2012年9月17日月曜日

SSメモ:百万ゴールドの男

百万ゴールドの男(テパコ)

お、おう。SS……だよな、これ。
え、ちょっと待て、ドラゴンクエストⅢの縛りプレイをSSにするってどういうことだ!?(笑)

なんという奇作SS。
しかしこれがまた実に面白いのなんの。
ドラゴンクエストには様々な縛りプレイが存在しており、有名なもので一人旅、最短時間クリアなどがあります。このSSはその縛りプレイの内容を解釈して、そのままSSの設定に用いようというお話。なんという冒険。しかしこれを実際にプレイして、その内容をSSにしているのだから恐れ入る……。ちなみに縛りプレイの内容は「ゴールドとアイテムの使用禁止」と「一人旅」。両方共割りとオーソドックスな縛り内容なので、もしかしたら試しにやったことのある人もいるかもしれません。しかしこのプレイ内容をSSにしようと試みたことのある人がこの作者以外にいるのだろうかw

この縛りプレイに適切な解釈を施してSS世界における勇者の設定にしているわけですが、その解釈した内容が非常に上手い。ゴールドとアイテムの使用禁止という縛りは「勇者は父親の負債である借金100万ゴールドを返すために旅にでる。ただし旅の中で取得した換金可能なアイテムはすべて即道具屋で換金して借金返済に当てなければならない」という設定になり、なんというか主人公である勇者が見るのも不憫なくらい哀れです……。
だって宝箱開けてアイテムだ! と思ったら換金しないといけない現実が待ってるんですよ。つまりつまり、たとえそれば貴重なアイテムだとしても、換金しなければならない! わかる人ならわかるであろう超便利アイテム「やみのランプ(夜にするやつ)」すらも! なんという鬼畜プレイ。勇者涙目どころか、魔王どこいった状態ですよ。
ちなみに一人旅(一部物語に必須の場面では仲間を必要としますが)は「仲間の道具すらも無理やりぶんどって、1ゴールドすら掠めとる勇者に付き従う人なんていない」という設定になっています。鬼畜勇者っぷりが半端ないですが、まぁ莫大な借金している人の連帯責任になりかねない真似普通しませんよね……。

SS内での勇者の姿がこれまた涙さそうというか。
まずアイテム使えないのはもちろん宿屋にすら泊まれないのでルーラで毎晩家に帰らなければならない。その上死んだら復活するものの持ち金が半分になるという恐怖。アイテムなしなので保険をかけて冒険ができない上、協会で毒を治すこともできないので、毒=死亡のカウントダウン。普通にゲームで縛りプレイしている時は、うげー、としか思いませんが、SSにされるとここまで心を痛めるような行為になるとは思いませんでした……。うおおおい、勇者頑張れ(涙)

淡々と進む物語。
主人公の感情も非常に淡々としていて、モンスター倒した、アイテム手に入れた、借金を返済した、という単調なものが幾度も繰り返されるわけですが、ゲームを実際にプレイしているとそうなるのも当然という意識もあり、ほとんど飽きることはありません。それになんといってもストーリーが普通にしっかりと作られているのがいい! ゲームのストーリーなぞっているだけなんですが、そこにドラマ性を入れてSSっぽく仕上げているので、期待通りの予想斜め上というか、あぁ、なんだろうストーリー内には収まっているのに未知のワクワク感が通りすぎる感覚が、体中に駆け巡ります。

何よりもなぁ、世界の住人がNPCのように無機質なものかとおもいきや、それぞれ意志が存在するところが憎いところ。勇者の死を何度も目の当たりにする王様とか、都合上必要となる商人の存在とか、そしてなにより淡白で感情の起伏に乏しいプレイヤーの分身である主人公が、最後の最後で非常に人間らしい反応を見せるところとか。たしかにこいつらはこの世界で生きているんだと、そう思えます。おかげでもう縛りプレイが感情的にできなくなりそうなんですが、どうしてくれるんですか!