2012年9月5日水曜日

SSメモ:正義の味方と悪い魔法使い



正義の味方と悪い魔法使い(ヒフミ)

クロスオーバーのSSっていろんな意味で挑戦的なんですよね。
独自解釈で互いの世界の違いを埋めなければならないし、どっちか片方に傾倒するような作品だと批判が飛び交うし、何より楽しめる読者の絶対量が少ない。こうした諸々の制約があるにも関わらず敢えてクロスオーバーを書こうとするのは、よっぽど作品を気に入っているか、作品を超えた何かを描きたいからなのではないでしょうか。クロスオーバーを求める読者は、そうしたSS作者の描きたい何かに惹きつけられて、物語にはまっていくんです。

本作「正義の味方と悪い魔法使い」はFateとネギま!のクロスオーバー作品。これだけだとまたか、と敬遠するくらいにはありふれた組み合わせです。設定も衛宮士郎がネギま!の世界に行くというもので、もう見飽きたと言う人もたくさんいるでしょう。

ただ。
そう。ただ、このSSに限っては見飽きた人も一読する価値はあると思います。なにせこのSS、4分の1は士郎の過去(ネギま!世界に至る経緯)についてこれでもかと鮮明に描写されており、その上でネギま!の世界での出来事を書いているわけですから非常に秀逸した出来になっています。いやー、Fateが暗くてダークな演出してる分、ネギま!の明るさが救いです。ちょうどいい具合の塩梅で物語が進むので、見ていてほどよい雰囲気です。

しかしもうなんというか、上手い。ただただ上手いとしか言いようがないくらい、士郎の過去話が作りこまれています。胸からこみ上げてくる何かが涙腺を刺激しては、切ない痛みが心をじくじくとえぐり込み、正義の味方というこの上ない破綻した生き方の苦しみを味わえます。そして何よりこうした思いを知った上で、悪い魔法使いとはなんぞやという命題に真っ向から挑戦し、ここに正義の味方と悪い魔法使いの原点が登場するわけです。

士郎の冷たさと暖かさを併せ持つがゆえに正義の味方としてのあり方に苦悩し進むという姿をここまで表現できるとは、正直クロスオーバーとしてではなくそのままFateのSSにすればよかったものをと思わなくもなかったわけではないんですよね。ただし、結局FateというSSにしてしまうと、そこで止まってしまうわけです。もちろん士郎の姿を描くだけならFateという作品なので十分なんですが、その先を見てみたいという気持ちがあることをこの作品で気付かされました。
正義の味方として歩き進むこと。呪いにも等しい愚直な思いとどう付き合うのか。そして周りの人たちはどうそれを見守り、悩み、支えるのか。それぞれの想いの先を、見てみたいという気持ちが心のどこかに少なからずあったんですよね。それはきっと自分だけではなく、SSを読みあるいは書く人たちの中に、気づかないくらいそっと根付いている。このSSがFate、ネギま!という作品のクロスオーバーなのは、この作者にとって、Fateの士郎とそれを取り巻く人達の答えがネギま!という作品に存在していた、ただそれだけなんじゃないんでしょうか。

考えてみればネギま!作中に出てくる悪の魔法使いなんて、正義の味方の対局にあるような在り方なんですよね。ある程度独自の解釈や考察が含まれますが、正直はっきりとここまで対比するように物語が進むとは思いませんでした。この対比構造が、きっと何かしらの答えを生み出すきっかけになるんでしょう。本当両作品への愛が伝わってきます。互いの作品を貶すことなく作品を混ぜあわせ、リスペクトした結果が題名にある「正義の味方」と「悪の魔法使い」という言葉に集約され、この両者が紡ぐ物語にこそ作者の描きたいものが在るのだと、まじまじと感じさせられます。

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