2012年8月29日水曜日

SSメモ:とんでも外史

とんでも外史(ジャミゴンズ)

主人公の中に複数意識がある作品ってあるようでなかなか見つからないんですよね。
そしてそれが面白いとなれば尚の事。
だからこそ敢えてこの「とんでも外史」という作品を取り上げているわけです。

が、しかし。

しかしですよ。


”これは、12人の北郷一刀が合わさって最強になったように見える、一つの外史の物語である。”(本編1話引用)


多すぎだろっ!?(笑)

というわけで本作「とんでも外史」は始まりの時点から主人公北郷くんの中に意識として各ルートクリア後の北郷くんが住み着いている物語です。世にも奇抜な設定なため、これは本当に物語として成り立つのだろうかと当初疑問を覚えましたが、全くもって杞憂でした。
もう北郷ズのやり取りにひたすら腹を抱えつつ、探り探り自らの道を模索する本体の物語はそこいらのただ原作をトレースしてオリジナルを加える恋姫SSとは桁違いに笑いと緊張感にあふれてます。しかも予期せぬ場面で読者の笑いを誘い、絶妙なタイミングで緊張感を爆発させて息を呑む展開を繰り広げるものだから、これはもう作品違うけどただただおでれぇたですよ。

しかし、上述した本編一話のこのワンフレーズ、実にこの作品のすべてを物語っている。特に最強になったように見えるという一言がつぼ(笑) 実際にSS読んでみるとわかると思いますが、本当最強になったように見えるだけで、地味に主人公何度も11人のせいで死にかけているんですよね。最強どころか自滅してるあたり最弱じゃね?と疑問に思わなくもない。
とはいえ、この北郷くんのストーリーは実にご都合主義であり、かつアンチご都合主義でもあります。やることなす事まさしく天の思うまま、のように見える一方で宮中のドロドロさが非常に鮮明に描写されており、多くの者の思惑が交差した物語進行はホラー映画のようにハラハラさせられます。

このSSのいいところは因果がきちんと跳ね返ってくるところですね。言動一つとってそれが明確な結果となって登場人物たちに突きつけられるのは、あぁこういうことをすると確かにそこに影響でるよなぁと思わされます。そのあたりが本当アンチご都合主義の筆頭とも言えましょう。すべての行動には原因があり、理由があり、そしてそれは自分自身が利用しているだけでなく、他の人にも利用されるという、なんともリアルでたしかにと思わされます。
しかしそうだよなぁ、現実って物語みたく一つの行動が一つの結果に結びつくわけじゃなく、複数の結果として目の前に現れるんだよなぁ。そこをきちんと描写できているこの作品、間違いなく作者の頭はどこか常人と違うSSへの価値観があるとおもいます。まぁ、設定からしてそうでうよねw

それにしてもこの話のヒロインの数はどうなっていくんでしょうか(笑)
単純に12人既に既定路線としてヒロインが存在するわけですが、果たしてどこまで増えるのやら。しかしながらこの作品は間違いなく悲愛ものになるんだろうと変な確信を抱かせます。ハーレムって現実心に中に決めた人がいると、非常につらいものになるからなぁ。そして作者もそのことを確実に意識していますしね。でなければこんなあまりにも唐突で、それでいて予想できて、でも信じられなくて、悲しい別離が訪れる展開作れませんよ。あーもう、こいつら全員幸せになってほしいなぁ。

2012年8月28日火曜日

SSメモ:Re:ゼロから始める異世界生活

Re:ゼロから始める異世界生活(鼠色猫)

昨日と同じ今日が延々と続くとしたら、それはまさしく絶望なんだろうなぁ。
人が自殺を考えるのは、辛いからではなく、辛いのがこの先延々と続く確信を抱いた時なんだと個人的には思ってます。日本の社会ってかなり固定化されていますから、ちょっとやそっとじゃ自分の立ち位置から抜け出せないんですよね。だからこそこんなにも年間で自殺者を排出しているんだろうと。まぁ、自殺の9割は他殺という言葉は言い得て妙なりですよね。

さておき、この作品は主人公のスバルくんが死んだら特定の時間軸まで記憶を保って戻ってくる死に戻りループものです。

ループ、そうループ!!

まさかSSでこのネタを使ってくるとは思いませんでした。ノベルゲームなどではすっかりお馴染みの手法なわけですが、ことSSになるとなかなか難しい。なにせ周回プレイという概念がありませんからね。しかしそれを逆手に取り、「周回プレイで少しずつ情報を得ているプレイヤー」自体を描けばご覧のとおり、この作品の完成ですよ。

たぶんこの手の死に戻り設定は既存の作品として(あるいは既存のジャンルとして)存在しているんでしょうけど、少なくとも私が知る限りこのSSほど優秀に、それでいて薄ら寒さを感じさせるようなものはありません。無駄に明るい性格をしている(努めている)ちょっとバカで一途なスバルという主人公だからこそ、一見重い設定にもポップな雰囲気が醸し出されていますが、これ普通の個性のない主人公でやったらめちゃくちゃ重苦しくなるぞ(笑)
仲良くなった人から他人行儀な目で見られ、必死の繕いはさらなる不信を呼び、かといってこれまでのことを一切忘れて過ごそうにも制限時間が課せられ、その先には絶望しか見えない……。おいおいおい、冗談じゃなくこれ主人公がスバルくんでよかったと思えてきたよ。基本的に芸人体質なスバルくんがいるだけで、コメディチックな舞台と登場人物とのコントのような掛け合いが生まれるので、シリアスだけじゃなく物語の空気を味わえます。

1章の時点ではまだ物語の方向性が見えなかったんですよね。スバルくんがこの謎ワールドに突入して、傷つきながら文字通り命を代償に多くの情報を得て、なんとかこの世界で生きていくための基盤を作ることに成功した、というまぁありふれたお話。ちょっと変わった異世界ものだなぁとしか思わなかったんですが、2章で世界から突き放されてどん底に落ちた瞬間は、ループしてないこっちもズシンと腹の下に何かが来るような感触がありました。見てられない、という状況をまさかSSで味わう日がこようとは思っても見なかったので、だからこそ余計に作品の行方を見届けたくなるんですよね。

現段階で物語としてはようやく世界の全容が見えてきたところ。なぜスバルが死に戻るのか、魔女の正体とはなんなのか、どうして1章が存在したのか、様々な謎を提示しつつ風呂敷を広げていく作者のSSを魅せる力には感嘆を覚えます。

だがしかし、テヘペロ☆はいただけないぞ、スバルくん。
そこはせめてメンゴ♪って謝らないと。(3章13話)

2012年8月27日月曜日

SSメモ:小池メンマのラーメン日誌

小池メンマのラーメン日誌(岳)

うはは、馬鹿だ、馬鹿たちがいる!!
なんなんでしょうね、このSSの登場人物たちは。敵も見方もひっくるめて、どうしてこんなにおもしろおかしくなっちゃってるのかw びっくりするほどユートピアネタを、まさかナルト SSで読むとは思いませんでした! しかもそれが後々に微妙に本筋と絡んでくるし。

ギャグパートは圧巻の一言。各所からパロディネタひっぱってきては、それがまたいい具合に本筋に影響を与えていて、構成力の高さが伺えます。しかもギャグだけかとおもいきや、主人公の思いや登場人物の感情、原作ナルトの雰囲気を損ねることなく、まじまじと作者の頭にあるストーリーがまるで本編だと思わせられるほど、優秀な物語仕立ても存在する始末。最近ナルト本編を読んでて、あれこれってそういう設定だったっけ、と思わず間違えてしまうほどかなり設定が作りこんであります。
ギャグよし、シリアスよし、物語よし。
おい、誰か座布団3枚ほど持ってきなさいw

まぁ、それはさておくとして。

ぶっちゃけ最初読んだ時は、つまんなかったんですよね。冒頭からして「うずまきナルトになってました。生前の名前は思い出せません(文章そのまま引用)」ですよ。あー、また転生やら憑依やらのテンプレか、と。実際序盤の物語の構成から文体まで、完全にノリで書きました!な雰囲気でしたから。そりゃもうこっちからしたら見飽きたもので、人によっては最初の一話で切るレベル。童女になった九尾のキューちゃんて……。もうちょいマシな設定とネーミングセンス考えろよ、と(笑)
ところがどっこい、中忍選抜試験あたり(8話ぐらい)からネタと文体がちょうどいい具合にミックスされ、物語の展開にしたがって徐々に文体がしっかりとしてきます。ここからギャグとシリアスが絶妙に交じり合い、笑いあり涙ありの感動大作が登場するわけです。ここまで途中から文体が変わる作品も珍しいとおもいます。

いやー、この作者頭のネジがいろんな方面に飛んでってるわ。
あっちこっちからネタを拾ってきては、自分の物語の中に応用していき、かつ本筋のシリアスな展開からは逸脱しないという破茶目茶な構成。しかし、それがうまい具合に我々読者を飽きさせないスパイスになっているのだから恐れ入る。もしかしたら10代の人にはネタが伝わらないかも知れないが、おそらくネタを知らなくても面白いだろうし、ぐぐって読み返すとさらに面白くなるだろう。

それにしてもなぜこの物語の男たちはひたすらに尻にひかれているのだろうかw しかもそれでいてそこはかとなく不憫というか報われないというか……。主人公ナルトこと小池メンマを始め、サスケやシカマルに至るまで、おいおいお前ら泣く子も黙る忍者だろ。もう少し頑張れよと言いたくなる始末。いや、実際は最後にちゃんと報われたんだけど、しかしそれでも胃薬が手放せないってどうなのよシカマルw

なんにせよ、面白いことは間違いない一作です。
原作が終わっていない状態で、いかに黒幕とかを帳尻合わせするか作者も非常に迷ったみたいですが、ぜひすべてをご覧になったあとに作者のあとがきでも読んで、納得するラストを迎えて下さい。原作のリスペクト具合も非常に高く、かつオリジナルに富んだ展開は、ナルトSSの中でトップをぶっちぎり独走していると言っても過言ではありません。いやぁ、面白かった。

キューちゃんマジ九尾。

2012年8月26日日曜日

SSメモ:―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE

―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE(蒼月)

ふむふむ、半オリジナルKanonファンタジーとな。

なるほど、ようするにゲーム「Kanon」の主人公祐一くんを魔改造して俺tueeeする所謂U-1ものか。どうせ祐一くんがなぜか初めて会ったヒロインから好意持たれたり、力を隠してランク低かったり、無駄に悲しい過去を抱えていたりするんだろう。強そうな敵キャラ出して一旦負けて、自分の過去を仲間に懺悔し、悲しみを乗り越えた先の友情パワーやらで互角の勝負を演じるも、敵キャラの覚醒に圧倒され、あわや負けそうなところでライバルキャラが駆けつけて一緒に敵倒して大団円、そしてエピローグでヒロインといちゃいちゃするんでしょ、はいはい。


……のはずだったんだ。


何も間違ってない。
上述した内容は決して嘘でも想像上のものでもなく、単なる事実だ。
本当に何一つ間違ったことは書いていない。
にも関わらずなんだこのSSの面白さはっ!?(笑)

ちょっとちょっと、もはや「Kanon」というゲームの登場人物の名前だけを借りた、まったく別の濃厚なダークファンタジーじゃないか。しかもヒロインなんてあれだけ濃い「Kanon」のヒロイン勢をすべて押しのけなんとオリキャラ。もはや原作の面影なんて名前とちょっとした設定しか残されていない。最初から半オリジナルって書いてくれよ!!(書いてます)
あー、ちくしょう。騙された。これは騙された。半端無く面白い。KanonSSの中でもトップクラス魔改造を誇っている癖に、間違いなくこれがKanon SSの中でトップクラスの面白さを誇るだろうと断言できる。主人公の過去に思わずホロリとしてしまうではないか。いや、ホロリじゃないな、なんでこんな生き方しかできないんだよってボロボロしてしまうのが正しいな。

物語の展開はまさしくテンプレといってもいいかもしれない。学園要素がないくらいか?いや、しかしそれすらも気にならないくらい、これでもかと厨二要素を搭載している。武器の二段開放とか、おいおいそれオサレ先生の得意技じゃないかと(笑) しかし読んでいる最中はそんな意識はどこ吹く風、熱い展開に思わず画面越しに息を張り詰めてうおおおぉぉ、と叫びたくなるくらい熱中してしまいました。
これこそまさにSSの醍醐味だよ。とても商業作品ではできない陳腐でテンプレート的な展開をものともせず、面白いものを面白く書いて何が悪い! と開き直るこの勢い。そして結果として凄まじく面白かった時のこの満足感。これだからSS読むのはやめられない。

やや特殊な文体ですが、ほとんど気にならずにすらすら読めました。特にこの作者の戦闘描写は圧巻モノ。ただ切り結ぶ描写をするだけが戦闘描写ではないと思い知らされるくらい、なんというか「かっこいい」です。厨二ともいいますが、今の時代のSSを見渡してこれほど純粋に自分の「かっこいい」と思うものを描写できている人が果たして何人いるか。
くだらない厨二は見飽きて、思わず息を呑むような厨二を見たい人にはおすすめのKanon SSです。

2012年8月25日土曜日

SSメモ:絶対ナル孤独

絶対ナル孤独(川原礫)

王道は面白いからこそ王道足り得る、というのを示している作品。
いや、これは面白いわ。
現代異能ファンタジーとしての王道(突然力が宿る、覚醒する)を突き進んでいるにも関わらず、どうしてこんなにも面白く、それでいて目新しく書けるのだろうか。唐突な戦闘、力に目覚めた同士の戦い、悪の力と正義の力の登場、正体不明の敵組織、心の傷……などなど。
いやはや、正直ここまでオーソドックスな題材をよくもまぁこんなにも面白くまとめあげたものだと脱帽するレベル。王道とは斯くあるべしと言っても過言ではない。

とはいえ、面白さの要素が王道だけなのかと言われるとそれもまたちょっと違うんですよね。そこらの作者に比べて、文章力というか、描写力というか……とにかく戦闘描写から日常風景、果てに登場人物の心理描写に至るまでが、凄まじく丁寧に書かれているんですよね。文章から受ける情報量が、明らかに文章を超えていると言ってもいいくらい。昨今ここまで文章力のある作者は珍しいんじゃないでしょうか。

タイトルにある通り孤独というものを一つの題材にしてはいるものの、今のところはっきりと物語の方向性としてそれが顕著に出ているわけではない。ただ随所に(1章ラストのセリフなど)孤独の意味が散りばめられているため、今後に期待といったところか。
それにしても主人公のミノルくん、ちょっと自重しなさいw 1章の時点ではすさまじく根暗で孤独だったのに、3章になってからのその孤独とかけ離れた立場と行動はなんなんだw いいぞ、もっとやれ(

それにしてもこの作者にしてこの作品ありというか、どうしてこう川原さんの描く主人公はこんなにも弱い内面と強い衝動を併せ持っているんでしょうね。作者の別作品である「ソードアート・オンライン」のキリトくんしかり、「アクセル・ワールド」のハルユキくんしかり、人というのはきっかけ次第で変われるものだと言わんばかりのこの圧倒的な人の変化ですよ。
川原さんが描く主人公って、本当冷静に眺めてみると特別な存在ってわけじゃないんですよね。もちろん物語の主人公らしい特別な境遇はあるんですが、かといって殊更に変な思考をしたり、人格が破綻しているわけではないんですよね。にもかかわらず、いざ非日常に突入した瞬間、衝動的にまるでそうするべきだと決められているかのように、自身の内に眠る密やかな、でも誰もが抱いたことのある思いに対して、素直に反応的な態度を取るんですよ。
読んでいる側としてもその反応が自然であると感じるし、まったくもって違和感がないはずなんですが……毎度どうしてこうなった状態に陥るのはもはや作者の罠(笑)

残念な点としてはまだまだ物語が途中(というかこれから佳境に入る)というところで更新停止してしまったこと。作者が書籍デビューして忙しくなってしまったのはファンとして嬉しいものの、いささか寂しい感が否めない。作者の別作品「ソードアート・オンライン」が文庫展開しているのだから、ぜひこっちもお願いしますよ電撃文庫さん。