2012年12月15日土曜日

SSメモ:涼宮ハルヒの微笑

涼宮ハルヒの微笑

古くから二次創作SSを読んでいる人はなんとなく感じていると思うんですが、原作の穴や矛盾をついたSSって数多く存在するんですよね。もっと具体的に、原作キャラクターの行動信念や発言などでストーリーや現実と矛盾している箇所に対し、独自の見解を加えるSS、と言ったほうがいいかもしれません。FateとかヱヴァなんかのSSってこういうの多いですし。近年になってからは原作のこうした点に対して、いわゆるSEKKYOやアンチ・ヘイトというスタイルで指摘をするジャンルが増えていますが、これって「この物語を作者はこう解釈した!」っていうだけであって、別に新しくも何ともないわけです。作者や読者がどう思っているのかは知りませんが(安易にアンチ・ヘイトは嫌だ! というのは作品ジャンルに対する侮辱でもあります。安易にアンチ・ヘイトを描くのも原作に対する侮辱ですが)。

でもこういう解釈系(SEKKYO含む)の作品ってほとんどが、本当のところ原作に踊らされているのだと思うんですよ。敢えて物語に穴を用意して解釈の余地を残しておいたり、反発する意見がでるようなことをキャラクターに言わせたりしている原作って多いと思うんですよね。いや、正確にいえば原作者の頭の中にある物語が作品として描写される過程において、取りこぼされてしまった箇所が穴になった結果として解釈の余地を残したり、キャラクターを印象づけるために極端に思想を偏らせた結果、他の多様な思考を想起させるようになったりしている、とした方がいいかもしれませんね。意図的かそうでないかはともかく。

で、結局のところこうして作られた原作の穴にのっかって、二次SS作者は自分の考えた合理的な解釈をSSにしているわけです。なので大抵の作品は原作に躍らされることを強いられている(いや、別にこれが言いたかったわけではありませんよ? 本当デスヨ?)わけです。ところが一部のSSはそうやって踊らされずに、なぜこの物語の穴や矛盾が発生したのかを考えているわけで。もちろん答えなんてないわけですが、なぜを追求した結果出た結論に整合性があればあるほど、SSの説得力がまして物語の深みがでるわけです。つまるところ用意された舞台で踊るのではなく、舞台の生い立ちを考えることがいいSSにつながる秘訣だと思うんですよね。(当然例外もあるので個人的な体感でこういうSSは面白いことが多いというだけです)

さて、なぜこんなことを初っ端から長々つらつら書いているのかというと、この「涼宮ハルヒの微笑」という作品はまさしく原作の穴に真っ向から挑戦しているSSだからです。キョンの一人称一人語り視点を再現しているのはもちろん、原作の矛盾や謎だった組織のことなどを鮮やかに合理的に「なぜ原作でこうなっていたのか」を突き詰めて解釈していく様は、まさしく解釈系SSの鏡ともいえるでしょう。もちろんストーリー進行のほうも実に構成がしっかりしており、泥臭い行動や伏線回収の手法、セリフに対する感情の込め方など、もはや芸術の域といってもいいくらい。特に物語終盤の長門とキョンのやりとりなんかは鳥肌が立つほど素晴らしいと感じましたね。何度も何度も原作を読み返し、明らかにされていない箇所には独自の切り口から分析を加え、どのようにすれば原作に支障を来さずSSを作れるかを黙々と考える作者の姿が目に浮かぶようです。これには本当まいった。原作以上に原作らしいという二次創作SSにとって最上級の褒め言葉すら霞んでしまうほどの出来です。

このSSの恐ろしいところは原作が未完であり、かつSFの舞台装置をラノベにもってきたとも言われる涼宮ハルヒの憂鬱という作品に対して、独自の解釈をしていったことでしょう。なにせ矛盾しかないジャンルNo.1といっても過言でもないSFというジャンルに対して、ラノベ風にテイストされているとはいうものの合理的に解釈しようというなんて正気を疑います。というか普通は途中で破綻してしまうものだと思うんですが、よりによってそれをこのレベルの作品に仕上げるのは常識はずれもいいところ。作者不詳がもったいないほどです。このSSを書いた人にはもっといろんな場所で活躍してほしいですね。

追記(2013年4月20日)

作者様が判明しました。名乗り出ていただいて、ありがとうございます。
……うん。私の調べが至らなかったというだけで、普通に作者は判明していたというね!
というわけで反省も込めて記事本文の内容はそのままにしておきます。。。

さらに追記(2013年5月8日)

誰が作者か論争が起こっているそうなので、ひとまず作者の名前を消しておきます。正直議論が水掛け論になっていて、いきなり「どうも作者です」と言われてもそれこそ単なる荒らしにしか見えないので、あまりこういう措置は採りたくなかったのですが、ちょっとコメント欄が炎上気味だったので仕方なしにこの形になりました。ご了承下さい。