2012年9月22日土曜日

SSメモ:魔法の世界の魔術し!

魔法の世界の魔術し!(泣き虫カエル)


泣きたくなるくらい平凡で丁寧で繊細で、まるで竪琴の音色を聞いているかのごとく心が静まるというか、間違いなく読んでて癒されます。Fateとネギま!のクロス作品は数あれど、自分にとってはこの作品が原点なので、いろいろともしかしたら過大評価しているかもしれませんが、それでもこんな優しい文体で物語が紡がれているのは他のクロスではなかなか見られない。

衛宮士郎とエヴァンジェリン。
かたや正義としてにっちからさっちまでえっちらおっちら戦場見たらどっこいしょとどこにでも現れる正義の味方で、かたや悪としてにっちからさっちまでえっちらおっちら戦場見たらそそくさと関わらない闇の福音。結局士郎は自分から関わり、エヴァは他人から関わられるので、力が必要になるのはどっちも同じなんですが、改めてこうも二人が揃って歩いているのを見ると、なんだか不思議な気分です。この二人の心情をとくと描写し、ゆっくりその日常を描いているところが、作者わかってる。

設定としてはもはやテンプレートですね。士郎がどこかから麻帆良に転移するという、そしてエヴァと最初に鉢会うという、どこにでもありふれた展開。といっても、作品ができた当時はまだまだこの設定も現役で、むしろこの作品がテンプレート展開の一助となっているのではないでしょうか。そのあたりを事情を考えて序盤読むと、いろいろ感慨深い。あの作品はここからこういう風に派生したよなーとか、あの作品はそもそもこういう展開から避けたよなーとか、いろいろ読んできたSSを思い浮かべます。

冒頭でも書いたんですけど、すごく展開が丁寧なんですよね。
士郎が世界の違いに驚くのとか、もはや誰も書かないだろうなぁ。書くのを面倒くさがって、これはあれか平行世界というやつか、という一文で収まってしまう。そこでわざわざ考察するのもしない。士郎ってエミヤに近くなればなるほど思慮深くなるんだし、ある程度戦闘能力持ってるならそういうところちゃんと書いて欲しいなと思うわけで、このSSは見事にそこに応えてくれています。まぁ、士郎がちょっとすぐに慣れ親しみ過ぎというのが違和感あるところですが、なでぽほどじゃないのでそういう作品だと思ってスルー。刹那とまじめに戦闘しているところとか、それも実力のゴリ押しではなく非常に狡猾に勝っているところとか見ると、こいつ結構実力はエミヤに近いくせに士郎のままだよなぁ。

あぁ、あれだ。
なんというか文章から優しさとか繊細さとか感じられるけど、根本的にあるのは切なさだ。この士郎、正直言って世界に居るものの、常にどこか遠くを見ているんですよ。客観的というか。もちろん弓矢を投影してエヴァに当てて楽しむという、おいこらほのぼのしてるなぁ! と思う場面とかあるわけですが、どうにもいつか自分はこの世界からいなくなるという前提で動いているようにしか見えない。他人と深く関わることはなく、それはエヴァとの関わり方も同じで、刹那の師匠しているわりに事情に踏み込まず、結局流れるままに生きている。文体にもそれがところどころにじみ出ているんですよね。独白するところとかまさにそんな感じですし、まかり間違っても桜ルートのような士郎には見えません。

投稿数少ないと思われますが、実は本当はもっともっとあって、具体的には超が出てくるあたりまで分量ありました。にじファン以前からずっとファンだったのですが、どうにも何度となく掲載場所が移転したのを受けて、さらに読者のよくわからない辛辣な感想で、現在はもうモチベーションが維持できず更新ストップしています。完結まで書いてあるというのにもったいないとおもいますが、それ以上に作者の方が大丈夫かどうか気になります。ちゃんと静養できていればいんですが。二度とこういう作家のモチベーションを奪わないよう、読者の方には気をつけてもらいたいんですけどねえ。