2012年9月16日日曜日

SSメモ:竜殺しと龍喰らい

竜殺しと竜喰らい(三上康明)

見事なまでの真正面からの正拳突き。
いやー、すごい。真っ向から全力で一切の妥協なくブレもなく、ただただこういう物語が書きたいんだという作者の思いが、一つのSSとなりガツンと心を打ってきます。くはー、これは堪える。体の芯が痺れるほどの衝撃。敵わないなぁ。

題名どおりこのSSの世界には竜がいて、竜を殺す人たちがいて、そして殺した竜を解体する人たちがいます。基本竜が圧倒的に強いわけですが、人が力を合わせればかろうじて戦えるレベル、といったところ。戦闘がだいたい命がけなあたり、お察しください。

それにしてもこの世界の竜、ファンタジーらしくない。
すべての竜種が毒をもっているところとか、子供は襲わないとか、人を殺すと土くれに変えるとか。なんかこう竜の眼! とかブレス! とか げきりん!! とかもうちょっとなんかないのかよ、と。敢えて竜という存在の設定を既存概念から外しているあたり、正直何かの伏線があるのだろうと訝しんでしまうわけですが、後のお楽しみなんですかねえ。

そして実は竜を討伐する側も、あんまりファンタジーらしくない(笑)
一般的なファンタジー世界で竜を倒すとき、なんか魔法使いがサポートしたり、剣士が必死に斬りかかったり、あるいは扱いがぞんざいなものに至るとなんか魔法で消し飛ばされたり、剣士が一瞬で戦闘終わらせたりと、一言で言えばザ・モブって感じなんですよね。危ないと言われている割に主人公サイドからすると倒せる、みたいな。
が、しかしこのSSではことがそう単純ではなく、斥候だして竜の特性を探り、爆薬と香料で竜を混乱させて、最後に武器で倒す、と。なるほど、たしかに現実的に考えて、強大なものに挑む際は相手の弱点を突き、弱らせて仕留めるよな、と感心しています。どっかの兵法書の基本みたいな形でのってそうな、なんというか合理的な戦い方ですよね。ファンタジーとしてはどうなのと思いますが(笑)

お手本みたいなSS、とはちょっと言い過ぎかもしれませんが、少なくとも多くの物書きにとって見習うべきところはたくさんあると思えました。序盤のつかみ、物語の展開、次の話しへの引き方、どれをとっても上手いという他ありません。もちろん粗とも言えるべき場所はたくさんあり、対立構造の様子がちょっとあっさりしていたり、クライマックスの盛り上げ方とかもう少し工夫できるんじゃないかと思ったり、欠点を上げればきりがありません。某理想郷やなろうでこの作品を掲載すると、おそらく感想欄に批判コメが殺到するんじゃないでしょうか。

しかし、そんな親の仇を探すみたいに目くじら立てている感想なんてどうでもいいんです。重要なのは自分の思いに正直になって書きたいシーンを書けているかどうかです。安易に「あいつは心の中で生きている」だとか、「憎しみは憎しみを生むだけだ」とかありきたりな表現に逃げるのではなく、自分の言葉で、自分の思いで、書きたいものを書きさえすればいいんです。このSSはそういった点において、多くの作品のお手本になるのではないでしょうか。

読者に媚を売るなんてしなくていい、他作品の都合のいい解決法なんてもってのほか。SSなんですから、もっと自分の欲望に忠実になって、このシーンが書きたかったんだ! と堂々胸を張っていればいいんですよ。SS読みの人たちなんて意識してるにせよ無意識にせよ、そういう作者の思いを見たいがためにSSを読んでるはずなんですから。

最近読んだSSの中で、もっとも繰り返し読みたいと感じましたねー。ここまで作者が自分の欲求に従って書いたSSも滅多にありませんから、SSの書き手にとってはとてもいい上達材料になるのではないかと思います。もし創作に煮詰まっている人がいたらぜひ。