2012年9月24日月曜日

SSメモ:武器屋リードの営業日誌

武器屋リードの営業日誌(五月八日)

なんというか、武器屋ってこれくらいがちょうどいいですよね。
変に強くなくて、変にキャラ作ってなくて、変にこだわりがなくて。頑固一徹! って感じの武器屋も好きなわけですが、現実あんな職人気質な人がごろごろしていたら立ち回らないわけで、本当これぐらいアバウトなくらいがちょうどいいと思うんです。

というわけで何のことやら普通の武器屋の店主が平凡ではない物語に巻き込まれるお話。これなんというか舞台仕掛けがうまいんですよね。武器屋、という特性を活かした物語の作り方は絶賛モノ。理想的な起承転結、そしてオチの付け方をしているので、いろいろ物書きにとっては参考になることが多いです。しかも章が進むに連れて、微妙に話の組み立て方を変えてくるし。ここでこう来る! と思ったら実は来ず、なにもないだろうと思っていたら残念事件でしたー、と飛び出す始末。しかもオチを毎回笑いやら泣きやらバリエーションを付けてくるので、読後感が非常にいい。一つの作品が連載しているにも関わらず、いろんな短編を一気に読んでいる感覚があります。

ぱっとこうした一般的な武器屋が活躍するSSって思いつかないんですよね。ライトノベルだと「七人の武器屋」とか、一応武器屋ものなのかな。あれはあれでいい作品でしたけど、この作品はより1人の武器屋に焦点をあてて、その人が巻き込まれる様子を手にとって楽しめます。こういってはあれですが、奇をてらわないで専門職を活かした作品って商業、ネット小説に関わらず、珍しいものです。あ、でも一般小説の方ではそうでもないか。経済小説とかもあるし。といっても、あれはあれでちょっと指向性が違いますが。

主人公のリードがこれまた不幸なのか幸運なのかよくわからない境遇で、しかしそれでも前向きに頑張っているあたり、なかなかいい主人公面してます。2章あたりから人物像もはっきりしてきて、あぁこいつは苦労人だなぁって思えるようになりました。始めはややきざったいというか、お人好しのお兄さんみたいな感じだったのですが、なんともいろんな話を見ている内に以外に現実主義だとか、でも絞めるところは絞めて、きちんと人助けするところとか、うん、なんというか生の人間だよなぁ。信用裏切られたのを高い授業料と捉えることのできる人間って案外少ないもんですよ。

しかし、なんとも表現しにくいこの文章から受ける印象。
作者から、とびっきり前線にたって流行をつくる! みたいな突出した才能は感じられないんですけど、それでも安定して良作を提供してそこそこのファンがついて、業界全体の質を保つのに貢献しそうな感じ。縁の下の力持ち的な何か。素直に綴られた文字から誠実さを感じるんですよね。作中でほら吹いてても、あ、このお話はそういうお話なのかと信じそうになるくらい、なんというか文章から物語を信じさせる力が発信されているんですよね。おかげで最初は騙されました(笑)

あと特筆すべきはキャラ立てです。
短編なはずなんですが、なんともどのキャラもきちんと物語に存在しています。レギュラーメンバーのクレアはもちろん、1章にしか登場しないキャラや、2章の友人キャラも、決して突飛なキャラではないんですが、一度読んだらこいつらいたなぁって思います。読み返しても「そうそう、こいつあとでこうなるんだよなぁ」と、予想通りのランダム性みたいな気分で読めます。

あんまりいいたくはないんですけど、正直言って、SSの質的にはちょうど全ネット小説の中間くらいに位置しているのかなーと思っています。テンプレコピー作品は除外するとして。特別優れているわけでもなく、かといって特別劣っているわけでもない。気軽に読める、安心して面白さがある、定番の品、みたいな。ポテトチップスで言えばうす塩。特別好きではないけど、安定しておいしいものがほしいならこれ、とか。だからこそ、万人におすすめできる読み返したいSSだと思います。