ラベル 連載:停止中 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 連載:停止中 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2013年1月25日金曜日

SSメモ:天葬の聖痕

天葬の聖痕(志賀あきと)

最近の厨二SSと昔の厨二SSを比較して特に面白いと思うのは、主人公が力を持つようになった経緯の描写方法の違いですね。最近のSSは「なぜ主人公が強くなったのか」を説明していることが多いと思っています。それが神様チートであり、転生した主人公の幼児時における修行シーンであれ。最近はそこに経験値概念とか自分だけが知っている抜け道、とかも含まれるかな? で、それに対して昔のSS(といっても数年前のレベル)って案外そうした描写ってないんですよね。そもそもが強いところから物語が始まっているか、或いは過去回想として描写するかされてたわけです。少なくともいきなり師匠との修行シーンとか主人公が他人と違う方法で成長しているシーンとかから始まるSSはなかった気がするんですよ。一概にどちらがいいとは言いませんが、ただ個人的に厨二感情を満たしたい時に読み返す作品って大抵が後者……つまり昔のSSチックに主人公が最初から強いパターンなわけです。たぶんそれって単純に敵をちまちま倒している描写がまどろっこしいからなんですよね。厨二要素を読むまでに厨二以外のものを読まないといけないというのは案外面倒くさいものです。

その点でいえば、この「天葬の聖痕」という作品は突発的に厨二要素を摂取したくなった時に読み返すSSとしてパーフェクトなわけです。現代の厨二テンプレの元となった要素がふんだんに取り入れられているのだから、ある意味では当時としては先駆的テンプレ(?)なのかもしれません。なんといっても最近ではあまり見られない奈須きのこや西尾維新あたりをリスペクトしたこの独特の文体。いわゆるご両名のような新伝奇的な書き方って、素人が真似してもただ回りくどい文になるだけになんですが、このSSに関してはその心配がないほどにリスペクト具合が逸脱しています。本当見事としか言い用がありません。もちろん伝奇活劇小説と銘打つだけのことはあり、シナリオの雰囲気もとても魅力的なものに仕上がっています。

話の筋としては、最強主人公の芙蓉水薙がヒロインの当夜霧を敵対魔術組織から守る感じのものです。いかにもな設定の割に、これが深いところまで過去を練り込んでSSを書いているおかげか、普通の作品なら定番な展開もこの作品ではかなり緊張感があります。主人公が最強なわけですが、それでもできないことはあって、本編中にさりげなく散りばめられた過去話では敵対組織との戦いで仲間が死んだり犯されたりと悲惨な話も垣間見れて、決してご都合主義なだけでは生きていられない世界観が浮き彫りになっています。なので、本当油断ならないお話です。そこがたまらなく読者を惹きつける材料となっている感は否めませんが。不条理な世界で精一杯生きていくキャラクター達が活躍しているからこそ、どうにもストーリーから目が離せないんですよね。

文体やストーリー、そしてその世界観もさることながら、個人的に一番このSSの肝となっているのは筆者の卓越した格闘に対する知識とそれらを十全に表現しきっている描写力ですね。このSSの世界は普通に魔術とかそういうのがあるわけなんですが、困ったことに魔術よりも肉弾戦に目が言ってしまうというある意味ではファンタジーや伝奇として致命的な欠陥があるという謎具合です。もちろんだからといって魔術の描写が悪いとかではなく、むしろ出てくる魔術師の千差万別の能力は非常に魅力的にうつるわけですが、いかんせん刀を用いた戦闘だとか、細かい体の一挙一動の方が手汗握るくらい夢中になって見てしまうわけです。この点においては個人的に文体の元となった作者のレベルを超えていると感じています。といってもそれと同じくらいコメディパートが笑えるので、真剣に見てたと思ったら思わぬギャグの存在に笑ってしまうというか(笑)

ちょっと昔の作品なので、もはや更新は絶望的……だったのですが、最近また少しだけ更新しているようなので、1年1話あたりを目安にのんびり読んでいけたらなと思います。まぁ、とはいってもちょっと連載中と表記するには勇気がいるので、とりあえずラベルは連載:停止中にしておきますが、そのうちまた月1とかでもいいので更新してくれると嬉しいですね。

2012年9月24日月曜日

SSメモ:武器屋リードの営業日誌

武器屋リードの営業日誌(五月八日)

なんというか、武器屋ってこれくらいがちょうどいいですよね。
変に強くなくて、変にキャラ作ってなくて、変にこだわりがなくて。頑固一徹! って感じの武器屋も好きなわけですが、現実あんな職人気質な人がごろごろしていたら立ち回らないわけで、本当これぐらいアバウトなくらいがちょうどいいと思うんです。

というわけで何のことやら普通の武器屋の店主が平凡ではない物語に巻き込まれるお話。これなんというか舞台仕掛けがうまいんですよね。武器屋、という特性を活かした物語の作り方は絶賛モノ。理想的な起承転結、そしてオチの付け方をしているので、いろいろ物書きにとっては参考になることが多いです。しかも章が進むに連れて、微妙に話の組み立て方を変えてくるし。ここでこう来る! と思ったら実は来ず、なにもないだろうと思っていたら残念事件でしたー、と飛び出す始末。しかもオチを毎回笑いやら泣きやらバリエーションを付けてくるので、読後感が非常にいい。一つの作品が連載しているにも関わらず、いろんな短編を一気に読んでいる感覚があります。

ぱっとこうした一般的な武器屋が活躍するSSって思いつかないんですよね。ライトノベルだと「七人の武器屋」とか、一応武器屋ものなのかな。あれはあれでいい作品でしたけど、この作品はより1人の武器屋に焦点をあてて、その人が巻き込まれる様子を手にとって楽しめます。こういってはあれですが、奇をてらわないで専門職を活かした作品って商業、ネット小説に関わらず、珍しいものです。あ、でも一般小説の方ではそうでもないか。経済小説とかもあるし。といっても、あれはあれでちょっと指向性が違いますが。

主人公のリードがこれまた不幸なのか幸運なのかよくわからない境遇で、しかしそれでも前向きに頑張っているあたり、なかなかいい主人公面してます。2章あたりから人物像もはっきりしてきて、あぁこいつは苦労人だなぁって思えるようになりました。始めはややきざったいというか、お人好しのお兄さんみたいな感じだったのですが、なんともいろんな話を見ている内に以外に現実主義だとか、でも絞めるところは絞めて、きちんと人助けするところとか、うん、なんというか生の人間だよなぁ。信用裏切られたのを高い授業料と捉えることのできる人間って案外少ないもんですよ。

しかし、なんとも表現しにくいこの文章から受ける印象。
作者から、とびっきり前線にたって流行をつくる! みたいな突出した才能は感じられないんですけど、それでも安定して良作を提供してそこそこのファンがついて、業界全体の質を保つのに貢献しそうな感じ。縁の下の力持ち的な何か。素直に綴られた文字から誠実さを感じるんですよね。作中でほら吹いてても、あ、このお話はそういうお話なのかと信じそうになるくらい、なんというか文章から物語を信じさせる力が発信されているんですよね。おかげで最初は騙されました(笑)

あと特筆すべきはキャラ立てです。
短編なはずなんですが、なんともどのキャラもきちんと物語に存在しています。レギュラーメンバーのクレアはもちろん、1章にしか登場しないキャラや、2章の友人キャラも、決して突飛なキャラではないんですが、一度読んだらこいつらいたなぁって思います。読み返しても「そうそう、こいつあとでこうなるんだよなぁ」と、予想通りのランダム性みたいな気分で読めます。

あんまりいいたくはないんですけど、正直言って、SSの質的にはちょうど全ネット小説の中間くらいに位置しているのかなーと思っています。テンプレコピー作品は除外するとして。特別優れているわけでもなく、かといって特別劣っているわけでもない。気軽に読める、安心して面白さがある、定番の品、みたいな。ポテトチップスで言えばうす塩。特別好きではないけど、安定しておいしいものがほしいならこれ、とか。だからこそ、万人におすすめできる読み返したいSSだと思います。

2012年9月22日土曜日

SSメモ:魔法の世界の魔術し!

魔法の世界の魔術し!(泣き虫カエル)


泣きたくなるくらい平凡で丁寧で繊細で、まるで竪琴の音色を聞いているかのごとく心が静まるというか、間違いなく読んでて癒されます。Fateとネギま!のクロス作品は数あれど、自分にとってはこの作品が原点なので、いろいろともしかしたら過大評価しているかもしれませんが、それでもこんな優しい文体で物語が紡がれているのは他のクロスではなかなか見られない。

衛宮士郎とエヴァンジェリン。
かたや正義としてにっちからさっちまでえっちらおっちら戦場見たらどっこいしょとどこにでも現れる正義の味方で、かたや悪としてにっちからさっちまでえっちらおっちら戦場見たらそそくさと関わらない闇の福音。結局士郎は自分から関わり、エヴァは他人から関わられるので、力が必要になるのはどっちも同じなんですが、改めてこうも二人が揃って歩いているのを見ると、なんだか不思議な気分です。この二人の心情をとくと描写し、ゆっくりその日常を描いているところが、作者わかってる。

設定としてはもはやテンプレートですね。士郎がどこかから麻帆良に転移するという、そしてエヴァと最初に鉢会うという、どこにでもありふれた展開。といっても、作品ができた当時はまだまだこの設定も現役で、むしろこの作品がテンプレート展開の一助となっているのではないでしょうか。そのあたりを事情を考えて序盤読むと、いろいろ感慨深い。あの作品はここからこういう風に派生したよなーとか、あの作品はそもそもこういう展開から避けたよなーとか、いろいろ読んできたSSを思い浮かべます。

冒頭でも書いたんですけど、すごく展開が丁寧なんですよね。
士郎が世界の違いに驚くのとか、もはや誰も書かないだろうなぁ。書くのを面倒くさがって、これはあれか平行世界というやつか、という一文で収まってしまう。そこでわざわざ考察するのもしない。士郎ってエミヤに近くなればなるほど思慮深くなるんだし、ある程度戦闘能力持ってるならそういうところちゃんと書いて欲しいなと思うわけで、このSSは見事にそこに応えてくれています。まぁ、士郎がちょっとすぐに慣れ親しみ過ぎというのが違和感あるところですが、なでぽほどじゃないのでそういう作品だと思ってスルー。刹那とまじめに戦闘しているところとか、それも実力のゴリ押しではなく非常に狡猾に勝っているところとか見ると、こいつ結構実力はエミヤに近いくせに士郎のままだよなぁ。

あぁ、あれだ。
なんというか文章から優しさとか繊細さとか感じられるけど、根本的にあるのは切なさだ。この士郎、正直言って世界に居るものの、常にどこか遠くを見ているんですよ。客観的というか。もちろん弓矢を投影してエヴァに当てて楽しむという、おいこらほのぼのしてるなぁ! と思う場面とかあるわけですが、どうにもいつか自分はこの世界からいなくなるという前提で動いているようにしか見えない。他人と深く関わることはなく、それはエヴァとの関わり方も同じで、刹那の師匠しているわりに事情に踏み込まず、結局流れるままに生きている。文体にもそれがところどころにじみ出ているんですよね。独白するところとかまさにそんな感じですし、まかり間違っても桜ルートのような士郎には見えません。

投稿数少ないと思われますが、実は本当はもっともっとあって、具体的には超が出てくるあたりまで分量ありました。にじファン以前からずっとファンだったのですが、どうにも何度となく掲載場所が移転したのを受けて、さらに読者のよくわからない辛辣な感想で、現在はもうモチベーションが維持できず更新ストップしています。完結まで書いてあるというのにもったいないとおもいますが、それ以上に作者の方が大丈夫かどうか気になります。ちゃんと静養できていればいんですが。二度とこういう作家のモチベーションを奪わないよう、読者の方には気をつけてもらいたいんですけどねえ。

2012年9月21日金曜日

SSメモ:Eternal Snow

Eternal Snow(神室儀)

俺が、俺達が、U-1だ!!

いや、いきなりこいつ大丈夫か?みたいに思わないで下さいね。なんというか改めてこのSSを見なおして最初に出てきた感想があまりにもこの言葉通りだったので、ちょっと衝動的に書いてしまいました。本来ならもっと熟考して推敲してその上でSSメモを載せているのですが、どうにもこの言葉だけは消せませんでした。それくらい我ながら的確な感想だったわけです。

さて、前置きからもわかるように、このSSはいわゆるU-1系の鍵作品です。それも鍵以外のブランドも含めて5作品くらいクロスオーバーさせた、ようするにごった煮ファンタジーSSです。クロスオーバーというだけで忌避する人がいるかもしれませんが、大丈夫です。

このSSはU-1ものです。
ようするに、原作なぞ知らなくても読めます(

というかU-1ものになると、原作に沿った展開している方が面白くなくなります。キャラだけを借りたほぼオリジナルSSと見ていれば、普通に楽しめます。もちろん原作知っているとより具体的にイメージできるので楽しめるかもしれませんが。鍵作品で繰り返し読みたいSSって大抵が巷でU-1と言われる作品になってしまうんですよね。母数的にもおそらく多い方のジャンルでしょうし。でも特別そういった要素が好きな訳ではなくて、どちらかといえばそういったテンプレは遠慮したい側です。流行の転生トラックとか神様転生とか、正直なところその要素いらないんじゃないかと常々思っていますし。
ただ、そうしたSSの中でもまた改めて読み直したいと思えるSSがあるのは、純粋にそのSSがファンタジー(あるいはSF、あるいは普通の現代作品)として魅力的な世界観を作っているからなんですよね。結局のところ、どんなにテンプレートで陳腐な展開をしていようが、面白いSSであれば問題ないわけですよ。それこそ二次創作なんて始まり方がたいてい同じなわけですし。で、かなり遠回りになってしまいましたが冒頭の感想はどういう意味かというと、

このSS、主人公的な存在が5人いて、皆がU-1っぽく魔改造受けてます(笑)

いや、意味がわからないかもしれませんが、実際そうなんです。KanonからU-1こと祐一くんと一弥くん、ONEから折原くん、ダ・カーポから純一くん、それ散るから舞人くんが出演しているという、時代を物語っているようなこのメンツ。こいつらがそれぞれ違う地域を舞台に、活躍していくわけですが、これが面白いの何の。っていうか祐一以外馬鹿しかいないせいで、こいつ1人万年苦労人になってるんだけどw ブラコンにシスコンに唯我独尊が二人。哀れ、祐一。姿隠して戦ってるくせに、苦労人じみたところがにじみ出てるよ、あんた……。

学園もので、強さにランクがあって、世界に人類の敵が存在し、主人公達かなり力があるけど学園では隠してて弱者に見られてるという、これでもかと厨二要素を詰め込んでいます。しかも復讐のために力をつけているという設定なので、サスケェも顔負けです。もっともだからといって作品の空気が暗いかと言われるとそうでもなく、どの主人公もさすがの主人公であると思わせるほど、いろんな意味で明るいんですよね。

物語は第一部終了といったところ。この展開がまた憎らしい。というかこの展開がなければ、繰り返し読みたいとは思いませんでした。第2部は主人公たちがこれほどまでに明るくなれるきっかけを与えた2人の先輩たちが紡ぐお話です。クロスオーバー作品がこれでまた一つプラスされるわけですが、これくらい開き直って独自に展開してくれるのならこれはこれでありだと思います。連載さえ止まっていなければなっ!!!

2012年9月15日土曜日

SSメモ:―THE LEGEND OF DRAGON―

―THE LEGEND OF DRAGON―(YAN)

ちょっとした前書き。

***
今回掲載するSSメモはブログに載せていいものかと非常に悩んだのですが、ネット上で検索すれば見れるからいっかと開き直って掲載しています。作者様かサイト管理者様からクレームがあれば記事ごと消すつもりなのでご勘弁を。ちなみに該当SSはDragon000〜059及びDragon.bangai.01〜05です。同作者の別作品も同ページに存在しているので注意。
***

ポケモン×ダークファンタジーという非常に稀有な組み合わせのSS。ポケモンSSの中でも極めて異色なものであり、少なくとも今流行(?)の転生者がゲーム知識いかして無双するSSを好む人は観閲注意です。普通にポケモンが死んだり、人が死んだりします。そもそもダークファンタジーですしね。

しかしまぁ、なんと重厚な空気感を醸し出すSSだろうか。
ポケモンの技やタイプ特性を生まれつき持ち合わせる亜人という人種、戦乱が終わってなお取り巻く慌ただしい雰囲気、そしてポケモンにも人にも牙を剥く「死獣」という存在。ポケモンバトルという概念は廃れ、人も亜人もポケモンと共に戦うことが前提であり、軍という組織まで存在する。

本当にこれがポケモン世界なのかと疑われるかもしれませんが、読めばなるほど、こういうポケモンの世界もありなのかな、と納得します。もしかしたら空気としてはポケットモンスターSPECIALの初期に似てるかもしれませんね。イワークで人を締め付けたり、人をじわれで落としたり、10万ボルトを人に浴びせたり……うん、よく考えればあの作品小学生向けの雑誌で連載してはいけなかったんじゃないのだろうかw

実は世界観や異色な組み合わせの割に、ストーリーはひどく王道なんですよ。主人公のブレスは竜王族というドラゴンタイプの亜人で、ボーイかどうかはともかくミーツガールするところから、本格的に物語が始まります。それまで弟子やら賞金稼ぎやら謎の敵やらおっかないお姉さんキャラが出てきて、いろいろ世界観を固めていくわけですが、間違いなく物語の始まりはヒロインであるファリンというミュウを連れた謎の少女との出逢いですね。
記憶喪失なファリンの記憶を取り戻すため、いろいろと旅をはじめるわけですが、これがまた次々とビックスケールな話になっていく様は、さながらラピュタのようです。突飛な世界の割に堅実なストーリーが展開され、当然黒幕やら死獣の謎というところまで言及し、涙あり別れありの一つのサーガが形作られていくんですよ。風呂敷がどんどん広がっていくこの世界観、たまんないくらいワクワクしませんか?

なんというか、今のポケモンSSで足りないと感じるのはこういうところなんですよね。確固たる世界観を作れていないのと、安易にポケモンバトルを描写しているところと、目的の分からないストーリー展開が続くところ。こうした作品が当たり前というのはちょっといただけない。このSSが示している通り、割りとポケモンっていろいろ話を広げる下地があると思うんですよね。ファンタジーな世界にそのままポケモンのタイプ概念と技を導入すれば、それだけで列記とした魔法体系に匹敵するほどのシステムにもなりうるし。できればこういうポケモンSSがもう少し増えて欲しいところ。あ、でも「ゼクロムに・・・!!」はご遠慮ください。

2012年9月9日日曜日

SSメモ:未完成の城

未完成の城(Xeno)

KanonのSSってこの界隈では有名なほど魔改造されたものが多いわけですが、ぶっちゃけるとそうしたSSのほとんどが名前とちょっとしたセリフを変えるだけで普通のファンタジー小説に成り下がるんですよね。何が言いたいかというと、どんなにKanon魔改造SSで面白い!と言われようと、冷静に作品を見るとただの厨二病ファンタジーにしかならなくて、ちょっとゲンナリすることが多いわけです。で、本作「未完成の城」はそんな感じにスレているときにおすすめされて読んだわけですが。。。

これはまいった。

普通に面白い。普通を通り越して面白い。
他のKanonのSSと同様、相も変わらず原作「Kanon」の主人公祐一くんがU-1くんになっていますが、この戦記的な空気と独特な世界観がもうそんな些細なこと気にすんな!と言わんばかりに読ませてくれます。KanonのSSに共通する序盤の定番やりとりさえ乗り超えてしまえば、あとはもう原作はどこ吹く風、ひたすらファンタジーな世界にようこそですよ。

なによりこのSSの一風変わったところは、KanonのSSでU-1モノにも関わらず、その強大な力を単純そのままに振るわないところですよ。単身で一都市を滅ぼせる力がありながら、平和を導くためにのみ使うその生き方に、言い知れない儚さを感じます。なんというか、この妙な空気感は祐一くんにだけあるものじゃないんですよね。この作品自体に、そうしたメッセージがあるというか、きっと作者の伝えたいことは、そういうことなんだろうと変な納得があります。もうなんか祐一くんが覚悟を決めるシーンとか、そうじゃない、そうじゃないだろ、と内心縋りつくように祈るように読み進めるわけですが、結局最初からこいつは変に優秀で自分の力を疑っていなくて、それでいて他人の力も疑ってないわけなんですよね。作中で祐一に対して「お前が10の力をもってるとして、おまえは他の人の力を3だと思っているだろうが、実際は1かそれ以下なんだ」とちょっとだけ諭すシーンがあるんですが、まさにそんな感じなんです。なまじ優秀な分、他人の上限までも引き上げちゃって、自分がいなくても大丈夫だという妙な断定を作っちゃうんです。こういう子だもんなぁ、この祐一くん。変にねじ曲がっているよりよっぽどいいけど、これはこれでたちの悪い素直さです。

さてさて、間違いなく主人公が中心となって物語が進んでいるわけですが、祐一くんもさることながら祐一くんを支える周囲のキャラクターが素晴らしい。この祐一くんに対する絶対なる信頼感と、その信頼の裏にある致命的な過信と、そして何が何でもこいつだけはという執念にも似た意地が、胸の奥底で眠っている何か巨大な感情を沸き起こしてきます。ある意味でそれは激情にも似た何かであり、愛と同じ存在であり、感銘に打たれる場所そのものなんでしょう。感情は留まらず引き伸ばされ、やげて希釈されてまた心の奥に眠ってしまうんでしょうが、過去に発見され、現在自覚し、そして未来に忘れ去られるまで、生きていく原動力として自分の中でアクセルを鳴らし続けるものになると思います。

それにしてもこの作者、キャラの散り際を描くのが非常にうまい。
語弊を恐れずに言えば、どんな風にキャラクターを殺せば、そしてどんな風にそれを描写すれば、その死というものを単なる死ではなく意味のある死にできるかということを非常にうまく捉えている。戦記モノなので人の生死は隣り合わせにあるわけですが、それにしたってあんな散り際見せられて、あんな描写の仕方をされると、そりゃあ心が揺さぶられるやい。あぁ、ちくしょう、作者の思う壺とわかりつつも、反応せざるを得ない。悔しい、でも感じちゃ(ry

とりあえず現状で第一部は終了しているので、ある程度後ぐされなく物語を楽しめるとは思います。2部やら外伝やらを読んでしまうと、間違いなく中毒者になってしまうので用法用量にはご注意ください。

2012年9月7日金曜日

SSメモ:開・運命の輪



開・運命の輪(神崎真亜)

くっはーー、これだよこれ!
外角低めのぎりぎりストライクな場所に鋭いけど愚直なまでのまっすぐを投げられて、手の出しようがないにも関わらずバッターボックスに立てて悔いのないと思えるこの感覚。設定も文体もキャラクターもどこか未熟で世界観すらも穴だらけなのに、きっちり読者のストライクゾーンに抉りこんでくるのは、作者のセンスを文字通り物語っています。これが書きたいんだ! と読者ほっぽり出して頭の中にある妄想をがばばーと放り出す作者のひたむきな情熱が、とくとくんと身に押し寄せてきます。

いやはや、これは無理だって。
開いてしまったらもう読むしか無い。
たとえ序盤がやや読みづらくても、改稿した後特有のちぐはぐな場所があったとしても、一度設定やらキャラクター同士の関係やらを把握してしまったら、あとはもう作者の抜群なコメディと心の機敏をうまく捉えたシリアス物語に、ひたすらのめり込むだけです。この途中からの読ませる力は鬼気迫ってます。もっと先が読みたい、先を、先を、と没入していく感覚はまさに麻薬。SS読者なんて大抵SSという麻薬の中毒者なわけですが、そんな中毒者でも満足する出来栄えです。

主人公の魁くんもいい味してるんですよねぇ。強さを隠すとか、過去にトラウマがあるとか、それなんて厨二病と思いましたけど、素の性格がツッコミ気質過ぎて、そしてストーリーのいたるところでツッコミせざるを得ない状況過ぎて、もはやかっこいいではなくかわいいになってる(笑)力を隠してる時も隠していない時も、こいつもはやツッコミしかしてなくね? あ、ヒロインやら周囲の人達からいじめられてる時のいじけっぷりもなかなかに板がついているか。つーか、生い立ちからしていじられキャラだもんね。生きてる限り、きっと魁くんはこう生きていくんだろう。
頑張れ、超頑張れ。

いやー、笑った。笑って、そして泣いた。
特に過去編読んでる時のあの尋常じゃない切なさ。
本編を読んでいるがゆえに、このなんでもない日常が、当然のように傍にいる人たちが、いつも見守っている英雄が、腫れぼったい息をついてしまうほど尊く感じてします。
なによりこうした背景を作者がしっかり練りこんでいるからこそ、本編のあの先の見えない焦燥感と緊張感が生まれるんだろうな。そりゃあ学園生活にもなかなか溶け込めないわー。現代日本の学校に戦時中の前線行きした子供をぶち込んで表面取り繕えと命令してるもんだし。

金払ってでも続きが読みたいSSって私の中ではたくさんあるんですけど、このSSはまさにその筆頭候補の一つですね。電子書籍として自費出版してくれたら、間違いなく飛びつきます。それくらい本当惜しいところで止まっているんですよ。物語の全貌がいよいよ明かされ、なぜ魔法みたいな力や学園という養成機関が存在するのか、そういった誰もがファンタジー世界で気にしない事を理路整然と説明し、過去の騒動から現在の状況を作り出すに至った黒幕の正体がようやく発覚した、まさにそのタイミングで、更新が途切れてしまっているわけですから、本当残念です。
二年越しに生存報告があり、どうやら作者の方は獣医試験に受かったようで非常におめでたいことです。もし可能ならこのまま連載してほしいんですが、獣医試験と同じく頑張ってもらえないものでしょうか……。
金を振り込む準備は2年前からしてますよー。

2012年9月5日水曜日

SSメモ:正義の味方と悪い魔法使い



正義の味方と悪い魔法使い(ヒフミ)

クロスオーバーのSSっていろんな意味で挑戦的なんですよね。
独自解釈で互いの世界の違いを埋めなければならないし、どっちか片方に傾倒するような作品だと批判が飛び交うし、何より楽しめる読者の絶対量が少ない。こうした諸々の制約があるにも関わらず敢えてクロスオーバーを書こうとするのは、よっぽど作品を気に入っているか、作品を超えた何かを描きたいからなのではないでしょうか。クロスオーバーを求める読者は、そうしたSS作者の描きたい何かに惹きつけられて、物語にはまっていくんです。

本作「正義の味方と悪い魔法使い」はFateとネギま!のクロスオーバー作品。これだけだとまたか、と敬遠するくらいにはありふれた組み合わせです。設定も衛宮士郎がネギま!の世界に行くというもので、もう見飽きたと言う人もたくさんいるでしょう。

ただ。
そう。ただ、このSSに限っては見飽きた人も一読する価値はあると思います。なにせこのSS、4分の1は士郎の過去(ネギま!世界に至る経緯)についてこれでもかと鮮明に描写されており、その上でネギま!の世界での出来事を書いているわけですから非常に秀逸した出来になっています。いやー、Fateが暗くてダークな演出してる分、ネギま!の明るさが救いです。ちょうどいい具合の塩梅で物語が進むので、見ていてほどよい雰囲気です。

しかしもうなんというか、上手い。ただただ上手いとしか言いようがないくらい、士郎の過去話が作りこまれています。胸からこみ上げてくる何かが涙腺を刺激しては、切ない痛みが心をじくじくとえぐり込み、正義の味方というこの上ない破綻した生き方の苦しみを味わえます。そして何よりこうした思いを知った上で、悪い魔法使いとはなんぞやという命題に真っ向から挑戦し、ここに正義の味方と悪い魔法使いの原点が登場するわけです。

士郎の冷たさと暖かさを併せ持つがゆえに正義の味方としてのあり方に苦悩し進むという姿をここまで表現できるとは、正直クロスオーバーとしてではなくそのままFateのSSにすればよかったものをと思わなくもなかったわけではないんですよね。ただし、結局FateというSSにしてしまうと、そこで止まってしまうわけです。もちろん士郎の姿を描くだけならFateという作品なので十分なんですが、その先を見てみたいという気持ちがあることをこの作品で気付かされました。
正義の味方として歩き進むこと。呪いにも等しい愚直な思いとどう付き合うのか。そして周りの人たちはどうそれを見守り、悩み、支えるのか。それぞれの想いの先を、見てみたいという気持ちが心のどこかに少なからずあったんですよね。それはきっと自分だけではなく、SSを読みあるいは書く人たちの中に、気づかないくらいそっと根付いている。このSSがFate、ネギま!という作品のクロスオーバーなのは、この作者にとって、Fateの士郎とそれを取り巻く人達の答えがネギま!という作品に存在していた、ただそれだけなんじゃないんでしょうか。

考えてみればネギま!作中に出てくる悪の魔法使いなんて、正義の味方の対局にあるような在り方なんですよね。ある程度独自の解釈や考察が含まれますが、正直はっきりとここまで対比するように物語が進むとは思いませんでした。この対比構造が、きっと何かしらの答えを生み出すきっかけになるんでしょう。本当両作品への愛が伝わってきます。互いの作品を貶すことなく作品を混ぜあわせ、リスペクトした結果が題名にある「正義の味方」と「悪の魔法使い」という言葉に集約され、この両者が紡ぐ物語にこそ作者の描きたいものが在るのだと、まじまじと感じさせられます。

2012年9月4日火曜日

SSメモ:三国志外史

三国志外史(月桂)

恋姫SSの中でもっとも戦記として優秀なSSと聞かれたら、迷わず私はこのSSをおすすめします。そう断言できるくらい、このSSには読ませる力があります。

いやはや、蜀ルートでここまで泥臭く傷だらけな一刀くんはなかなかお目にかかれませんよ。つーか告白するヒロインが予想外すぎるんですが(笑) そもそものストーリーの成り立ちからして明らかに普通のSSと一線離れてますからねぇ。おいおい、始まりが『数え役萬☆しすたぁず』のマネージャーて……しかもだいぶ手馴れてるとは何事か!!w

突っ込みどころ満載なところから始まり、まさかの天の御遣いでないまま蜀ルートに突入し、あまつさえ死にかけてドロドロになってそれでも歯を食いしばった末に地に名を轟かす将軍になるなんて、いやーこれ本編でもよくない? って思うくらいこいつ主人公してる。天の御遣いじゃなくても、一刀くんはやはり一刀くんなんですよねぇ。なんとまあ勇ましく、それでいてかっこいいじゃありませんか。どこかの種馬さんとはえらい違いです。

作品の展開は本格的に独自に考案されています。ここまでいろいろ考えたりできる作者も非常に素晴らしい。やや固めな文体から紡がれるストーリー展開は、硬派な三国志を思い起こします。そのくせきっちり燃えるところと萌えるところを抑えているのは、やはり作者の力量か。作者に個人ファンがつくのも納得の出来栄え。

登場人物の内心のささやかさと、先行きを不安に思わせる作者の地の文が、これまた憎たらしいくらい悲劇と喜劇を予感させるものだから、読んでる時は常にハラハラ状態ですよ。原作からだいぶ乖離した展開を見せているため、まったくもって話の先が予想できませんし、かといって原作を完全無視していると言われるとそうでもないところがじれったい。くそぅ、作者め。人の純情を弄びやがって(

それにしても恋姫SSでここまで読ませる文章かける人も珍しい。
戦記というジャンル自体、書くのにとてつもなく労力が必要なんですが、それにしたってこの人別作品でも戦記モノ書いてるし、ちょっと頭の中覗いてみたい気分です。基本多数の人間を動かすのって小説では難しく、戦記ともなればそこに多数の視点移動や互いの戦略なども複雑に絡み合う為、読みにくいものが多いんですよね。
だがしかしこの作品、というよりもしかしたら恋姫SS全般に言えることなんですけど、視点移動と戦略練るのとうまい具合に書き分けられています。おそらく恋姫という原作があるためキャラクターの把握がしやすく、戦略もそれぞれどうとるかが見えやすいというのがあると思うんですが、それでもこれほどまでに戦記戦記しつつもわかりやすく戦況をかけるのは一重に作者の情熱があるゆえなんでしょうね。

作者多忙のため第2部の途中で途切れているのが悔やまれるところ。途切れ方の引きが異常なくらい気になるものなので、この焦らしプレイは正直身に堪えます。ちゃんと感想掲示板あたりで生存報告しているあたり、非常に親切なんですけどね。これまで何度突然更新の途切れた作品を見てきたことか……。作者の月桂さんの復帰が待ち遠しいです。振込先ドコーと探してしまうくらい、作者に頑張って欲しいです。はっ、この気持ち、まさか恋っ!?(違

2012年9月2日日曜日

SSメモ:Fate/In Britain

Fate/In Britain(dain)

何らかの分野における先駆者ってのは得てして支持される傾向にあるが、その質に関しては後発組の方がいいというのはままあること。ただ荒削りながら今まで見たことのないものを見させてくれるという意味で、後発組が先駆者に勝る道理はない。

Fate/In Britainという作品はだからこそ、多くの人に支持され、未だなおおすすめFate SSの中でも筆頭にあがるのだろう。

初めて本作を読んだ時は心躍りましたね。
だって舞台がロンドンですよ? アフターストーリーでロンドンものってそれだけで「おぉおおお!!」ってなるじゃないですか。それまで再構成だとか違う英霊召喚だとかが主流だった中で、これほどチャレンジング(原作では設定だけしか語られていないので)なものはないと思いましたよ。そしてその期待にたぐわぬ面白さを提供されたら、そら信者もできるわと納得。分量も多く、展開も面白く、キャラごとに焦点を当てた書き分けも見事ときたら、もうあとは読みふけるしか無いでしょ。

しかもロンドンだけかと思ってたら、冬木のことについても言及しているじゃありませんか。あぁ、もうUBWラストを迎えた後に必ず残る遺恨をこの場でこういう形で精算するとは、もはや計画通りではないですけど、読者にほれほれ読みたかろうって迫ってるのも同じですよ。いいだろう読んでやろうじゃないか!! と思い立ったばかりに深夜2時間ほど夢中にしてしまったのはもはやいい思い出。翌日寝坊したことすらも覚えているあたり、おいおいどれだけ影響受けてるんだってなります。

とにもかくにもこの作品、原作へのリスペクト具合が半端無いんですよ。士郎の特異性に対する新たな考察しかり、切嗣が残した魔術の鍛錬法しかり、うまい具合に原作のエピソードを利用して、面白いストーリー展開をしてきます。革鎧ネタを見た時は、本当この人何者だと(笑) 2012年現在、Fate/Zeroという作品が出てきて、多少設定で食い違うところも出ていますが、それでもなお独自の解釈と考察でここまで作品を深掘りできているのは素晴らしいとしか言葉がでません。基本的には士郎たちの日常を描いているわけですが、たまに出てくる魔術考察ではっとさせられるあたり、作者の着眼点の鋭さが垣間見えます。

それにしても士郎、凛、そしてセイバーがロンドンに渡ったら、本当にこんな生活があったんでしょうね。ルヴィアが加わり、士郎は厄介事に首をつっこみ、凛がお金を消費して、セイバーが苦労する。もう一連の流れが手に取るように頭の中でイメージできるあたり、この作品が自身に及ぼした影響の凄まじさを物語っています。ただまぁ、ドタバタしてて魔術師らしいところがあまり見つからないのはどうなんでしょうねw もちろん事件に巻き込まれる時は魔術関係でしっかり補正されるんですが、それ以外の日常はどうにも微笑ましい生活しか思い浮かばない(笑)

きっとこれからもこいつらはこんな風に生きていくんだろうな。少なくとも自分の心のなかでは彼ら(彼女ら)の日常がドラえもんばりに延々と続いています。たまに喧嘩して、たまに苦労して、たまに悲しんで、たまに喜び騒いで、そしてたまに人生を謳歌して。刹那の日常から永劫な未来まで、変わらぬ愛をこめて。もー、お前ら最高だっ。

2012年8月29日水曜日

SSメモ:とんでも外史

とんでも外史(ジャミゴンズ)

主人公の中に複数意識がある作品ってあるようでなかなか見つからないんですよね。
そしてそれが面白いとなれば尚の事。
だからこそ敢えてこの「とんでも外史」という作品を取り上げているわけです。

が、しかし。

しかしですよ。


”これは、12人の北郷一刀が合わさって最強になったように見える、一つの外史の物語である。”(本編1話引用)


多すぎだろっ!?(笑)

というわけで本作「とんでも外史」は始まりの時点から主人公北郷くんの中に意識として各ルートクリア後の北郷くんが住み着いている物語です。世にも奇抜な設定なため、これは本当に物語として成り立つのだろうかと当初疑問を覚えましたが、全くもって杞憂でした。
もう北郷ズのやり取りにひたすら腹を抱えつつ、探り探り自らの道を模索する本体の物語はそこいらのただ原作をトレースしてオリジナルを加える恋姫SSとは桁違いに笑いと緊張感にあふれてます。しかも予期せぬ場面で読者の笑いを誘い、絶妙なタイミングで緊張感を爆発させて息を呑む展開を繰り広げるものだから、これはもう作品違うけどただただおでれぇたですよ。

しかし、上述した本編一話のこのワンフレーズ、実にこの作品のすべてを物語っている。特に最強になったように見えるという一言がつぼ(笑) 実際にSS読んでみるとわかると思いますが、本当最強になったように見えるだけで、地味に主人公何度も11人のせいで死にかけているんですよね。最強どころか自滅してるあたり最弱じゃね?と疑問に思わなくもない。
とはいえ、この北郷くんのストーリーは実にご都合主義であり、かつアンチご都合主義でもあります。やることなす事まさしく天の思うまま、のように見える一方で宮中のドロドロさが非常に鮮明に描写されており、多くの者の思惑が交差した物語進行はホラー映画のようにハラハラさせられます。

このSSのいいところは因果がきちんと跳ね返ってくるところですね。言動一つとってそれが明確な結果となって登場人物たちに突きつけられるのは、あぁこういうことをすると確かにそこに影響でるよなぁと思わされます。そのあたりが本当アンチご都合主義の筆頭とも言えましょう。すべての行動には原因があり、理由があり、そしてそれは自分自身が利用しているだけでなく、他の人にも利用されるという、なんともリアルでたしかにと思わされます。
しかしそうだよなぁ、現実って物語みたく一つの行動が一つの結果に結びつくわけじゃなく、複数の結果として目の前に現れるんだよなぁ。そこをきちんと描写できているこの作品、間違いなく作者の頭はどこか常人と違うSSへの価値観があるとおもいます。まぁ、設定からしてそうでうよねw

それにしてもこの話のヒロインの数はどうなっていくんでしょうか(笑)
単純に12人既に既定路線としてヒロインが存在するわけですが、果たしてどこまで増えるのやら。しかしながらこの作品は間違いなく悲愛ものになるんだろうと変な確信を抱かせます。ハーレムって現実心に中に決めた人がいると、非常につらいものになるからなぁ。そして作者もそのことを確実に意識していますしね。でなければこんなあまりにも唐突で、それでいて予想できて、でも信じられなくて、悲しい別離が訪れる展開作れませんよ。あーもう、こいつら全員幸せになってほしいなぁ。

2012年8月26日日曜日

SSメモ:―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE

―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE(蒼月)

ふむふむ、半オリジナルKanonファンタジーとな。

なるほど、ようするにゲーム「Kanon」の主人公祐一くんを魔改造して俺tueeeする所謂U-1ものか。どうせ祐一くんがなぜか初めて会ったヒロインから好意持たれたり、力を隠してランク低かったり、無駄に悲しい過去を抱えていたりするんだろう。強そうな敵キャラ出して一旦負けて、自分の過去を仲間に懺悔し、悲しみを乗り越えた先の友情パワーやらで互角の勝負を演じるも、敵キャラの覚醒に圧倒され、あわや負けそうなところでライバルキャラが駆けつけて一緒に敵倒して大団円、そしてエピローグでヒロインといちゃいちゃするんでしょ、はいはい。


……のはずだったんだ。


何も間違ってない。
上述した内容は決して嘘でも想像上のものでもなく、単なる事実だ。
本当に何一つ間違ったことは書いていない。
にも関わらずなんだこのSSの面白さはっ!?(笑)

ちょっとちょっと、もはや「Kanon」というゲームの登場人物の名前だけを借りた、まったく別の濃厚なダークファンタジーじゃないか。しかもヒロインなんてあれだけ濃い「Kanon」のヒロイン勢をすべて押しのけなんとオリキャラ。もはや原作の面影なんて名前とちょっとした設定しか残されていない。最初から半オリジナルって書いてくれよ!!(書いてます)
あー、ちくしょう。騙された。これは騙された。半端無く面白い。KanonSSの中でもトップクラス魔改造を誇っている癖に、間違いなくこれがKanon SSの中でトップクラスの面白さを誇るだろうと断言できる。主人公の過去に思わずホロリとしてしまうではないか。いや、ホロリじゃないな、なんでこんな生き方しかできないんだよってボロボロしてしまうのが正しいな。

物語の展開はまさしくテンプレといってもいいかもしれない。学園要素がないくらいか?いや、しかしそれすらも気にならないくらい、これでもかと厨二要素を搭載している。武器の二段開放とか、おいおいそれオサレ先生の得意技じゃないかと(笑) しかし読んでいる最中はそんな意識はどこ吹く風、熱い展開に思わず画面越しに息を張り詰めてうおおおぉぉ、と叫びたくなるくらい熱中してしまいました。
これこそまさにSSの醍醐味だよ。とても商業作品ではできない陳腐でテンプレート的な展開をものともせず、面白いものを面白く書いて何が悪い! と開き直るこの勢い。そして結果として凄まじく面白かった時のこの満足感。これだからSS読むのはやめられない。

やや特殊な文体ですが、ほとんど気にならずにすらすら読めました。特にこの作者の戦闘描写は圧巻モノ。ただ切り結ぶ描写をするだけが戦闘描写ではないと思い知らされるくらい、なんというか「かっこいい」です。厨二ともいいますが、今の時代のSSを見渡してこれほど純粋に自分の「かっこいい」と思うものを描写できている人が果たして何人いるか。
くだらない厨二は見飽きて、思わず息を呑むような厨二を見たい人にはおすすめのKanon SSです。

2012年8月25日土曜日

SSメモ:絶対ナル孤独

絶対ナル孤独(川原礫)

王道は面白いからこそ王道足り得る、というのを示している作品。
いや、これは面白いわ。
現代異能ファンタジーとしての王道(突然力が宿る、覚醒する)を突き進んでいるにも関わらず、どうしてこんなにも面白く、それでいて目新しく書けるのだろうか。唐突な戦闘、力に目覚めた同士の戦い、悪の力と正義の力の登場、正体不明の敵組織、心の傷……などなど。
いやはや、正直ここまでオーソドックスな題材をよくもまぁこんなにも面白くまとめあげたものだと脱帽するレベル。王道とは斯くあるべしと言っても過言ではない。

とはいえ、面白さの要素が王道だけなのかと言われるとそれもまたちょっと違うんですよね。そこらの作者に比べて、文章力というか、描写力というか……とにかく戦闘描写から日常風景、果てに登場人物の心理描写に至るまでが、凄まじく丁寧に書かれているんですよね。文章から受ける情報量が、明らかに文章を超えていると言ってもいいくらい。昨今ここまで文章力のある作者は珍しいんじゃないでしょうか。

タイトルにある通り孤独というものを一つの題材にしてはいるものの、今のところはっきりと物語の方向性としてそれが顕著に出ているわけではない。ただ随所に(1章ラストのセリフなど)孤独の意味が散りばめられているため、今後に期待といったところか。
それにしても主人公のミノルくん、ちょっと自重しなさいw 1章の時点ではすさまじく根暗で孤独だったのに、3章になってからのその孤独とかけ離れた立場と行動はなんなんだw いいぞ、もっとやれ(

それにしてもこの作者にしてこの作品ありというか、どうしてこう川原さんの描く主人公はこんなにも弱い内面と強い衝動を併せ持っているんでしょうね。作者の別作品である「ソードアート・オンライン」のキリトくんしかり、「アクセル・ワールド」のハルユキくんしかり、人というのはきっかけ次第で変われるものだと言わんばかりのこの圧倒的な人の変化ですよ。
川原さんが描く主人公って、本当冷静に眺めてみると特別な存在ってわけじゃないんですよね。もちろん物語の主人公らしい特別な境遇はあるんですが、かといって殊更に変な思考をしたり、人格が破綻しているわけではないんですよね。にもかかわらず、いざ非日常に突入した瞬間、衝動的にまるでそうするべきだと決められているかのように、自身の内に眠る密やかな、でも誰もが抱いたことのある思いに対して、素直に反応的な態度を取るんですよ。
読んでいる側としてもその反応が自然であると感じるし、まったくもって違和感がないはずなんですが……毎度どうしてこうなった状態に陥るのはもはや作者の罠(笑)

残念な点としてはまだまだ物語が途中(というかこれから佳境に入る)というところで更新停止してしまったこと。作者が書籍デビューして忙しくなってしまったのはファンとして嬉しいものの、いささか寂しい感が否めない。作者の別作品「ソードアート・オンライン」が文庫展開しているのだから、ぜひこっちもお願いしますよ電撃文庫さん。