもしれませんが。……もう思い込みでもいいや。ともかく、いろいろ読者に伝えたいことがあると思っているんです。で、その中でも特に感じたのは変態についてです。もちろん単に「変態」を伝えたかった! という意味ではなくて、変態という「個性」(もはや死語か?)についてです。

変態はヤオ子のアイデンティティです。8割は変態と自負するくらいには、自分が変態だと認めています。つまりはそれがヤオ子の個性なわけです。自分なりの言葉で言い換えれば、この変態という個性こそがヤオ子の行動原則であり、その原則から外れる行動はしないわけです。だから周りはみんなヤオ子を変態だといい、ヤオ子自身も自分を変態と称するのです。ここに何かしら作者の言いたいことが見えませんか? すなわち、自らの行動原則を自ら律することで、他人からの評価を決定することができる、ということ。読み流しててふとこういうことが思いついたわけです。まぁ国語の成績が10段階評価で7という微妙な人の戯れ言だとでも思って流して下さい。

なぜか真面目な話題になってしまったので本題。
それにしても驚いた。いや、変態に驚いたわけじゃなくて、このSSの展開にです。
ぶっちゃけ文章力に関してはそこまでうまくないし、シナリオも打ち切り気味で(これはまぁNARUTOという作品を考えればそうせざるを得ないのですが)なんちゃって完結というどうにもしまりが悪い終わりなんですが、特筆すべきは物語の展開です。このSSの連載当時、たしか原作ではまだ穢土転生で各里の忍を復活させるところまで描かれてなかったはずなんですが、まさかの先にそれを描くという先取りっぷり。それを可能にしたのは、原作に対する鋭い考察なんですよね。

この作品、随所で原作の矛盾点やおかしな点を指摘しており、それらを単にアンチするわけではなく独自に考察を深めては、さもありなんという結論を出すんですよ。その入れ込み具合はラーメン一楽のスープの味についても言及する始末。いやはや、ここまで独自に考えられるのもすごいことです。それだけ原作を読みほどいており、なおかつリスペクトしているんだなぁ、と素直に感じさせられます。二次創作好きの一読者として、作者の作品への愛を讃えたい。

原作に沿ったストーリーで、サスケ救済に立ち向かう1人の女の子を描いた大作です。やっぱりこのSSを表す一番の表現はこれしかないでしょう。

『八百屋のヤオ子さんが、サスケさんを健気に待ち続るはずの物語』
(NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ 第116話より)

2012年9月9日日曜日

SSメモ:未完成の城

未完成の城(Xeno)

KanonのSSってこの界隈では有名なほど魔改造されたものが多いわけですが、ぶっちゃけるとそうしたSSのほとんどが名前とちょっとしたセリフを変えるだけで普通のファンタジー小説に成り下がるんですよね。何が言いたいかというと、どんなにKanon魔改造SSで面白い!と言われようと、冷静に作品を見るとただの厨二病ファンタジーにしかならなくて、ちょっとゲンナリすることが多いわけです。で、本作「未完成の城」はそんな感じにスレているときにおすすめされて読んだわけですが。。。

これはまいった。

普通に面白い。普通を通り越して面白い。
他のKanonのSSと同様、相も変わらず原作「Kanon」の主人公祐一くんがU-1くんになっていますが、この戦記的な空気と独特な世界観がもうそんな些細なこと気にすんな!と言わんばかりに読ませてくれます。KanonのSSに共通する序盤の定番やりとりさえ乗り超えてしまえば、あとはもう原作はどこ吹く風、ひたすらファンタジーな世界にようこそですよ。

なによりこのSSの一風変わったところは、KanonのSSでU-1モノにも関わらず、その強大な力を単純そのままに振るわないところですよ。単身で一都市を滅ぼせる力がありながら、平和を導くためにのみ使うその生き方に、言い知れない儚さを感じます。なんというか、この妙な空気感は祐一くんにだけあるものじゃないんですよね。この作品自体に、そうしたメッセージがあるというか、きっと作者の伝えたいことは、そういうことなんだろうと変な納得があります。もうなんか祐一くんが覚悟を決めるシーンとか、そうじゃない、そうじゃないだろ、と内心縋りつくように祈るように読み進めるわけですが、結局最初からこいつは変に優秀で自分の力を疑っていなくて、それでいて他人の力も疑ってないわけなんですよね。作中で祐一に対して「お前が10の力をもってるとして、おまえは他の人の力を3だと思っているだろうが、実際は1かそれ以下なんだ」とちょっとだけ諭すシーンがあるんですが、まさにそんな感じなんです。なまじ優秀な分、他人の上限までも引き上げちゃって、自分がいなくても大丈夫だという妙な断定を作っちゃうんです。こういう子だもんなぁ、この祐一くん。変にねじ曲がっているよりよっぽどいいけど、これはこれでたちの悪い素直さです。

さてさて、間違いなく主人公が中心となって物語が進んでいるわけですが、祐一くんもさることながら祐一くんを支える周囲のキャラクターが素晴らしい。この祐一くんに対する絶対なる信頼感と、その信頼の裏にある致命的な過信と、そして何が何でもこいつだけはという執念にも似た意地が、胸の奥底で眠っている何か巨大な感情を沸き起こしてきます。ある意味でそれは激情にも似た何かであり、愛と同じ存在であり、感銘に打たれる場所そのものなんでしょう。感情は留まらず引き伸ばされ、やげて希釈されてまた心の奥に眠ってしまうんでしょうが、過去に発見され、現在自覚し、そして未来に忘れ去られるまで、生きていく原動力として自分の中でアクセルを鳴らし続けるものになると思います。

それにしてもこの作者、キャラの散り際を描くのが非常にうまい。
語弊を恐れずに言えば、どんな風にキャラクターを殺せば、そしてどんな風にそれを描写すれば、その死というものを単なる死ではなく意味のある死にできるかということを非常にうまく捉えている。戦記モノなので人の生死は隣り合わせにあるわけですが、それにしたってあんな散り際見せられて、あんな描写の仕方をされると、そりゃあ心が揺さぶられるやい。あぁ、ちくしょう、作者の思う壺とわかりつつも、反応せざるを得ない。悔しい、でも感じちゃ(ry

とりあえず現状で第一部は終了しているので、ある程度後ぐされなく物語を楽しめるとは思います。2部やら外伝やらを読んでしまうと、間違いなく中毒者になってしまうので用法用量にはご注意ください。

2012年9月8日土曜日

SSメモ:正義の烙印

正義の烙印(朔夜)

二次創作というのにこの救いようの無さだよ。
ある意味で原作Fate/Zeroの暗い空気をよくぞまぁこんなにも丁寧に再現したものだ。これ書いてる当時、Zeroという作品は話の筋しか情報なかったはず(多分)なのに、ここまでダークな雰囲気を表現できているのは脱帽モノです。

SSのコンセプト的には第4次聖杯戦争にエミヤシロウを混ぜてみた、というありふれたものですが、異様にこの切嗣とエミヤのコンビがマッチしている。こいつらに奇襲させたら厄介にもほどがあるぜぇい……。どこかの作品の考察で切嗣は真っ向から戦車で突入するセイバーを召喚してしまったがゆえに戦争に負けたと考察しているサイトがあったが、このSS読んでるとあながちその考察も間違っていないように思えてくる。改めてこいつほど正攻法が似合わない男もいないと実感。

実際のところ物語終盤にかかると、FateのSSを読み慣れているせいか、おおよそこの話の終わらせかたが見えてくるんですよね。結局のところエミヤは皮肉屋で冷酷で捻くれていて、それでいて優しくて不器用でひたむきに頑固で……そんなエミヤが切嗣のことを恨んでいるとはいえ救おうとしないわけないんですよ。
本筋では結局直接的にそうした描写をしませんでしたが、もうさりげなく……そっと背を押すくらいさり気なくアイリスフィールとの過去回想を入れることで、エミヤの内心を表現するこのギミック。もうこんなの反則ですよ。あぁ、その場面がまじまじと想像できてしまう。アイリスフィールの冷たくなった手が、硝煙に焼けたエミヤの頬が、有り得るはずのない母と子の邂逅が。


「もっと良く顔を見せて。私は貴方を知らないけれど、あの人の子であるのなら。私にとっても、大事な息子よ」(正義の烙印 act.11 より)


雪解け水も流れだすような暖かさと言い知れない寂寥感の混ざったこの感覚を、なんと呼べばいいんでしょうね。冒頭で救いがないと言いましたが、ある意味ではこういうところに作者の思い描く救いがあるのかもしれません。犠牲という烙印を押すことでしか正義を示せない不器用な二人。一方はこのSS内で息子に理想を奪うことで、一方はこのSSではない遠い並行世界で理想を叶える過程を無駄なんかじゃないと己に諭されることで、それぞれ答えを得るわけです。
あー、そういう意味では救いようのない物語でもないのか……? どうなんでしょうね、ぶっちゃけ生存者数変わんないけど、生存者の状況が原作よりほんの少し救いようがあるわけですから、原作ほど救いようがないわけじゃあないですけど、それでも生存者数変わんないあたりやっぱりこれ救いよう無い物語だよなぁ。

しかし、昨今Fate/Zeroの文庫化&アニメ化で人気があがり、多くの二次創作が出た中でこのSSを見返すといろいろと感慨深いものがある。実は一部の原作キャラクター削ってオリジナルキャラクターを大量に投入しているわけですが、まぁ作品の生い立ちと時代を考えればそれも仕方のないことですよね。ただしライダーやらウェイバーといった主要人気キャラは変わっていないのでご安心を。あ、でもCOOOOOOOLな旦那とかいないな。まぁ、あいつらはいいか(

しかしそのために所謂第4次の最大の見所であるイスカンダルVSギルガメッシュがないとか(ただし代わりとなるウェイバー成長要素はある)、アルトリアとランスロットのやりとりがないとか、結構重要な要素が抜けているんですが、おそらくそうしたものは続編の「烙印を継ぐ者たち」で補完するんでしょうね。うばぁ、早く続編が読みたい。なにせこの続編、期待いっぱいな出だしと上記の要素を予期させるサーヴァントの面々が登場しており、さっそう期待するなと言う方が無理なほど。うがー、続編はまだかーーー!!!

2012年9月7日金曜日

SSメモ:開・運命の輪



開・運命の輪(神崎真亜)

くっはーー、これだよこれ!
外角低めのぎりぎりストライクな場所に鋭いけど愚直なまでのまっすぐを投げられて、手の出しようがないにも関わらずバッターボックスに立てて悔いのないと思えるこの感覚。設定も文体もキャラクターもどこか未熟で世界観すらも穴だらけなのに、きっちり読者のストライクゾーンに抉りこんでくるのは、作者のセンスを文字通り物語っています。これが書きたいんだ! と読者ほっぽり出して頭の中にある妄想をがばばーと放り出す作者のひたむきな情熱が、とくとくんと身に押し寄せてきます。

いやはや、これは無理だって。
開いてしまったらもう読むしか無い。
たとえ序盤がやや読みづらくても、改稿した後特有のちぐはぐな場所があったとしても、一度設定やらキャラクター同士の関係やらを把握してしまったら、あとはもう作者の抜群なコメディと心の機敏をうまく捉えたシリアス物語に、ひたすらのめり込むだけです。この途中からの読ませる力は鬼気迫ってます。もっと先が読みたい、先を、先を、と没入していく感覚はまさに麻薬。SS読者なんて大抵SSという麻薬の中毒者なわけですが、そんな中毒者でも満足する出来栄えです。

主人公の魁くんもいい味してるんですよねぇ。強さを隠すとか、過去にトラウマがあるとか、それなんて厨二病と思いましたけど、素の性格がツッコミ気質過ぎて、そしてストーリーのいたるところでツッコミせざるを得ない状況過ぎて、もはやかっこいいではなくかわいいになってる(笑)力を隠してる時も隠していない時も、こいつもはやツッコミしかしてなくね? あ、ヒロインやら周囲の人達からいじめられてる時のいじけっぷりもなかなかに板がついているか。つーか、生い立ちからしていじられキャラだもんね。生きてる限り、きっと魁くんはこう生きていくんだろう。
頑張れ、超頑張れ。

いやー、笑った。笑って、そして泣いた。
特に過去編読んでる時のあの尋常じゃない切なさ。
本編を読んでいるがゆえに、このなんでもない日常が、当然のように傍にいる人たちが、いつも見守っている英雄が、腫れぼったい息をついてしまうほど尊く感じてします。
なによりこうした背景を作者がしっかり練りこんでいるからこそ、本編のあの先の見えない焦燥感と緊張感が生まれるんだろうな。そりゃあ学園生活にもなかなか溶け込めないわー。現代日本の学校に戦時中の前線行きした子供をぶち込んで表面取り繕えと命令してるもんだし。

金払ってでも続きが読みたいSSって私の中ではたくさんあるんですけど、このSSはまさにその筆頭候補の一つですね。電子書籍として自費出版してくれたら、間違いなく飛びつきます。それくらい本当惜しいところで止まっているんですよ。物語の全貌がいよいよ明かされ、なぜ魔法みたいな力や学園という養成機関が存在するのか、そういった誰もがファンタジー世界で気にしない事を理路整然と説明し、過去の騒動から現在の状況を作り出すに至った黒幕の正体がようやく発覚した、まさにそのタイミングで、更新が途切れてしまっているわけですから、本当残念です。
二年越しに生存報告があり、どうやら作者の方は獣医試験に受かったようで非常におめでたいことです。もし可能ならこのまま連載してほしいんですが、獣医試験と同じく頑張ってもらえないものでしょうか……。
金を振り込む準備は2年前からしてますよー。

2012年9月6日木曜日

SSメモ:じゃぷにか闇の日記帳


じゃぷにか闇の日記帳(男爵イモ)

まずは落ち着こう。。
大丈夫、素数を数えるまでもなく頭は冷えてるし、目薬を差すほど目は疲れていない。
よし、このSSのタイトルをもう一度見てみよう。


じゃぷにかやみのにっきちょう。


ち ょ っ と 待 て 。


おいおい、冗談でなくなんだこのタイトルは。
ふらふらとSSサイトを周り、面白いSSないかなーと彷徨っているときにこんなタイトルみてしまったら、迷わずクリックしてしまうではないか!!

なんという作者の罠。
仕方ない、つられてサイトを開いてしまったのは自分だ。ここはこの作者のタイトルセンスに敬意を払って、読んでやろうじゃないか。たとえこのSSが普段は読まない一発ネタの短編SSだろうがリリカルなのはのSSだろうが、どんとこい!!


……どんと涙腺に来過ぎだ馬鹿野郎(泣)


うわぁ、これまたなんというか、リリカルなのはのSSで類を見ない話の構成です。
なのはSSって個人的なイメージなんですが、どうしても戦闘に偏ったSSかほのぼの日常のSSになる傾向が高いんですよね。あまり泣きの要素が入らないというか、楽しいことだけを描くというか……ぶっちゃけると別離を描くSSがなかなか存在しないわけです。その逆の別離しないようにするために奮闘するSSは大量にあるんですけどね。

ところがどっこいこのSS、トコトンそういったことに焦点を当てている気がします。
こういう作品には弱いんですよねぇ。悲劇が好きなわけじゃないんですけど、耐え難い理不尽に抗い、自分のやりたいことを成し遂げる人たちの人生を垣間見ることで、何かしら自分に勇気とか元気とか、そういったポジティブな感情を分けてもらってる気がするんですよ。このSSでも自ら率先して犠牲になり、主を守ろうとする闇の書の守護騎士達の生き様に、感嘆の息を吐き出すくらいにはその在り方に憧れる時があります。こうした思いを仮想体験できるSSは、やはり自分にとって時間を割いてでも読んだ価値があると思えるし、何度も読みなおして改めて自分の中の糧にしたいと思ってしまいます。

タイトルからも想像できますが、割りと作者のセンスがはちきれてます。
いや、むしろタイトルはほんの序の口で、セリフからキャラクターの造士に至るまで、SSの中で随所に作者の不可思議ワールドが展開されています。そしてそれがまた面白いの何の。読んでて全く秋がきません。だからこそ、このストーリー展開の切なさが増幅して読者の心に這いよってくるんですよね……。

2012年9月5日水曜日

SSメモ:正義の味方と悪い魔法使い



正義の味方と悪い魔法使い(ヒフミ)

クロスオーバーのSSっていろんな意味で挑戦的なんですよね。
独自解釈で互いの世界の違いを埋めなければならないし、どっちか片方に傾倒するような作品だと批判が飛び交うし、何より楽しめる読者の絶対量が少ない。こうした諸々の制約があるにも関わらず敢えてクロスオーバーを書こうとするのは、よっぽど作品を気に入っているか、作品を超えた何かを描きたいからなのではないでしょうか。クロスオーバーを求める読者は、そうしたSS作者の描きたい何かに惹きつけられて、物語にはまっていくんです。

本作「正義の味方と悪い魔法使い」はFateとネギま!のクロスオーバー作品。これだけだとまたか、と敬遠するくらいにはありふれた組み合わせです。設定も衛宮士郎がネギま!の世界に行くというもので、もう見飽きたと言う人もたくさんいるでしょう。

ただ。
そう。ただ、このSSに限っては見飽きた人も一読する価値はあると思います。なにせこのSS、4分の1は士郎の過去(ネギま!世界に至る経緯)についてこれでもかと鮮明に描写されており、その上でネギま!の世界での出来事を書いているわけですから非常に秀逸した出来になっています。いやー、Fateが暗くてダークな演出してる分、ネギま!の明るさが救いです。ちょうどいい具合の塩梅で物語が進むので、見ていてほどよい雰囲気です。

しかしもうなんというか、上手い。ただただ上手いとしか言いようがないくらい、士郎の過去話が作りこまれています。胸からこみ上げてくる何かが涙腺を刺激しては、切ない痛みが心をじくじくとえぐり込み、正義の味方というこの上ない破綻した生き方の苦しみを味わえます。そして何よりこうした思いを知った上で、悪い魔法使いとはなんぞやという命題に真っ向から挑戦し、ここに正義の味方と悪い魔法使いの原点が登場するわけです。

士郎の冷たさと暖かさを併せ持つがゆえに正義の味方としてのあり方に苦悩し進むという姿をここまで表現できるとは、正直クロスオーバーとしてではなくそのままFateのSSにすればよかったものをと思わなくもなかったわけではないんですよね。ただし、結局FateというSSにしてしまうと、そこで止まってしまうわけです。もちろん士郎の姿を描くだけならFateという作品なので十分なんですが、その先を見てみたいという気持ちがあることをこの作品で気付かされました。
正義の味方として歩き進むこと。呪いにも等しい愚直な思いとどう付き合うのか。そして周りの人たちはどうそれを見守り、悩み、支えるのか。それぞれの想いの先を、見てみたいという気持ちが心のどこかに少なからずあったんですよね。それはきっと自分だけではなく、SSを読みあるいは書く人たちの中に、気づかないくらいそっと根付いている。このSSがFate、ネギま!という作品のクロスオーバーなのは、この作者にとって、Fateの士郎とそれを取り巻く人達の答えがネギま!という作品に存在していた、ただそれだけなんじゃないんでしょうか。

考えてみればネギま!作中に出てくる悪の魔法使いなんて、正義の味方の対局にあるような在り方なんですよね。ある程度独自の解釈や考察が含まれますが、正直はっきりとここまで対比するように物語が進むとは思いませんでした。この対比構造が、きっと何かしらの答えを生み出すきっかけになるんでしょう。本当両作品への愛が伝わってきます。互いの作品を貶すことなく作品を混ぜあわせ、リスペクトした結果が題名にある「正義の味方」と「悪の魔法使い」という言葉に集約され、この両者が紡ぐ物語にこそ作者の描きたいものが在るのだと、まじまじと感じさせられます。

2012年9月4日火曜日

SSメモ:三国志外史

三国志外史(月桂)

恋姫SSの中でもっとも戦記として優秀なSSと聞かれたら、迷わず私はこのSSをおすすめします。そう断言できるくらい、このSSには読ませる力があります。

いやはや、蜀ルートでここまで泥臭く傷だらけな一刀くんはなかなかお目にかかれませんよ。つーか告白するヒロインが予想外すぎるんですが(笑) そもそものストーリーの成り立ちからして明らかに普通のSSと一線離れてますからねぇ。おいおい、始まりが『数え役萬☆しすたぁず』のマネージャーて……しかもだいぶ手馴れてるとは何事か!!w

突っ込みどころ満載なところから始まり、まさかの天の御遣いでないまま蜀ルートに突入し、あまつさえ死にかけてドロドロになってそれでも歯を食いしばった末に地に名を轟かす将軍になるなんて、いやーこれ本編でもよくない? って思うくらいこいつ主人公してる。天の御遣いじゃなくても、一刀くんはやはり一刀くんなんですよねぇ。なんとまあ勇ましく、それでいてかっこいいじゃありませんか。どこかの種馬さんとはえらい違いです。

作品の展開は本格的に独自に考案されています。ここまでいろいろ考えたりできる作者も非常に素晴らしい。やや固めな文体から紡がれるストーリー展開は、硬派な三国志を思い起こします。そのくせきっちり燃えるところと萌えるところを抑えているのは、やはり作者の力量か。作者に個人ファンがつくのも納得の出来栄え。

登場人物の内心のささやかさと、先行きを不安に思わせる作者の地の文が、これまた憎たらしいくらい悲劇と喜劇を予感させるものだから、読んでる時は常にハラハラ状態ですよ。原作からだいぶ乖離した展開を見せているため、まったくもって話の先が予想できませんし、かといって原作を完全無視していると言われるとそうでもないところがじれったい。くそぅ、作者め。人の純情を弄びやがって(

それにしても恋姫SSでここまで読ませる文章かける人も珍しい。
戦記というジャンル自体、書くのにとてつもなく労力が必要なんですが、それにしたってこの人別作品でも戦記モノ書いてるし、ちょっと頭の中覗いてみたい気分です。基本多数の人間を動かすのって小説では難しく、戦記ともなればそこに多数の視点移動や互いの戦略なども複雑に絡み合う為、読みにくいものが多いんですよね。
だがしかしこの作品、というよりもしかしたら恋姫SS全般に言えることなんですけど、視点移動と戦略練るのとうまい具合に書き分けられています。おそらく恋姫という原作があるためキャラクターの把握がしやすく、戦略もそれぞれどうとるかが見えやすいというのがあると思うんですが、それでもこれほどまでに戦記戦記しつつもわかりやすく戦況をかけるのは一重に作者の情熱があるゆえなんでしょうね。

作者多忙のため第2部の途中で途切れているのが悔やまれるところ。途切れ方の引きが異常なくらい気になるものなので、この焦らしプレイは正直身に堪えます。ちゃんと感想掲示板あたりで生存報告しているあたり、非常に親切なんですけどね。これまで何度突然更新の途切れた作品を見てきたことか……。作者の月桂さんの復帰が待ち遠しいです。振込先ドコーと探してしまうくらい、作者に頑張って欲しいです。はっ、この気持ち、まさか恋っ!?(違

2012年9月3日月曜日

SSメモ:クロスマテリア

クロスマテリア(キサ)

じれってぇーーーー!!!
なんだこの甘酸っぱい青春モノは。この世界ふぁんたじぃなのに、どうしてこう恋愛がこんなにも現代みたく苦しんで傷ついてそれでも一途に想ってそれでいて誰も彼もが良い人なんだ! いやちょっと待とう、このSSは恋愛モノではない。愛というものをテーマの一つにはしているのだろうけど、端的にいえばとある少女の冒険譚であり、成長モノであり、1人の男の救済物語である。それがこうまでじれったいとおいおい、高校時代の有りもしない青春を思い返してしまうではないか。くあー、お前らの愛で世界が爆発だよ!!

主人公のミリアは天才で馬鹿で天然で、でも優しくて思いやりがあって、それでいていろんな意味で残念な女の子なわけですが、だからこそ目が離せないくらい見守ってあげたくなる魅力があるんですよ。温泉にミルクぶち込むとか、蜂の巣退治で家崩壊させるとか、危なっかしくて目が離せませんが、そうやってすべてを終えた後でえへへと笑い過ごすことのなんと無邪気なことか。偏屈な馴染みも不幸な魔神もおせっかいな妖精も、そしてとびっきりの傲慢で自己中な神父も、そんなミリアの毒手にかかった連中なわけです。結局のところ揃いも揃ってこいつらみんな良い人なんですよね。やれやれとか言いつつ、実に内心心配してるのが読み手にはバレバレで、余計にこいつら~~!!ってなります。

しかしこのSSはただただ甘いだけではない。最初からフルスロットルにこれでもかとファンタジーを全面に押し出し、この世界が甘いだけではないことを知らされます。何もいきなりこんなにもドロドロしなくてもと思うんですが、舞台説明とかミリアの強さとか、あとは周辺登場人物の紹介とかも違和感なくさらっと物語に組み込んでいるのはすごいところ。序章でこれだけ魅せるSSもなかなか見ないのではないだろうか。

舞台となる世界は法が支配する世界なわけですが、これだけ聞くとやたら厳格で神聖なもののように思えますが、実態はもうちょいファンタジーで、法を司る組織の長たちもちょっと抜けてて、でもやる時はまじめで、弊害も怨念も悲劇もたくさんありつつ平和に回る世界なわけですよ。コメディチックなところからドシリアスに至るまで、とても同じ世界とは思えないほど破天荒な明るさと暗さに満ちています。女性主人公でここまでコメディを交えたシリアスな冒険ファンタジーは、ちょっと他に思いつかないなぁ。

後半からの物語の加速具合は非常に絶妙で、過去から続く因縁や伏線、親世代の話と現世代が繋がり始め、そしてそれらを一気に引き上げてくる展開は徹夜モノ。まだかまだかと期待が溜まっていた中で怒涛の回収劇は、ああこれぞSSの醍醐味と至高の幸福を覚えます。しかもこの物語、長編ファンタジーSSとしては見事に風呂敷を畳み完結に至っているので、後ぐされなくすっきりと読み切ることができます。むしろ後日談をもっと読みたいほどにはキャラに愛着を覚えています。

ただでも、個人的に一番好きなのは番外編なんですよねぇ。
それもボーイミーツガールのやつ。
主人公と馴染みの出会いを描いたこの短編、なんとなく望郷の念というか郷愁を匂わせる少年時代を思い起こさせるんですよ。本編もいいんですが、さりげない些細な日常とその変化を描いた番外編に、自分としては非常に心を打たれました。

ファンタジーな世界で冒険と恋愛と甘酸っぱさとほろ苦さを手にしたいならぜひ。

2012年9月2日日曜日

SSメモ:Fate/In Britain

Fate/In Britain(dain)

何らかの分野における先駆者ってのは得てして支持される傾向にあるが、その質に関しては後発組の方がいいというのはままあること。ただ荒削りながら今まで見たことのないものを見させてくれるという意味で、後発組が先駆者に勝る道理はない。

Fate/In Britainという作品はだからこそ、多くの人に支持され、未だなおおすすめFate SSの中でも筆頭にあがるのだろう。

初めて本作を読んだ時は心躍りましたね。
だって舞台がロンドンですよ? アフターストーリーでロンドンものってそれだけで「おぉおおお!!」ってなるじゃないですか。それまで再構成だとか違う英霊召喚だとかが主流だった中で、これほどチャレンジング(原作では設定だけしか語られていないので)なものはないと思いましたよ。そしてその期待にたぐわぬ面白さを提供されたら、そら信者もできるわと納得。分量も多く、展開も面白く、キャラごとに焦点を当てた書き分けも見事ときたら、もうあとは読みふけるしか無いでしょ。

しかもロンドンだけかと思ってたら、冬木のことについても言及しているじゃありませんか。あぁ、もうUBWラストを迎えた後に必ず残る遺恨をこの場でこういう形で精算するとは、もはや計画通りではないですけど、読者にほれほれ読みたかろうって迫ってるのも同じですよ。いいだろう読んでやろうじゃないか!! と思い立ったばかりに深夜2時間ほど夢中にしてしまったのはもはやいい思い出。翌日寝坊したことすらも覚えているあたり、おいおいどれだけ影響受けてるんだってなります。

とにもかくにもこの作品、原作へのリスペクト具合が半端無いんですよ。士郎の特異性に対する新たな考察しかり、切嗣が残した魔術の鍛錬法しかり、うまい具合に原作のエピソードを利用して、面白いストーリー展開をしてきます。革鎧ネタを見た時は、本当この人何者だと(笑) 2012年現在、Fate/Zeroという作品が出てきて、多少設定で食い違うところも出ていますが、それでもなお独自の解釈と考察でここまで作品を深掘りできているのは素晴らしいとしか言葉がでません。基本的には士郎たちの日常を描いているわけですが、たまに出てくる魔術考察ではっとさせられるあたり、作者の着眼点の鋭さが垣間見えます。

それにしても士郎、凛、そしてセイバーがロンドンに渡ったら、本当にこんな生活があったんでしょうね。ルヴィアが加わり、士郎は厄介事に首をつっこみ、凛がお金を消費して、セイバーが苦労する。もう一連の流れが手に取るように頭の中でイメージできるあたり、この作品が自身に及ぼした影響の凄まじさを物語っています。ただまぁ、ドタバタしてて魔術師らしいところがあまり見つからないのはどうなんでしょうねw もちろん事件に巻き込まれる時は魔術関係でしっかり補正されるんですが、それ以外の日常はどうにも微笑ましい生活しか思い浮かばない(笑)

きっとこれからもこいつらはこんな風に生きていくんだろうな。少なくとも自分の心のなかでは彼ら(彼女ら)の日常がドラえもんばりに延々と続いています。たまに喧嘩して、たまに苦労して、たまに悲しんで、たまに喜び騒いで、そしてたまに人生を謳歌して。刹那の日常から永劫な未来まで、変わらぬ愛をこめて。もー、お前ら最高だっ。

2012年9月1日土曜日

SSメモ:LUNAR! CLANNAD

LUNAR! CLANNAD(小椋正雪)

何気ない日常を描くことは非常に難しい。
小説でも映画でも何にでも言えることかもしれませんが、ことSSに限ってその難しさは尋常じゃないくらい難易度が上がると個人的に思っています。

元々からして日常というありふれたものを描写するのは大変なことです。しかも小説などの商業作品になると、どうしても個人の書きたいものより読者の読みたいものを優先して筆を取らないといけないので尚の事大変ですよね。(一部例外みたいな人たちもいますが)。
翻ってSS作家を見てみるとそれはもうフリーダムであり、これでもかと自分の書きたいことを書き連ねています。SS読者も自分たちに合わせた作品を求めているわけではなく、自分たちが考えもつかないような作品を期待しているため、そうしたSS作家の態度を受け止めているわけですよ。なので読者にも想像できるような日常を描いた作品でウケているものといえば、えてしてちょっとした短編くらいでしょう。
したがって商業作品以上にSSは日常系というジャンルを描くのが難しいのです。
(もちろん「面白い」という前提があります)


さて長々と「日常」というジャンルについて個人的な思いを綴ったわけですが、結局のところ何が言いたいのかというと、

この作品、非常に優しい気持ちになれます

ということです(笑)

ちょっとした不思議と、ほんのり心暖まるよう出来事と、妙な現実感を行き来するのは原作ノベルゲーム「CLANNAD」の持ち味であり、アニメ化はもちろん、「CLANNADは人生」という有名ネタが出来上がる(笑)ほどには優しい物語でした。その優しさを、感じたそのままに、それでいてさらにその登場人物たちがいきいきと生活している様子を描いたのがこの作品です。

いや、素晴らしい。
これほどまでに丁寧に、それでいて見事に「CLANNAD」という作品を調理しているCLANNAD SSは他にないと思います。ひたすらに日常を純化させ、サザエさんのごとく平和な世界が展開されている様は、見ていて飽きるどころか心が和むほど。癒されるとはまさにこの作品の読後感のことを言います。
それにしても主人公の○ちゃん(作者のネタバレ回避表現。しかしバレバレ?w)がやたらと馴染む馴染むw ほぼオリキャラなはずなのに、決してそんな空気はなく、むしろもうこれ公式でいいんじゃないかと思うくらい、原作キャラ達との間に混じってますよ。
っていうか原作キャラたち既に大人なんですが、ちょっとお前ら精神年齢おかしくないか!? 作中でいつまでも若いままじゃいられないとかいいつつ、精神的にはすっげぇ若いよ!! むしろ行動力とかも若すぎて羨ましいよ!! ただ、ちゃんと色々な線引ができているのは、さすがといったところか。ちゃんと成長しているんだなぁ、っていろいろ実感できます。

投稿形式がやや特殊で、短編連載という形をとっているわけですが、作者の書きたいものを書いているので時系列がバラバラなんですよね。(幼稚園時代を書いた次は、大学時代を書いているとか)。そうした形式が苦手な人は、時系列にまとめた投稿ページもあるのでそちらを見ればいいと思います。
平凡な日常に潜む穏やかな生活を鮮やかに切り取ってみせる作者の力量、恐れ入るとはこのことです。作者はついに商業デビューしたらしく、これからはネットだけでなく商業の方でも頑張って欲しいですね。

2012年8月31日金曜日

SSメモ:キミといた夏

キミといた夏(DAN)

病気を扱った小説ってのは基本的に物語の流れが似通ってしまいます。
それはだいたいの作品が山場も谷も同じような展開になってしまうからで、それはまぁ仕方のないことですよ。勇者と魔王モノのように、勇者という存在が当たり前に存在して、魔王という存在が当たり前のように存在する、そんな物語の前提と同じであり、病気があれば人の生き死にに関係してくるだけなのですから。
だからこそ作者の特徴が現れやすい作品でもあるんですよね。

本作「キミといた夏」は多分に漏れず、病気をテーマに扱ったものです。しかもその病気が心臓病ときたら、もうこれまで数多もの作品が世に出ており、SSはもちろんのこと、一般小説、映画、ラノベなど、どこにだってありふれているんですよ。そうした中で敢えてこのSSをメモするのは、物語の作りがよかったとか、一風変わった文体だとか、雰囲気がよかったなどの文章に関連するものではなく、単純に作者の顔が一番見えるからなんですよね。

とある心臓病にかかった少女と、少女を取り巻く人達の物語。
言ってしまえばそれだけのことなんです、このSSは。空気としてはライトノベルの「半分の月がのぼる空」に似ているかもしれません。まぁ、あっちとはヒロインの性質がだいぶ違いますが(笑)
もちろん冒頭で述べた通り展開も似ていて、ボーイミーツガールから始まり、恋愛要素やら医者との関係やら、親のことやら、よくも悪くも病気モノとして王道を走っています。ただ違いは、やはり作者なんですよね。

Webという媒体は本に比べて圧倒的に表現が自由です。そして編集の意図や商業的な意図も必要なく、ただただ思いを綴るだけでそれが力になります。もちろんその代わり技巧は稚拙で、文体はぐだぐだで、独り善がりに歩きまわる作品になるかもしれません。ただそれゆえに、作者がどの部分に力を入れているのか、おもいを込めているのか、といったことが本に比べて遥かにわかりやすく出てき、それでいて作者がどういう思いで文章を書いているのか見えるわけです。

この作品でいえば展開が移り変わる際にところどころ挿入される少女のモノローグがそれです。プロローグとエピローグに必ず挿入されるこのモノローグ、物語の展開を盛り上げることはもちろんのこと、痛いほどに作者がこの作品で何を描きたいか伝わってきます。それはとても素直な表現方法なんですよね。高度な文章力とか、比喩表現とか、はたまた文章構成だとか小説のギミックだとか、そういうものに一切頼らない、愚直なまでの心情の吐露。それがこの作者の顔であり、このSSの優しさであり、この作品に込められた想いなんです。

『世界はすごく綺麗だったよ、素敵だったよ
辛いことも、悲しいことも、嫌なこともあったけど
それ以上に、楽しいこと、うれしいこと、しあわせなことで満ち溢れていたよ』
(「キミといた夏」 第63話より)

もうこれだけで十分なんです。
すべての物語の展開は、こういった言葉を紡ぐそのためにあったんです。
キャラクターが生きている作品もたくさんありますが、これはきっと作者の想いが生きている作品なんです。登場人物たちが紡ぐ、作者の想いの物語。

2012年8月30日木曜日

SSメモ:トリスタニア診療院繁盛記

トリスタニア診療院繁盛記(FTR)

素朴という言葉がこれほどまでに似合うゼロの使い魔SSが他にあっただろうか。

この文章力に、この空気感。こんなにも素朴で、こんなにも悠然としていて、たしかにその物語が紡ぐ世界には人が住み、願いがあり、そして主人公たちが居た。ファンタジーだとか二次創作だとかそういうのとは関係なしに、もうこのSSにいる人達は描写されているそれだけで現実に生きているのだ。
いやもう反則ですよ、これ。こういう作品に弱いんですよ自分。世界に比べてささやかな願いと、押し寄せる理不尽との間で懸命に生きようとする人たち。現実世界で忘れ去ってしまったものが、どんどん胸の奥から溢れだしてきて、よくわからないノスタルジックなものが頭にこびり付いて離れなくなってしまうんだよ。あぁ、なんでこんなにも泣きたくなるくらい静かな作品なんだ。

戦争があった。サイトやルイズが活躍した。陰謀が在った、英雄がいた。
そう、確かにゼロの使い魔という物語はそういうお話だ。
しかしその裏で傷ついた人たちはどうなっているんだろう。原作でもSSでもなかなかそういった描写は出てこない。むしろどんどんストーリーの進行上不要なものとして、作者も読者もそういったところは書きたくない見たくないと切り捨てられる。その良し悪しは置いておくとして、間違いなくそんな場所に焦点は当てられないのだ。

にも関わらずこのSSのどうしたことか。
己の忠義で主を守れなかった人の自責、片方には恩師であり片方には仇敵である人の死に対する苦悩、戦争の裏でシェルショックに悩む人達、部下の前で弱音が吐けない上官の孤独。これらを逐一描写し、悩みぬく人々の姿はこれが単なるSS内における存在なのか疑わしくなる。現実世界のどこかで誰かが、間違いなく今この時に同じ悩みを抱えててもおかしくない。それだけのリアリティを一切の妥協無く、適当なご都合主義に走ることもなく、余すところなく思いの丈を形にしている。これを物語に対して真摯と言わずになんと言おう。

主人公であるヴィクトリアの周りには常に家族といってもいい3人がいた。原作では影に埋もれたマチルダ、虚無として在るテファ、そしてヴィクトリアの使い魔であり……世界の異物でもあるディルムッド。正直物語の必然性としてはこの4人である必要はまったくない。いやむしろこれだけ独特な世界を描けるなら、尚の事この4人にすべきではなかった。マチルダはその扱いやすさからSSで使い古されており、テファは便利な虚無としてあるいはヒロインやハーレムの一員として都合のいい存在であるため、安易な使用は作品の陳腐化にいとも容易くつながる。なによりディルムッドというわざわざ別作品からキャラを引っ張ってくるのは、多くのクロスオーバー否定派の読者から批判されるだろう。それも最も嫌な形でご都合主義と蔑まれるほどに。こんなにも素朴なストーリーにおいて、外部からの声が大きくなるようなキャラを使用するのはまさしく愚行ともいえるだろう。

しかしだ。
だからこそ、この人選には作者の願いと想いが込められているとわかる。安寧を求めていた、平和に暮らしたかった、忠を貫きたかった、そして自分の手の届く範囲で人を救いたかった。究極的にはそれらの願いは理不尽に抗いたかった、という一言に集約されるだろう。ただそれだけの想いを作者は単純に描きたかったからこそ、このSSはこんなにもシンプルでいて、そして優しい物語になったのだろう。

2012年8月29日水曜日

SSメモ:とんでも外史

とんでも外史(ジャミゴンズ)

主人公の中に複数意識がある作品ってあるようでなかなか見つからないんですよね。
そしてそれが面白いとなれば尚の事。
だからこそ敢えてこの「とんでも外史」という作品を取り上げているわけです。

が、しかし。

しかしですよ。


”これは、12人の北郷一刀が合わさって最強になったように見える、一つの外史の物語である。”(本編1話引用)


多すぎだろっ!?(笑)

というわけで本作「とんでも外史」は始まりの時点から主人公北郷くんの中に意識として各ルートクリア後の北郷くんが住み着いている物語です。世にも奇抜な設定なため、これは本当に物語として成り立つのだろうかと当初疑問を覚えましたが、全くもって杞憂でした。
もう北郷ズのやり取りにひたすら腹を抱えつつ、探り探り自らの道を模索する本体の物語はそこいらのただ原作をトレースしてオリジナルを加える恋姫SSとは桁違いに笑いと緊張感にあふれてます。しかも予期せぬ場面で読者の笑いを誘い、絶妙なタイミングで緊張感を爆発させて息を呑む展開を繰り広げるものだから、これはもう作品違うけどただただおでれぇたですよ。

しかし、上述した本編一話のこのワンフレーズ、実にこの作品のすべてを物語っている。特に最強になったように見えるという一言がつぼ(笑) 実際にSS読んでみるとわかると思いますが、本当最強になったように見えるだけで、地味に主人公何度も11人のせいで死にかけているんですよね。最強どころか自滅してるあたり最弱じゃね?と疑問に思わなくもない。
とはいえ、この北郷くんのストーリーは実にご都合主義であり、かつアンチご都合主義でもあります。やることなす事まさしく天の思うまま、のように見える一方で宮中のドロドロさが非常に鮮明に描写されており、多くの者の思惑が交差した物語進行はホラー映画のようにハラハラさせられます。

このSSのいいところは因果がきちんと跳ね返ってくるところですね。言動一つとってそれが明確な結果となって登場人物たちに突きつけられるのは、あぁこういうことをすると確かにそこに影響でるよなぁと思わされます。そのあたりが本当アンチご都合主義の筆頭とも言えましょう。すべての行動には原因があり、理由があり、そしてそれは自分自身が利用しているだけでなく、他の人にも利用されるという、なんともリアルでたしかにと思わされます。
しかしそうだよなぁ、現実って物語みたく一つの行動が一つの結果に結びつくわけじゃなく、複数の結果として目の前に現れるんだよなぁ。そこをきちんと描写できているこの作品、間違いなく作者の頭はどこか常人と違うSSへの価値観があるとおもいます。まぁ、設定からしてそうでうよねw

それにしてもこの話のヒロインの数はどうなっていくんでしょうか(笑)
単純に12人既に既定路線としてヒロインが存在するわけですが、果たしてどこまで増えるのやら。しかしながらこの作品は間違いなく悲愛ものになるんだろうと変な確信を抱かせます。ハーレムって現実心に中に決めた人がいると、非常につらいものになるからなぁ。そして作者もそのことを確実に意識していますしね。でなければこんなあまりにも唐突で、それでいて予想できて、でも信じられなくて、悲しい別離が訪れる展開作れませんよ。あーもう、こいつら全員幸せになってほしいなぁ。

2012年8月28日火曜日

SSメモ:Re:ゼロから始める異世界生活

Re:ゼロから始める異世界生活(鼠色猫)

昨日と同じ今日が延々と続くとしたら、それはまさしく絶望なんだろうなぁ。
人が自殺を考えるのは、辛いからではなく、辛いのがこの先延々と続く確信を抱いた時なんだと個人的には思ってます。日本の社会ってかなり固定化されていますから、ちょっとやそっとじゃ自分の立ち位置から抜け出せないんですよね。だからこそこんなにも年間で自殺者を排出しているんだろうと。まぁ、自殺の9割は他殺という言葉は言い得て妙なりですよね。

さておき、この作品は主人公のスバルくんが死んだら特定の時間軸まで記憶を保って戻ってくる死に戻りループものです。

ループ、そうループ!!

まさかSSでこのネタを使ってくるとは思いませんでした。ノベルゲームなどではすっかりお馴染みの手法なわけですが、ことSSになるとなかなか難しい。なにせ周回プレイという概念がありませんからね。しかしそれを逆手に取り、「周回プレイで少しずつ情報を得ているプレイヤー」自体を描けばご覧のとおり、この作品の完成ですよ。

たぶんこの手の死に戻り設定は既存の作品として(あるいは既存のジャンルとして)存在しているんでしょうけど、少なくとも私が知る限りこのSSほど優秀に、それでいて薄ら寒さを感じさせるようなものはありません。無駄に明るい性格をしている(努めている)ちょっとバカで一途なスバルという主人公だからこそ、一見重い設定にもポップな雰囲気が醸し出されていますが、これ普通の個性のない主人公でやったらめちゃくちゃ重苦しくなるぞ(笑)
仲良くなった人から他人行儀な目で見られ、必死の繕いはさらなる不信を呼び、かといってこれまでのことを一切忘れて過ごそうにも制限時間が課せられ、その先には絶望しか見えない……。おいおいおい、冗談じゃなくこれ主人公がスバルくんでよかったと思えてきたよ。基本的に芸人体質なスバルくんがいるだけで、コメディチックな舞台と登場人物とのコントのような掛け合いが生まれるので、シリアスだけじゃなく物語の空気を味わえます。

1章の時点ではまだ物語の方向性が見えなかったんですよね。スバルくんがこの謎ワールドに突入して、傷つきながら文字通り命を代償に多くの情報を得て、なんとかこの世界で生きていくための基盤を作ることに成功した、というまぁありふれたお話。ちょっと変わった異世界ものだなぁとしか思わなかったんですが、2章で世界から突き放されてどん底に落ちた瞬間は、ループしてないこっちもズシンと腹の下に何かが来るような感触がありました。見てられない、という状況をまさかSSで味わう日がこようとは思っても見なかったので、だからこそ余計に作品の行方を見届けたくなるんですよね。

現段階で物語としてはようやく世界の全容が見えてきたところ。なぜスバルが死に戻るのか、魔女の正体とはなんなのか、どうして1章が存在したのか、様々な謎を提示しつつ風呂敷を広げていく作者のSSを魅せる力には感嘆を覚えます。

だがしかし、テヘペロ☆はいただけないぞ、スバルくん。
そこはせめてメンゴ♪って謝らないと。(3章13話)

2012年8月27日月曜日

SSメモ:小池メンマのラーメン日誌

小池メンマのラーメン日誌(岳)

うはは、馬鹿だ、馬鹿たちがいる!!
なんなんでしょうね、このSSの登場人物たちは。敵も見方もひっくるめて、どうしてこんなにおもしろおかしくなっちゃってるのかw びっくりするほどユートピアネタを、まさかナルト SSで読むとは思いませんでした! しかもそれが後々に微妙に本筋と絡んでくるし。

ギャグパートは圧巻の一言。各所からパロディネタひっぱってきては、それがまたいい具合に本筋に影響を与えていて、構成力の高さが伺えます。しかもギャグだけかとおもいきや、主人公の思いや登場人物の感情、原作ナルトの雰囲気を損ねることなく、まじまじと作者の頭にあるストーリーがまるで本編だと思わせられるほど、優秀な物語仕立ても存在する始末。最近ナルト本編を読んでて、あれこれってそういう設定だったっけ、と思わず間違えてしまうほどかなり設定が作りこんであります。
ギャグよし、シリアスよし、物語よし。
おい、誰か座布団3枚ほど持ってきなさいw

まぁ、それはさておくとして。

ぶっちゃけ最初読んだ時は、つまんなかったんですよね。冒頭からして「うずまきナルトになってました。生前の名前は思い出せません(文章そのまま引用)」ですよ。あー、また転生やら憑依やらのテンプレか、と。実際序盤の物語の構成から文体まで、完全にノリで書きました!な雰囲気でしたから。そりゃもうこっちからしたら見飽きたもので、人によっては最初の一話で切るレベル。童女になった九尾のキューちゃんて……。もうちょいマシな設定とネーミングセンス考えろよ、と(笑)
ところがどっこい、中忍選抜試験あたり(8話ぐらい)からネタと文体がちょうどいい具合にミックスされ、物語の展開にしたがって徐々に文体がしっかりとしてきます。ここからギャグとシリアスが絶妙に交じり合い、笑いあり涙ありの感動大作が登場するわけです。ここまで途中から文体が変わる作品も珍しいとおもいます。

いやー、この作者頭のネジがいろんな方面に飛んでってるわ。
あっちこっちからネタを拾ってきては、自分の物語の中に応用していき、かつ本筋のシリアスな展開からは逸脱しないという破茶目茶な構成。しかし、それがうまい具合に我々読者を飽きさせないスパイスになっているのだから恐れ入る。もしかしたら10代の人にはネタが伝わらないかも知れないが、おそらくネタを知らなくても面白いだろうし、ぐぐって読み返すとさらに面白くなるだろう。

それにしてもなぜこの物語の男たちはひたすらに尻にひかれているのだろうかw しかもそれでいてそこはかとなく不憫というか報われないというか……。主人公ナルトこと小池メンマを始め、サスケやシカマルに至るまで、おいおいお前ら泣く子も黙る忍者だろ。もう少し頑張れよと言いたくなる始末。いや、実際は最後にちゃんと報われたんだけど、しかしそれでも胃薬が手放せないってどうなのよシカマルw

なんにせよ、面白いことは間違いない一作です。
原作が終わっていない状態で、いかに黒幕とかを帳尻合わせするか作者も非常に迷ったみたいですが、ぜひすべてをご覧になったあとに作者のあとがきでも読んで、納得するラストを迎えて下さい。原作のリスペクト具合も非常に高く、かつオリジナルに富んだ展開は、ナルトSSの中でトップをぶっちぎり独走していると言っても過言ではありません。いやぁ、面白かった。

キューちゃんマジ九尾。

2012年8月26日日曜日

SSメモ:―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE

―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE(蒼月)

ふむふむ、半オリジナルKanonファンタジーとな。

なるほど、ようするにゲーム「Kanon」の主人公祐一くんを魔改造して俺tueeeする所謂U-1ものか。どうせ祐一くんがなぜか初めて会ったヒロインから好意持たれたり、力を隠してランク低かったり、無駄に悲しい過去を抱えていたりするんだろう。強そうな敵キャラ出して一旦負けて、自分の過去を仲間に懺悔し、悲しみを乗り越えた先の友情パワーやらで互角の勝負を演じるも、敵キャラの覚醒に圧倒され、あわや負けそうなところでライバルキャラが駆けつけて一緒に敵倒して大団円、そしてエピローグでヒロインといちゃいちゃするんでしょ、はいはい。


……のはずだったんだ。


何も間違ってない。
上述した内容は決して嘘でも想像上のものでもなく、単なる事実だ。
本当に何一つ間違ったことは書いていない。
にも関わらずなんだこのSSの面白さはっ!?(笑)

ちょっとちょっと、もはや「Kanon」というゲームの登場人物の名前だけを借りた、まったく別の濃厚なダークファンタジーじゃないか。しかもヒロインなんてあれだけ濃い「Kanon」のヒロイン勢をすべて押しのけなんとオリキャラ。もはや原作の面影なんて名前とちょっとした設定しか残されていない。最初から半オリジナルって書いてくれよ!!(書いてます)
あー、ちくしょう。騙された。これは騙された。半端無く面白い。KanonSSの中でもトップクラス魔改造を誇っている癖に、間違いなくこれがKanon SSの中でトップクラスの面白さを誇るだろうと断言できる。主人公の過去に思わずホロリとしてしまうではないか。いや、ホロリじゃないな、なんでこんな生き方しかできないんだよってボロボロしてしまうのが正しいな。

物語の展開はまさしくテンプレといってもいいかもしれない。学園要素がないくらいか?いや、しかしそれすらも気にならないくらい、これでもかと厨二要素を搭載している。武器の二段開放とか、おいおいそれオサレ先生の得意技じゃないかと(笑) しかし読んでいる最中はそんな意識はどこ吹く風、熱い展開に思わず画面越しに息を張り詰めてうおおおぉぉ、と叫びたくなるくらい熱中してしまいました。
これこそまさにSSの醍醐味だよ。とても商業作品ではできない陳腐でテンプレート的な展開をものともせず、面白いものを面白く書いて何が悪い! と開き直るこの勢い。そして結果として凄まじく面白かった時のこの満足感。これだからSS読むのはやめられない。

やや特殊な文体ですが、ほとんど気にならずにすらすら読めました。特にこの作者の戦闘描写は圧巻モノ。ただ切り結ぶ描写をするだけが戦闘描写ではないと思い知らされるくらい、なんというか「かっこいい」です。厨二ともいいますが、今の時代のSSを見渡してこれほど純粋に自分の「かっこいい」と思うものを描写できている人が果たして何人いるか。
くだらない厨二は見飽きて、思わず息を呑むような厨二を見たい人にはおすすめのKanon SSです。

2012年8月25日土曜日

SSメモ:絶対ナル孤独

絶対ナル孤独(川原礫)

王道は面白いからこそ王道足り得る、というのを示している作品。
いや、これは面白いわ。
現代異能ファンタジーとしての王道(突然力が宿る、覚醒する)を突き進んでいるにも関わらず、どうしてこんなにも面白く、それでいて目新しく書けるのだろうか。唐突な戦闘、力に目覚めた同士の戦い、悪の力と正義の力の登場、正体不明の敵組織、心の傷……などなど。
いやはや、正直ここまでオーソドックスな題材をよくもまぁこんなにも面白くまとめあげたものだと脱帽するレベル。王道とは斯くあるべしと言っても過言ではない。

とはいえ、面白さの要素が王道だけなのかと言われるとそれもまたちょっと違うんですよね。そこらの作者に比べて、文章力というか、描写力というか……とにかく戦闘描写から日常風景、果てに登場人物の心理描写に至るまでが、凄まじく丁寧に書かれているんですよね。文章から受ける情報量が、明らかに文章を超えていると言ってもいいくらい。昨今ここまで文章力のある作者は珍しいんじゃないでしょうか。

タイトルにある通り孤独というものを一つの題材にしてはいるものの、今のところはっきりと物語の方向性としてそれが顕著に出ているわけではない。ただ随所に(1章ラストのセリフなど)孤独の意味が散りばめられているため、今後に期待といったところか。
それにしても主人公のミノルくん、ちょっと自重しなさいw 1章の時点ではすさまじく根暗で孤独だったのに、3章になってからのその孤独とかけ離れた立場と行動はなんなんだw いいぞ、もっとやれ(

それにしてもこの作者にしてこの作品ありというか、どうしてこう川原さんの描く主人公はこんなにも弱い内面と強い衝動を併せ持っているんでしょうね。作者の別作品である「ソードアート・オンライン」のキリトくんしかり、「アクセル・ワールド」のハルユキくんしかり、人というのはきっかけ次第で変われるものだと言わんばかりのこの圧倒的な人の変化ですよ。
川原さんが描く主人公って、本当冷静に眺めてみると特別な存在ってわけじゃないんですよね。もちろん物語の主人公らしい特別な境遇はあるんですが、かといって殊更に変な思考をしたり、人格が破綻しているわけではないんですよね。にもかかわらず、いざ非日常に突入した瞬間、衝動的にまるでそうするべきだと決められているかのように、自身の内に眠る密やかな、でも誰もが抱いたことのある思いに対して、素直に反応的な態度を取るんですよ。
読んでいる側としてもその反応が自然であると感じるし、まったくもって違和感がないはずなんですが……毎度どうしてこうなった状態に陥るのはもはや作者の罠(笑)

残念な点としてはまだまだ物語が途中(というかこれから佳境に入る)というところで更新停止してしまったこと。作者が書籍デビューして忙しくなってしまったのはファンとして嬉しいものの、いささか寂しい感が否めない。作者の別作品「ソードアート・オンライン」が文庫展開しているのだから、ぜひこっちもお願いしますよ電撃文庫さん。

2012年8月24日金曜日

試しに開始

とりあえずブログを開設してみる。
これまで見てきたSSをまとめるためとはいえ、果たしてブログにするほどのものかと言われたらそうでもない気が……。まぁ、気長にやっていきます。無理に続ける必要もないし。ただこのブログを見て、面白いSSに辿り着ける同志が1人でも増えたらいいなとは思う。読み返したくなるくらい個人的におすすめなSSしか載せないんで、あまりコンテンツの量は増えないかも……。

はじめに

■初めての方へ
このブログはネット小説歴12年のブログ主ClownCatが、これまで読んできたSSで繰り返し読み返したいものを忘れないようにメモするためのものです。何か面白いSSはないかなーとお探しの方は、ぜひご参考までにお立ち寄りください。

■利用法
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追記(2012.9.10)
■ちなみに
このブログで取り扱うSSの大まかな基準を記しておきます。

1.何かしらの理由で個人的に読み返したいと思うこと(≠面白い)
2.二次創作ならば原作への敬意が込められていること