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2013年5月30日木曜日

SSメモ:ショタ勇者様育成計画

ショタ勇者様育成計画(めそ)

ほのぼのだと思った? 残念! 魔王様でした!!

騙された。
いやー、これは素直に騙された。最初は筆がすべっていたのだと思いました。のっけから女魔王が私より強いやつに会いに行く状態だったり、男勇者がショタすぎて困ったり、レベル1から育っていくシーンがほのぼの過ぎて、完全にこれはこの路線で走っていくものだと錯覚してました。

話の大筋は女の大魔王がレベル1の勇者を育成して、将来の自分のライバルにしようという光源氏も真っ青な計画を丁寧に描写していくというもの。もちろん修行シーンもありますが、話の要所要所に出てくる魔王様のツッコミ待ちの行動がなんともシュール。いや、お前はっちゃけすぎだろと誰しもが思うこの破天荒な行動に、部下も胃薬がはなせない。うん、どう考えてもこのあらすじの段階でシリアスな話ができるとは思えない() いや、誰しもが思いますよ、これはほのぼの魔王が勇者を育てる育成小説であると。

勇者の素質も見えて、サブヒロインも登場して、ゆっくりと着実に物語が進み。
そして中盤に差し掛かるわけです。
それはまさしく魔王様全開シーン。別の勇者パーティを蹂躙するその光景はもう凄惨の一言。ここまで容赦なくほのぼのをぶち壊し、一直線にシリアス方向に面舵いっぱいするとは想像していませんでした。
いや、正直に言いましょう。

ここまでシリアスに方向転換できるとは思ってませんでした。

これはもう作者のことを侮っていたとしか言い訳のしようがありません。むしろこれはもう作者の切り替えが鮮やか過ぎたと評するべきだと思います。ただし、なんとなく予兆はありました。このままの作風でいけばマンネリ化するだろうなぁ、という気はしてましたし、話の動きとしてそろそろ何か急転するものがあるんだろうなぁ、と漠然とした話の流れは理解していました。しかしですよ、それを理解したとしても、たぶんこんなにガラッと切り替えられるとは思っていませんでしたし、ことネット小説で言えば、それこそ普通は替えられずだらだら話が続いているものです。まだまだ自分のネット小説への理解は浅はかなものなんだと少し反省しています。そしてそれ以上に、まだまだネット小説にはたくさんの可能性が眠っているんだなと希望も見えます。

シリアスに舵を切ってからは、それはもう話のスピードが加速していきます。王道の武道会。妙なライバルの登場。ひっそり勝利の階段を駆け登る勇者。裏で進む謀略。そして決勝戦でのボス登場、落ちこぼれ勇者の活躍。なんとまぁ、王道的でカタルシスあふれる展開なこと。それでいて決して読者の期待を裏切らない話の筋。もはや序盤のほのぼのなんか忘れて、ただひたすらに読みふけるしかありません。物語に夢中になってのめり込んで、気がつけば頑張れと応援したくなる感情が、たまらないほどにこのSSのうまさを表しています。

この急展開を選ぶ際に、作者の方はかなり葛藤があったんじゃないでしょうか。ほのぼのでも人気が出ているのに、変える必要があるのか、と。しかし結果としてこの切替は英断だったと思います。これがあったからこそ、その後の物語が加速して、無駄に世界観の風呂敷が広がらずにすんだと思うので。広げようと思えばいくらでも広げられる下地はあるけれども、それをせずに本当に書きたいものを書いた作者の、その選択と集中の決断はネット小説で稀にみる素晴らしいものだと思います。

完結した作品なので、ぜひそうして形作られた物語の結末を見て下さい。
きっとみなさんも、こう思うでしょう。
デルフォード爆発しろ。

2013年4月21日日曜日

SSメモ:辺境護民官ハル・アキルシウス

辺境護民官ハル・アキルシウス(あかつき)

ストン、と心に落ちてくるとでも言うんでしょうか。
いやはや、読み終えた瞬間の脱力具合とこれで終わりなのかという疑問の抱き具合がちょうどいい塩梅にブレンドされているこの読後感。何事も「もっと先を」と思わせた所で終わらせるのがちょうどいいという説があるわけですが、まさにその意味が実によくわかるSSでした。小説の終わりにしては少々物足りない感はあるものの、ひとつの完成した物語として見れば完成したパズルのごとくきれいにピースが揃っているので、非常に楽しめるものになってると思います。

ストーリーとしては特筆するものがない、というのが正直な印象。国でそこそこの官吏をしていた主人公のハルが、ある貴族の不興を買ってしまい、辺境に飛ばされたところからストーリーが始まるというのが大筋の流れです。おそらく似たようなシチュエーションのSSを探そうと思えば簡単に見つかるんじゃないでしょうか。その後の展開もおおよそ既定路線というか、完結まで大きく話を踏み外したものはないはず。少なくとも敬虔なSS読者の人ならどこかで見たようなシチュエーションをころころ見ることになると覚悟した方がいいかもしれません。まぁ、だからといって面白くない、というのは早計というもの。いや、もう少しストレートに表現しましょう。

面白い。実に面白い。
そして何より「興味深い」。

これだけ既視感のある展開を組み合わせて、なお面白いと思わせるSSは、長年SSを読んできた自分でもほとんど見たことがありません。特にオリジナル小説になってくると、それはもう脳みそを絞りに絞ってようやく1作か2作出てくるか来ないかくらいしかないと断言できます。一体全体このSSのどこにそう思わせる力があるのか、ついぞ自分にはわからなかったのですが、ただシステム思考的に物語の展開を組み合わせたいならまずこのSSを研究するところから始めると、いろいろ見えてくるものがあるんじゃないかなーと思う次第です。

このSS、きっと賛否両論なんでしょうねー。
たしかに中盤見慣れた展開が続くし、一つ解決してはまた一つ、といった感じの積立方式で話が進むから、スピーディーで斬新な話の組み立てが求められている現在のSS業界においては、あまり受け入れられないお話かもしれません。けれども自分にとっては逆にそここそがこのSSの魅力なんだと言い張りたい。なにせそれは言い返せば初心者に優しいということでもあり、また見返した際にこれはあとでこう繋がるんだよなー、と先に思いを馳せながら読むことができるからです。特にこのSSは中盤のメインが内政ですから、そこをつまらないと感じるかなるほどと感じるかでかなり意見が別れるでしょう。

すべてのSSがシリアスである必要はないし、長編でなくてもいいし、厨二よろしくオサレ戦闘をしなくてもいい。そういうことはおおよそ全SS読者が理解していると思います。なにせこの業界、どこかのジャンルが唐突に爆発的に流行ったり、あるいは風船が萎む勢いで駆逐されたりしていったりするので、多様性がないととても存続できません。今では二次創作でよくあるオリ主要素も、過去ではマイナー、というか明らかに地雷要素だったんです。それが現在ではメジャーに昇進しているあたり、この業界の流行り廃れは読めません。だからこそ。このSSのような見慣れた展開が組み合わさったSSがあることは、これからSSを執筆する人の一つの参考になるし、同じくこれからSSを読む人にとっても判断基準として使えるのだと思います。

いろいろ書いてきましたが、ようするに言いたいことはひとつです。
SS業界では貴重な改訂版を完結させた作品なので、ぜひ読んだほうがいいです(笑)

2013年4月10日水曜日

SSメモ:ドラゴンクエストUSB

ドラゴンクエストUSB(ファイヤーヘッド)

ふ、ふはは、あはははは!!! チャレンジャーだ。生粋のチャレンジャーがここにいる。よくもまぁ自分で黒歴史と認識しているものを公開できるものだ(褒め言葉)。USBに忘れ去っていたというところから来たであろう安直な題名を恥ずかしげ無く披露し、全てを開き直って全力で石投げてこいというウェルカムな状態まで開き直るその勇気、まさに尊敬に値する。しかもおそらく内容はほとんど修正していないのだろう、こういうの妄想したことあるなーというネタや展開がピンポイントに仕込まれていて、これだけオープンであるなら「痛いwww」と笑うよりむしろ「同じ妄想したことあるぜwww」という気持ちが強くなって、次々読み進めてしまう。これほど痛面白い作品がほかにあるだろうか。

本作品「ドラゴンクエストUSB」は「今のはメラゾーマではない・・・メラだ・・・」のセリフで有名なバーン様が登場する漫画「ダイの大冒険」の二次創作SS。ダイの大冒険自体がドラクエの二次創作なので、もしかしたらドラクエの三次創作といったほうが適切なのかもしれません。逆行・主人公最強・TSとまさにSS全盛期の地雷原がマッハですが、まぁそこまで気になるほどの原作崩壊は少ないのでたぶん普通に読むことはできます。というか普通におもしろいので何度でも読めます。SSってどんなに地雷要素があっても面白く調理しようと思えばできるのだなぁ、と感じさせてくれる素晴らしい作品。ここでもう一つ「普段は力を隠して……」という設定を入れればもう完璧でしたね!() そもそもこれらの要素って時代を作ってきたわけですから面白く無いわけがないのですが、やはり同じネタをどこらかしこもやっていると差別化が必要なわけで。地雷ネタをそのまま使うのではなくて、何かしら工夫を施すだけでかなりいいSSができると思うのですがどうなんでしょう。誰かやってみません?(

ストーリー自体はすこぶる逆行系の王道で、最強無双、原作沿い展開、主人公支援とまさにSS懐古厨至れり尽くせりの内容。この古き良き設定が、また厨二心と黒歴史妄想を掻き立てる掻き立てる。圧縮→威力増のコンボはもはや鉄板。魔闘士というネーミングと併せてこれはもう厨二乙、でも面白いからもっとやれ、と言わざるを得ません。主人公はポップの生まれ変わりの少女セラであり、彼女が逆行することで物語がスタートします。当然過去の世界にはポップがいるわけで、セラから見たポップがすごく面白い。過去の自分を見るとまさにこういう気持ちを抱くんだろうなと感じます。仲間とのやりとりも、適度な距離感と信頼感があり、そして何よりポップがセラを疑っているという話のもっていきかたは個人的に逆行系の中でも一番バランスのとれた配分だと感じます。まぁ、ここは人それぞれ感覚は違うでしょう。がっつり原作メンバーに関わるのが好きな人がいれば、原作に関わらないまったく別物の展開の方が好きな人もいるでしょうし。自分は面白ければどっちでもいい派ですけど。

それにしても、誰がどう見ても黒歴史な内容なのに、どうしてこれほど面白くできるんでしょうね。これってかなり重要なことです。正直初めて読んだ時は失礼ながらここまで読み返すとは思っていなかったです。でもいつの間にかふとした時に読み返していたり、ドラクエSSが読みたい衝動に駆られた時はちらっと見たりしているので、本当不思議。痛面白い作品に惹かれているのか、作者の筆力の高さに感心しているのか。真実はいつも謎。ただ言えることは、このSSが逆行王道系として一度は必ず目を通したほうがいい作品であるということ。これ読んで、どこが地雷要素なのか、どこが受ける場所なのか研究すれば、そこそこ作品の質があがると思います。なにせ王道突き進んだ作品ですから。

ん? なに? 逆行系の王道だったら原作主人公のダイが逆行すべき?

……。

ダイの大冒険の主人公はポップです。

2013年4月7日日曜日

SSメモ:DARK QUEEN

DARK QUEEN(D・W・W)

昔からある有名作。上司から理不尽な呼び出しを食らったのでちょっと「独裁」について考えていたら、ふとこのSSのことを思いついたので読み返したわけですが、相も変わらず面白い。いつ読んでも面白いというのは、本当ネット小説にかぎらずいい物語の条件だと個人的に思っています。アニメにせよ、ラノベにせよ、名作というのはいつ体験しても面白いもの。懐古厨言うなし。

さてはて、このSSを読み直すきっかけとなった「独裁」というキーワードですが、独裁というのを否定する風潮が世の中にはかなりの割合であると思います。それは独裁が多くの悲劇を引き起こしてきたとか、今日では当たり前の人権をないがしろにしてきたという歴史的経緯を学校なり書籍なり、もしかしたらラノベやアニメ、ゲームなりで学んできたからでしょう。あるいは民主主義が進む世の中において絶対的な決定権、生殺与奪権をもつことに対するやっかみ、嫌悪感といった感情も起因しているのではないでしょう。ある意味では「独裁」という言葉自体に「悪いこと」というイメージが付き纏っているわけです。

本作「DARK QUEEN」はある独裁者を描いたダークファンタジー。中世文化水準の世界で、とある経緯から人類というには非常に怪しい存在になった少女クラナが人類の頂点に立つためにのし上がっていくわけですが、当然のごとく人を殺したり、必要があれば生かしたりと、まんま絵に描いたような独裁者。しかしだからといってそれが人類にとってマイナスかと言えば、どうも読んでいる限りはそうでもない。むしろ人間の価値を認めたり腐敗している行政を成敗したり、合理性を追求して周りの人からは英雄にも等しい扱いをされています。素晴らしいのはクラナ自身がそうした行動をとることこそが自分の望みを叶える最短距離であると考えており、周囲の仲間もまた彼女のそういった思考をわかった上でついていっているということ。

ストーリーやキャラクターの魅力もさることながら、個人的に一番好きなのはメイン登場キャラクターの一人が主人公に対して言った下のセリフ。

「貴方がとても恐い方だとは分かっていました。 ついていけば利用されるのだって分かっていました。 でも、不必要な嘘を付いたり、理不尽な事はしないとも分かっていました」
4.ヒトノココロ より抜粋)

まさにこの一言の中に、自分がこのSSで受けた感銘の全てが入っているといっても過言ではありません。つまり、不必要な嘘をつくことや理不尽な行いをすることは、独裁よりも耐え難いものであると言っているわけです。独裁は「理不尽な行い」をしやすい環境にありますからいろいろと批判されますが、それがなくなってしまえばもはや独裁というのは優れたリーダーによる統率と代わりがないのです。

民主主義を否定する気はないですし、独裁を賛美するわけでもありませんが、いささかどちらも極端に美化、あるいは卑下されすぎていると感じる今日この頃。どちらが良いとか悪いとかそういうのではなくて、何がダメで何がオッケーなのか1つずつ考えていくことが、もしかしたら重要なのかもしれません。

それにしても幼女戦記といい死神を食べた少女といい、どうしてこう独裁的な少女を描く作品が多いのでしょうか……。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

2013年3月11日月曜日

SSメモ:小さな魔女と野良犬騎士

小さな魔女と野良犬騎士(如月雑賀)

心温まるハートフルファンタジーともいうべきなのか。なんだろう、実にいい意味でネット小説らしいファンタジーものなんですよね、この「小さな魔女と野良犬騎士」という作品は。アクのない文体に丁寧なシナリオ、一人一人全力で生きている魅力的なキャラクター。本当どれひとつとっても間違いなく5段階評価で4以上はつくでしょう。突き抜けて面白いわけではないけど、安定して読める作品という意味では、たぶん近年の作品でトップレベルだと勝手に思っています。もちろんシリアスで、理不尽に人が死んで、ハーレムで、ご都合主義な展開もある程度は存在しますが、だからこそ逆にファンタジーに対する安心感というか、「そうそうファンタジーにこういうの求めていたんだ」と思えるというか。

このSSの主人公であるアルトは暗い過去を持ち、戦闘力はかなり高く、でも普段は力を露見させないというネット小説のテンプレの極みを地でいっていますが、作中ではお人好し、ロリコン、ヒモ、ニートと作中で散々罵られているため、正直あんまりそういうところ意識しません。というか読み終わって初めて気づいたレベルです。初見だと間違い無くろくでもない「だめんず」なんですよね、こいつ。実際作中の行動の半分くらいは本当にろくでもないし。ただやる時は本当にやるもので、言葉や行動、そして己の信念を曲げないその矜持が凄まじくかっこいいです。ここまで男らしい、少年漫画の主人公にも劣らない「熱さ」を秘めている主人公ってあんまりいないんですよね。だからこそ余計に普段のダメ具合が目立つわけですが(笑)

そんなアルトを取り巻くヒロインたちですが、これまた揃いも揃ってだめんず好きというダメっぷり。おそらくメインヒロインである魔女のロザリンやニートに餌をやる宿屋の看板娘カトレアとか、これもう完全にだめですわー。世話する喜び覚えちゃってるレベル。冒険者ギルドのサブマスタープリシアとかもはや信者。もちろん本性とかを知った上で主人公とヒロインたちの関係を眺めてみると確かに惚れるのもしょうがないなーと思うわけですが、知らない人から見たら勤勉で真面目で心優しいあの人が、どうしてこうなった状態。ちなみに余談ですが、そういう人ほどだめんずにハマる原因は、たいてい抑圧された自己表現に対する尊敬(自分はダメな部分を人に見せられないのに、あの人は誰にでもオープン。自分にできないこと平然とやってのける、すごい→すてき→抱いての連鎖)らしいですね。思い当たる人は注意しましょう。

さておき。個人的にこういうヒロインってなにげに好きなんですよね。正確には主人公とヒロインの関係性といいますか。ヒロインそれぞれにちゃんとアルトのことを好きになる理由があるんですよ。直接お話として記述されてるものもあれば、匂わせる描写でとどめているだけのものもあるため、完全にそうだとは言えませんが、たぶん読んでいる感じでは単なるいい男に惚れた、ではないんですよね。あれだ、やさしいから惚れたとかそうじゃなくて、やさしいところもだめなところもたまに辛い顔するところもかっこいいところも全部ひっくるめてこの人がいいから惚れたって感じです。どれか一つの要素でも欠けていたら、きっと惚れていないんだろうなぁ。

矜持、というのがたぶんこのSSのキーワードです。様々な人物が自らの矜持を誇り、それに従って対立し、ぶつかりあって決着を付ける。こうした一連の展開は目が離せないどころか、その先はどうなっているのか、何が矜持を支えているのか、のめり込んでしまうほど。特に第一部最後の人の命に関する矜持の持ちようは、どちらも正しいようで、どちらも間違っているようで、善悪の二極論でこの世は語れないんだなぁとしみじみ感じてしまいます。現在第二部に入って、いろいろ世界観が明らかになってきたため、これから先の展開にかなり期待しています。ついに国内だけでなく国外にも話が及び、べたですが主人公の過去に触れる内容も出てきて、まさにこれからと言ったところ。……ただ不安があるとすれば、経験上このあたりがネット小説の中でも最もエタりやすくなる時期なので、作者の如月さんにはぜひ踏ん張って欲しいです。

2013年3月8日金曜日

SSメモ:魔法戦国群星伝

魔法戦国群星伝(八岐)

U-1モノです。

……またか、とか言わないでください。えぇ、わかっています。KanonのSSでこれまでほぼU-1モノしか紹介していないことくらいわかっています。もう厨二は飽きたんだよとか、時代は「奇跡って起こらないから奇跡」から「奇跡も魔法もあるんだよ」になってるとか、十分承知の上です。

でもでも何回も読み返しちゃったんですから仕方ないじゃないですか!!(逆ギレ)

Kanonの二次創作でU-1モノという化石のようなSS。っていうか化石といっても過言では無いかもしれない。それでも何度でも読みなおしてしまう魅力がやはりこのジャンルにはあると思うんですよね。ただ、このSSの場合かなりクロスオーバーが多いので、全作品知らない人は結構読みにくいかもしれません。あと当時のお約束的な展開とかも多々あるので、なろうでSSを読んで育ってきた世代には厳しいかも。ただ、だからこそ余計に読んでほしいなと感じる作品でもあります。特に今の作者さんには。なにせ今のテンプレにつながるような要素がたくさんあるので、その原点を知る意味でも。歴史的経緯を知れば、今後自分がどうアレンジすればいいのか考えることができるので。あながちこうしたSSやラノベの歴史を知ることは書き手にとってかなり有用ですよ。どうしてツンデレが生まれたのかとか調べると面白い。

と、余談はさておき。このSSのストーリーについては語りません。なんかこの手の作品はあらすじ言ってもだいたい似通ってしまうので。ただ戦記と王道ファンタジーをブレンドしてお話を進めるという感じの結構ややこしいSSとだけ言っておきます。物語の構造を勉強している人からすれば、たぶんダメダメな点数をつける気がしますが、こういうフリーダムな感じのSSの方が見てて楽しいですね。キャラは原作あるので当然立っているし、過去話やストーリーの二面展開なんかは、当時とてつもなくわくわくして更新が待ちきれませんでしたね。

ただ大変個人的なお話をしてしまうなら、このSSのエピローグが大好きです。もちろんSSの本編自体もすごく好きで、物語に引きこまれた時なんかは時間を忘れてSSを読み返したりしたこともあるわけですが、それ以上に一つの物語が終わった際の最後に語られるその後の世界が大好きで仕方がありません。ラノベで言えば本編よりも後日談。ゲームで言えばファンディスク。蛇足と評されようがなんだろうが、一つの世界がその後も続いているあの読後感こそに、自分は言い知れない震えるほどの魅力を感じているわけです。エタる傾向が高い長編SSだったからこそ余計にその後の世界のお話に焦がれているのかもしれません。

そんなわけでこのSSを絶賛おすすめ。ちなみに作者の八岐さんは今ではあまり物語を書いておらず、もっぱらラノベレビューをしています。それはもう圧倒的な量と質のレビューがあり、もし気になるラノベで購入を悩んでいたら、ぜひ八岐さんのレビューを読んでみてください。自分もいつも参考にさせていただいています(笑) なにげにこのブログも少し八岐さんの影響を受けて、このような少し長めのSSレビューしているわけで、ある意味では八岐さんが存在しなければこのブログも存在しなかった……はず。この場をお借りして感謝の意をこっそりと表したいと思います。

2013年2月27日水曜日

SSメモ:遊戯王GXへ、現実より

遊戯王GXへ、現実より(葦束良日)

にじふぁん時代は何回か読み返していた作品。最近になってまた発見したので、改めて読み返してみたらだいぶ伏線やら過去やらがいろいろ回収されていたので、これはもう感想を書かずにはいられないと思いたち、衝動書き。あれ、なんかにも似たようなことやったきがする。。。

はてさて、そんなことはさておき。遊戯王モノですよ、奥さん。あの原作からして破茶目茶で、アニメに至っては超展開満載な、だけれどもそれを楽しむ術さえ身につければ全てが面白くて仕方のないあの国民的カードゲーム(?)の遊戯王ですよ。なんでこんなテンション高いのかというと、自分が元OCG(現実のカードゲーム)のプレイヤーでして、何回かいろんな大会に出たりしてたからなんですよねー。そんなわけでして、人一倍遊戯王には関心があるわけです。

……が。

いかんせん、この手のジャンルを書くのってすごく難しいわけで。SSってゲームやスポーツを描写するのがすごく大変なんですよね。漫画だと一目見ればわかることを、延々と文字で描写しなければならないので。しかもこと遊戯王みたいなゲームになると、カードの効果とかも解説しないといけないわけで、読者が戸惑ってしまうわけです。正直並の遊戯王SSを見ても、大抵の読者はつまんないなーと思うかもしれません。さらにいえば、遊戯王は遊戯王デュエルモンスターズ、遊戯王GX、遊戯王5D's、遊戯王ZEXALなどアニメだけでも4つあり、全て総合すると登場人物は通常の作品の4倍、5倍にも膨れ上がり、カードの種類にいたってはOCG、アニメ、そして漫画それぞれのオリジナルのものがあるため、もはや覚えきれません。さすがカードの販売数でギネス記録を保有するだけのことはあります。……こう書いてて今更なわけですが、読者にも筆者にも結構厳しい作品ですよね。

とりあえず遊戯王自体の話はいいとして、SSの話に移りましょう。
このSSはアニメ第2シリーズである遊戯王GXを中心に話が展開するものです。たぶん一番二次創作SSの中でも多い設定なんじゃないでしょうか。同時にGX知らないよ、という人も多いですが。トリップ、オリ主という要素があるため毛嫌いする人も多いかもしれませんが、正直遊戯王SSの中でもトップクラスに面白いと思います。主人公の遠也がシンクロ召喚(アニメ第3シリーズの遊戯王5D'sで登場する新しいモンスター召喚方法)のテスターという設定もなかなかおいしい。この設定だけでGX時代にはなかったシンクロ要素をうまく溶けこませることに成功させています。

ストーリーは基本的にアニメ準拠ですね。原作主人公の十代がデュエルする場所で、代わりに遠也がデュエルすることも多いですが、それでも充分十代にも見せ場があります。遠也は俗にゆう親友ポジションに落ち着いているのかな? なので辺にでしゃばることもないし、十代や他のキャラが埋もれるということもないです。むしろ原作より三沢が輝いているのである意味では原作以上にキャラがいきいきしているかもしれません。
話が中盤になってくると、主人公の過去話や5D'sとの絡みが出てくるので非常に盛り上がります。ここでそのキャラか!!と思わせられることまちがいなし。事実、自分はびっくりしました。そして同時にやられた、とも思いました。そういう設定でそういうストーリー展開の方法があったのかと、ただただ関心しましたね。

現状は遊戯王GXの3期(1期が一年生、2期が二年生、3期が三年生前半)なんですが、これがまた重い話の連続なんですよね。鬱展開あり、闇堕ちあり、多方面同時ストーリー展開あり、というアニメ史上でも稀にみるシリアス具合。ある意味では自分がもっとも好きなパートなんですけど、ここをどう描ききるのか非常に気になっています。またついに主人公の過去話も明かされ、初代主人公遊戯の圧倒的強さも解禁されたので、これからどうなっていくのか全く話が読めません。今後目の話せない展開になることが容易に想像されるので、これからちょっとずつ覗いていきたいと思います。

2013年2月8日金曜日

SSメモ:ヴァルハラ学園物語

ヴァルハラ学園物語(久櫛縁)

たぶんに思い出補正も強く影響していますが、いまでもちょくちょく読み返しているのがこのヴァルハラ学園物語シリーズ。典型的な学園ファンタジーモノで、現在のテンプレにつながる要素もチラホラ。星の図書館というサイトに掲載されていたので、そちらの名前で知っている人の方が多いかもしれません。

基本的に話しの内容はコメディで構成されています。苦労人主人公のライルが周囲の仲間が読んでくるトラブルに巻き込まれてひぃひぃ言ってる感じ。たまに自爆してたり。ノリが完全に中学生なので、展開も文体も今読み返せば苦笑いせざるを得ない箇所もいくつかあったりします(爆発オチとか文字の大きさ変えるとか)。それをつまらないと判断するか生暖かい目で見るかは読み手に委ねますが、個人的には当時のお約束、というものを懐かしがりながら読むと結構楽しめると思います。もちろん元々の内容も面白いので、初めて読む人も文体に対する嫌悪がなければのめりこめるはず。

しかしギャグ・コメディ小説につっこむのはやぶさかなんですが、主人公のライル以外まともな人がいないのはどういうことだw ヒロイン(?)の暴走魔法少女のルナ(決して暴力ヒロインではないと信じたい。原型ではありそうだけど)はもちろん、脳筋大食らいのアレンに女装趣味の王子クリスといったパーティメンバーの個性豊かさといったら、さぞ苦労しそうだなぁと思わされるメンツばかり。そこに精霊のシルフィもまじってどんちゃん騒ぎなのだから、ライルの苦労が忍ばれる。そして一番涙するのはもうそういうポジションでいいよと諦めがついているライルの達観根性ですねー。ストーリー中、一瞬だけ反抗期になるわけですが、即座に元通りのポジションに戻るあたり、本当そういう星の下で生まれたと思わないとやってられないのかもしれませんが。

ただ、この作品を語る上でやはり避けられないのが外伝や番外編の存在。大昔の勇者ルーファスが蘇ったの話やその子供の話もさることながら、勇者が魔王を倒す旅をダイジェストに掲載している「ゆうしゃくんとなかまたちシリーズ」は傑作もの。正直個人的には本編よりこっちの方が好きだったりします。本編と同じく基本ギャグ・コメディな作風なんですが、たまに出てくるシリアスで切ない話が尋常じゃないくらいの破壊力で襲ってくるので、油断なりません。この話を読んで改めて本編を読んだ時、こういう平和な生活ができているのは過去にこういうことがあったからなんだなぁ、というのをしみじみ感じさせてくれます。でもやっぱりギャグものなので笑っちゃうんですけどね!

2013年1月16日水曜日

SSメモ:魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』

魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』(橙乃ままれ)

一体全体この「まおゆう」というSSをどう言葉で書き表せばいいものか。

夢中になって、ひたすらに繰り返し読み込んで、気がつけばこの「まおゆう」世界に魅了されて。勇者と魔王という古き良き題材への物懐かしさ、経済や近代化をテーマにした目新しさ、そしてSS全体から感じる「あの丘の向こうには何があるんだろう」という胸の高鳴りをひっさげ、いざこのSSの感想を口にしようとして。

――はて、自分は何を言おうとしていたのだろうか、と固まってしまう。

溢れ出る言葉の堰がまったく切れないんですよ。SSに対する感情が喉元まで出てきているのに、それを言葉という形に落とし込めることがいっこうにできない。これは困った。しかし、それでいてさらに困ったことには、言葉にできなくていい、と納得している自分がいるということ。たぶん言葉にできない、ということこそがこのSSに対して自分が抱いている感情のすべてなんだと思います。

まいったなぁ。いや、本当まいった。
魔王と勇者の二者関係を改めて見つめなおし、平和な世界への道(作中では丘の向こうと表現。超重要)を模索するというのがこのSSの大筋の流れなわけですが、これがすごいのなんの。これまでの勧善懲悪に疑問を呈する作品やファンタジー世界への考察作品とは違い、信念や思想などではなくあくまで経済という「理論」をもとに世界へ挑戦していく魔王と勇者の姿は、泥臭く地道ながらもそのひたむきさに焦がれるものがあります。紆余曲折、それこそ経済や人権、近代化といった話を経て、最後に超王道的な展開で風呂敷をたたんでくるストーリーなんて、もはや感動すら通り越して畏怖すら覚えるほどまさしく圧巻の一言。こんなのわくわくせずにはいられないじゃないですか。

魔王と勇者を取り巻く人達も実に魅力的で、一人一人がちゃんとこの世界の中で生きているんです。懸命に生き抜いているんです。このSS内で登場する人全員が、名前こそないけれども確かに世界に一人しか存在しない主役なんですよ。だから人が死ぬときはこんなにも悲しいし、その仇をうとうとする姿はこんなにも切ないし、こんなにも敵が憎く、それを受け入れる姿に心が打たれるわけです。もちろんいろいろ考えさせられる場面はたくさんあります。人によっては受け入れられない展開もあるでしょうし、近代化に対する批判や「丘の向こう」というテーマに対してちゃんとした答えを出していないシナリオに激情を覚える人もいるでしょう。目を皿にして親の敵を探すように物語の粗を探せばいくらでも見つかるかもしれません。

でもだからといってこのSSの面白さがそれで損なわれることなんてなく、むしろこうやっていろいろ考えさせられたり意見を抱いたりすることこそに、このSSの魅力ってものが詰まっているのだと思います。「まおゆう 考察」などでググればわかると思いますが、近年でこれほど多くの人に考察・絶賛・批判されているSSはまず他にないと思います。つまりそれだけこのSSはいろんな人に読まれ、考えることを促し、その上でアニメ化するまでに人を巻き込んでいるんです。単純なSSとしての魅力もさることながら、考えることの面白さを提供しているという意味で、SSとしてまさしく理想的で完璧な作りをしているのではないでしょうか。もしこの作品を読んで何かしら思うところがあれば、きっとそれは作者の思う壺にハマっています(笑)

いつかの日か、自分がこのSSの感想をはっきりと言葉で表せた時。
その時初めて自分はこのSSの魂胆に気づくのかもしれません。もしかしたら魂胆なんてものないのかもしれませんが、きっとその時はその時で魂胆なんてない、ということに気づくでしょう。その段階こそが、きっと今の自分にとっての「丘の向こう側」なんでしょうね。

2013年1月8日火曜日

SSメモ:真・恋姫無双【凡将伝】

真・恋姫無双【凡将伝】(一ノ瀬)

おいおいおい、なんだこの斬新な試みは!
……というのが当初この恋姫SSを読んだ時の感想でした。その試みの正体とは読者のコメントによって主人公のステータスや物語の展開が変わるという一風変わったもの。実際の所、連載もののSSで読者の感想が物語を左右することってほとんどないと思うんですよね。それはプロット云々以前にSSとは作者が書きたいものを書いているからであり、読者は「作る」人ではなくあくまでも「読む」人だからなのです。ゆえに、読者の反応を気にして作者は読者の欲求をみたすようなSSを書くことはあっても、読者がSSに干渉できるわけがないのです。

そう、そのはずなのに。
読者のコメント数でオリ主の能力値が変化して、鬱ルートな小説プロットの展開から抜け出すとかどういうことだ(笑)

作中で説明されているので、敢えてここで具体的な内容を伝えることはしませんが、簡単にいえば「リア充爆発」という言葉を読者から100以上もらうことで、SSがよりリア充的な展開になるという仕組みです。初めてこの仕組みが明かされた時は本当なんぞこれ、と唖然ですよ。同時にすごくわくわくしましたね。なんて意欲的なSSなんだと、そしてある意味でこれこそがweb2.0時代の双方向性あるネット小説としての完成形なんじゃないかと、ひどく感動した覚えがあります。

敢えて恋姫という作品でこの形をとったというところにも注目したい所。外史の観測者に関する考察に始まり、この物語の仕組みへ絡めて、だから主人公へ影響を与えることができるんだという話しの筋は、非常に説得力のあるものとして受け入れることができましたね。これもひとえに作者の一ノ瀬氏の筆力でしょう。物語の内容としても出来が素晴らしく、袁家陣営のよさが本当によく描かれています。特に麗羽様の王っぷりなどは半端無く魅力的に描写されており、ある意味ではこんなの麗羽様ではない!と否定されても仕方ないながらも、個人的には全然ありなキャラクター改変だと思います。ただでさえ面白い物語に、さらに読者のコメントやアンケートなどがあるのだから、これはもう手放しで賞賛する他ありませんよ。

それと忘れてはいけないのがこのSSに登場する魅力的なオリキャラたち。恋姫†無双で出ていない武将はまだまだたくさんいるので、武将の名前を借りたオリキャラを作るのは意外と簡単なわけですが、いかんせん本編のキャラに比べて影の薄いことが多いのがほとんどの恋姫SSの現状だと思います。しかしこのSSではこのオリキャラたちがまた濃いの何の……。っていうかAAで自己紹介するのやめれ、笑い殺す気か(笑) もちろん本編キャラも黙ってはいません。袁家の二枚看板なんてこれほど活躍したSSがあるのかと思うくらい、きちんと武将として描かれていますし、なにより客観的な視点における一刀君のリアルチート状態の忌々しさをこれ以上ないくらい見物できますw 何がすごいって、ここの一刀君は何も原作から外れたことはしていないのに、嫌われっぷりがひどいということ。いや、そりゃまぁ、これまで触れ合ってきたキャラクターが一刀君と触れ合うだけで落ちていく様子を見せられると、なんだかなぁという気にもなりますよ。でもこれが原作であり、オリ主の居るほうが異質なんだよなぁ。そのことをオリ主自身が自覚していますし。アンチやヘイト以外のSSでこれほど一刀君が嫌われているのも珍しい。

物語は現在反董卓連合の佳境。今後どう物語が転がっていくか。読者一人一人の意思表示で、未来はどんどん変わっていきます。ぜひいろんな人に、この感覚を楽しんでほしいですね。
これほどのSSを書いてくださっている一ノ瀬氏に感謝を。



2012年11月28日水曜日

SSメモ:ログ・ホライズン

ログ・ホライズン(橙乃ままれ)

もしもゲームの世界に入り込んだら。

わりかしこのSSはネトゲものというかVR(正確には違うけど)とかで紹介されることが多いんですが、個人的には本質は上にある通りゲーム世界に迷い込んだら、だと思うんですよね。
というのも、ネトゲものにしては正直いろいろ腑に落ちないところが多いからです。定番のデス・ゲームものでもなく、リアルとの駆け引きがあるわけでもない。ネトゲという異世界に突入したにしてはあまりに現実を引っ張っており、かといって転移にしてはあまりにゲームじみている。いまいちどのジャンルもしっくりこなくて、なんなんだろうなーとぼんやり考えた所、最終的に行き着いたのがゲーム世界に突入というジャンルでした。

正直なところあれですよ。思い至ったときは、そういえばそんなジャンルもあったなと思うくらい、昔のジャンル過ぎて望郷の念が立ち込めたくらいです(笑) いやしかし、もはや二次創作系列の作品以外では絶滅したと思われるこのジャンルを、よくも敢えてやろうと思えたものです。商業作品だと編集さんにプロット提出した段階で「VRだと差別化が難しいので他のにしましょう」とか「独自のゲームだと世界観の説明がしつこくなる」とか言われてまず間違いなく企画倒れでしょうね。読んでみないとこの面白さは中々伝わらないものですよ。

さてさて作品のジャンルはいいとして肝心の中身についてなんですが、これまたなんというかお手本のようなキャラクターの作りと話の展開です。ちょっといじわるな言い方をすれば歯車のようなキャラと機械仕掛けの物語、とでもいいましょうか。とにかく主人公の腹ぐろ眼鏡ことシロエを初め、多くのキャラクターが本当に見事なまでに記号化された特徴をもっており、それらが活かされた話しの進め方がされるため、いい意味でこのキャラは現実にはいないし、この話はフィクションだという実感が沸くんですよ。フィクションだとわかっているからある程度の棘が立つキャラの言動も目くじらを立てずに済むし、ご都合主義的な展開にもカタルシスを感じることができます。すばらしいポジショニングですね。

お話としてはネットゲームの世界で主人公たちが活躍するという形なんですが、レベルの暴力やらレベルを上げて物理で殴るやらがないため大変すばらしい出来です。ゲームならではの面白さに加え、ゲーム固有の概念を用いた問題解決法の提示、そしてそこにさらりと稼ぎ方やネゴシエーションの秘訣を入れてくるあたり、さすがの橙乃ままれ氏であると言わざるを得ません。話の後半になってくると今度は格差・自治・経済といったキーワードを入れてくるという贅沢さ。話しのスケールも大きくなってくるし、世界の謎にも迫ってくるし、恋の行方も波瀾な予感だし、いろいろと目が離せない状況です。

それにしてもこの橙乃ままれ氏である。
代表作の「まおゆう」からわかっていたことではありますが、一筋縄ではいかない物語の展開は舌を巻く勢いで毎度驚かされます。前半はそうでもないんですが後半からの群像劇っぷりに磨きがかかると、拍車をかけるように物語が面白くなるのはいったいどういうトリックなんだろうか。王道に一風変わった独自解釈を付け加え、世界観を広めた上で改めて王道に戻るという一連の流れに関しては、もはや崇拝するレベル。このSSの今後の展開が非常に気になります。ただいかんせん橙乃ままれ氏本人の忙しさが尋常じゃなさそうなところが難点。首を長くして更新を待ち続けたい一作。

あ、ちなみに文庫版も出てるのでネットがダメな人はぜひ。あと公式ホームページでコミカライズ情報だったり外伝(元は小説家になろうで掲載していた)だったりが出ているので、ファンの人は要チェックかも。

2012年11月2日金曜日

SSメモ:幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens

幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens(カルロ・ゼン)

うわっ、うっわー……なんだこれは……。

もう感嘆の息しか出ませんよ、これ。よくもまぁ世界大戦を2つ混ぜてこねて、きちんと形として仕上げているものだ。コーラとペプシを混ぜたらよくわからないすごい炭酸飲料ができたよ! と無邪気に喜んでるみたいで、なんかもうこの時点ですごく狂気じみてる。いや、一度は妄想したことありますよ? 大戦2つ混ぜればすごい戦争になるんじゃないかって。2度に渡る大戦において、それぞれ特筆して大きく技術が発展しており、苛烈極まる塹壕戦がいかに凄惨か、そしてそこでどんなドラマが生まれるだろうか、さらにそこに焦土作戦やら核やらが登場してくるとどうなるのか、戦記が好きな人なら多少なりともそこにロマンを感じるはず。

しかし、しかしだ。
そこには多大な困難が待ち受けていることは言うまでもない。
そもそも一般的な人は戦争なぞ知らないし、海外でやってるどんぱちなんぞテレビで知る生ぬるく過激な現状をのほほんと眺めているし、地元のとち狂ったヤクザの総本山でもない限り、こんなにも戦争末期の雰囲気万歳!みたいな頭のネジが飛び散った感想などは抱かないものである。またかなり専門系の人、いわゆる軍オタ、ミリオタになってしまうと、これもやや個人の頭の中で全てが完結しやすく、そうした人間に限ってなかなか自分独自のものを生み出し難いものである。

だがそれを容易くやってのけ、ドイツのルーデルを彷彿させるような主人公を投入し、戦時の英雄と讃えられるなど、まさしくフィクション戦記の王道であり、狂気じみた思想や特別なカリスマ性、歴史造形の詳しい解説は、この物語が提供する一つの完成されたテイストに違いない。そして何とも恐るべきことにこの物語には人を魅了してやまない幼女人の儚さを冷酷なまでに余すところ無く描いている。軍人のジレンマ、理論と現実、狂気と理性、宗教と道徳、それらの題材すらもミックスさせ、戦場における倫理の問題などを逃げることなく扱い、全てを大戦にぶちこんでいる。これを狂気の沙汰と呼ばずになんと言おう。

読み進めている内に、体の内側から見えない何かに食い破られているというか、これまで知ってて、でも見向きもしなかったものに真正面から対峙してしまった時の戸惑いというか。サンデル教授の講義みたいに、いろいろ曖昧に濁して逃げていたものを改めて考えさせられるんですよ。それもこれも主人公の幼女が悪い!! つーかどういうことだよ、作者さん……。潤いで投入してるんだろ……戦時なんだろ……。普段気難しい軍人が魅せるちょっとした恥じらいとか、ぐへへな展開とかもちょっとくらい期待していいじゃないか……。(外道

まぁそれはさておき。

改めて戦時のどうしようもない空気というものを感じた気がします。
どうにもこういう破滅的な話とかはやや苦手なところがあるんですが、ついつい見てしまうんですよね。戦記もので連戦連勝してるやつも好きと言えば好きなんですけど、このSSみたいな硝煙と血が入り混じったリアルな匂いのするやつも定期的に見たくなるときがあるんです。別に破滅願望とかないはずなんですけどねぇ。なんかあれだ、恋すらしていないのに失恋の歌を聞いて心が苦しくなるようなあんな感覚ですよ。うん、ほぼそんな経験ないけどね(

2012年11月1日木曜日

SSメモ:死神を食べた少女

死神を食べた少女(七沢またり)

なんというか、本当に見当違いな感想なのは承知しているんですが、どうにもこの物語は童話みたいな印象を受けてしまう。物語を通して何かを語りかけられているような、一見単純な話の裏で、何かとても大切なものを教えられているような、そんな感覚です。ちょっと待てよ、こんな狂気じみた主人公が、さらに狂気じみた部下を引き連れて戦争するこの物語のどこが童話なんだ、と多方面の方からつっこみを受けてしまうかもしれませんが(笑)

さてさて、間違ってもこのお話は心温まるお話でも、ましてや何か教訓じみたものを語っている作品ではありません。むしろ平気で人が死に、洗脳じみた思想を淡々と描写しているという、ダークファンタジー真っ青な作品です。大好きですよ、こういう化けの皮をかぶったような作品(

少女シェラは空腹から死神を食べて、非常識な力を手に入れています。結果的にはこの力によって立身出世していったので、ちょっと形を変えたチートものと読めなくもない。転生トラックとかのパターンからはみ出したチートモノというか。あれですね、むしろ「ある日突然力に目覚めた俺は……」って導入の方が近いかもしれません。近年でこういう書き出しにチャレンジできるってとても大切な心意気だと思うんですよね。やれ魔法の設定がどうのこうの、主人公の過去はどうのこうのって考えるのもいいんですが、王道そのままで内容を面白くすればだいたい物語は面白くなるよって示してる作品な気もします。といっても、読んでる最中はまったくそんなことを意識しませんけどね。何度か読み直している内に、そういえばこれって敢えてジャンル分けとかしたらこれになるよね、と気づいただけです。

いやでもこれを主人公最強モノってジャンルで区切ると詐欺になる気しかしない。だからといって死神モノと言われるとまったくそうじゃないし、戦記というにしては、いまいち全体の動きが足りない。恋愛要素とか海に投げ捨ててるし、涙誘う展開とかカタルシスがマッハみたいでもない。なので結論としてはザ汎用性キング「ファンタジーモノ」となるわけですが、これのどこがファンタジーなのかイマイチこの表現も厳しい。というわけで結論として「ファンタジーな戦記っぽい死神モノの皮をかぶった何か」というのが正しいですね。うん、なんのこっちゃ(

それにしても注目すべきは少女シェラもそうですけど、その部下たちですよね。
よく小説や漫画にあるような死を恐れない人形兵士というのが描写されますが、まさしくそうした人物像にぴったり当てはまるんですよね、彼ら。といっても正直なところ、こうした人たちって取り立てて特殊な人たちってわけじゃないんですよ。60年前の日本だってこんな人達がたくさんいましたし、おそらく現代の人だって死を恐れないことはないにしても、誰かカリスマ性のある人を信奉してやまない人はたくさんいます。創業者万歳な企業の幹部とか、起業家に憧れる学生とか、もっと身近でいえば故マイケル・ジャクソン氏なんかたぶんファンに何かしてほしいといえば、かなりの確率でそれが実現したと思うんですよ。つまりはそういうことなんです。誰もがシェラの部下のように狂気に染まる可能性があるし、そこに特別な才能や努力って必要ないんです。このSS読んで自分はこうはならないと確信している人ほど、たぶんなる可能性高いですよ。だって何の根拠もない自分の感情で判断を確信できるわけなんですから。

それにしてもなんでこの物語が童話だと感じたんだろうか。こうした部下たちの一件や王国とかの隆盛をきちんと描いているところに、何かひっかかっているのかも? いずれにせよ何度か読みなおしても面白さは褪せない点においては童話と似てます。書籍化するのもなっとく。むしろ今後はこういう童話も読んでみたいな。大人向けの童話というか。

しかし一人の少女を通して描かれる世界が、こんなにも小さく、けれどとてつもなく思想にあふれているのを見ると、リアルな世界もいろいろ考えることに飽きない世界ですよね。

2012年9月24日月曜日

SSメモ:武器屋リードの営業日誌

武器屋リードの営業日誌(五月八日)

なんというか、武器屋ってこれくらいがちょうどいいですよね。
変に強くなくて、変にキャラ作ってなくて、変にこだわりがなくて。頑固一徹! って感じの武器屋も好きなわけですが、現実あんな職人気質な人がごろごろしていたら立ち回らないわけで、本当これぐらいアバウトなくらいがちょうどいいと思うんです。

というわけで何のことやら普通の武器屋の店主が平凡ではない物語に巻き込まれるお話。これなんというか舞台仕掛けがうまいんですよね。武器屋、という特性を活かした物語の作り方は絶賛モノ。理想的な起承転結、そしてオチの付け方をしているので、いろいろ物書きにとっては参考になることが多いです。しかも章が進むに連れて、微妙に話の組み立て方を変えてくるし。ここでこう来る! と思ったら実は来ず、なにもないだろうと思っていたら残念事件でしたー、と飛び出す始末。しかもオチを毎回笑いやら泣きやらバリエーションを付けてくるので、読後感が非常にいい。一つの作品が連載しているにも関わらず、いろんな短編を一気に読んでいる感覚があります。

ぱっとこうした一般的な武器屋が活躍するSSって思いつかないんですよね。ライトノベルだと「七人の武器屋」とか、一応武器屋ものなのかな。あれはあれでいい作品でしたけど、この作品はより1人の武器屋に焦点をあてて、その人が巻き込まれる様子を手にとって楽しめます。こういってはあれですが、奇をてらわないで専門職を活かした作品って商業、ネット小説に関わらず、珍しいものです。あ、でも一般小説の方ではそうでもないか。経済小説とかもあるし。といっても、あれはあれでちょっと指向性が違いますが。

主人公のリードがこれまた不幸なのか幸運なのかよくわからない境遇で、しかしそれでも前向きに頑張っているあたり、なかなかいい主人公面してます。2章あたりから人物像もはっきりしてきて、あぁこいつは苦労人だなぁって思えるようになりました。始めはややきざったいというか、お人好しのお兄さんみたいな感じだったのですが、なんともいろんな話を見ている内に以外に現実主義だとか、でも絞めるところは絞めて、きちんと人助けするところとか、うん、なんというか生の人間だよなぁ。信用裏切られたのを高い授業料と捉えることのできる人間って案外少ないもんですよ。

しかし、なんとも表現しにくいこの文章から受ける印象。
作者から、とびっきり前線にたって流行をつくる! みたいな突出した才能は感じられないんですけど、それでも安定して良作を提供してそこそこのファンがついて、業界全体の質を保つのに貢献しそうな感じ。縁の下の力持ち的な何か。素直に綴られた文字から誠実さを感じるんですよね。作中でほら吹いてても、あ、このお話はそういうお話なのかと信じそうになるくらい、なんというか文章から物語を信じさせる力が発信されているんですよね。おかげで最初は騙されました(笑)

あと特筆すべきはキャラ立てです。
短編なはずなんですが、なんともどのキャラもきちんと物語に存在しています。レギュラーメンバーのクレアはもちろん、1章にしか登場しないキャラや、2章の友人キャラも、決して突飛なキャラではないんですが、一度読んだらこいつらいたなぁって思います。読み返しても「そうそう、こいつあとでこうなるんだよなぁ」と、予想通りのランダム性みたいな気分で読めます。

あんまりいいたくはないんですけど、正直言って、SSの質的にはちょうど全ネット小説の中間くらいに位置しているのかなーと思っています。テンプレコピー作品は除外するとして。特別優れているわけでもなく、かといって特別劣っているわけでもない。気軽に読める、安心して面白さがある、定番の品、みたいな。ポテトチップスで言えばうす塩。特別好きではないけど、安定しておいしいものがほしいならこれ、とか。だからこそ、万人におすすめできる読み返したいSSだと思います。

2012年9月18日火曜日

SSメモ:俺の人生ヘルモード

俺の人生ヘルモード(侘寂山葵)

トリップものがいつもいつも作者の願望を映したような希望溢れる生ぬるい作品になると思うなよ!!と言わんばかりの、のっけからの鬼畜仕様……なはずだったわけですが、いつの間にかご都合主義に変わり気がつけば割りと強い力と心強い相棒を手に入れて、これから無双状態か!と思いきや、やっぱりそんなことなかったぜと次々試練が待ち受け、でも案外展開がテンプレート化してきてて、はいはいヘルモードヘルモード(笑)と安易にSSを読み進めていたら、底なし沼どころか奈落の穴に落とされてすいませんと全力で焼き土下座しているわけで、つまり何が言いたいかというと……。

パネェ。。。

あかんだろ、これ。俺の人生どころか皆の人生ヘルモードだよ。人生3回くらいやり直してもこの状況に放り出されたら間違いなく死ぬ自身があるよ。つーか一話にして主人公意外トリップ者全滅ってどうよ。テンプレどおり魔物に襲われてみました☆みたいなかわいいものじゃなくて巨人と虫に食い散らされたり、人間ボールにされたり、15禁タグの威力が遺憾なく発揮され、しかも死なないために立ち向かうとかではなくて、黒い沼に身を隠してひたすら耐えるとか、それなんてファンタジー……。

始まりからヘルモード全開で飛ばしまくってて大丈夫かよと思いましたが、ワシのヘルモードは108式まであるので大丈夫だ問題ない状態。問題ありすぎだ。所詮序盤のヘルさなんてただの前菜だったわけですよ。魔物が直に向かってくるだけましで、そもそも気づかないうちに捕食されたり、生きたまま栄養分にされたりがざらになる後半を見ると、あぁなんと平和な世界……じゃねぇよ……マジで……。

主人公のメイくん、よくもまぁ耐えれたものだわ……。いくら相棒が励ましてくれたり、いい仲間に恵まれたりしたとはいえ、こんなダンジョンに何度も潜り込む勇気とか湧かないって。しかもなんか黒幕っぽい人物に目をつけられて、狙われるはめになってるし。人生の難易度が変わり過ぎなのに、よくついて行けるなぁ。

メイだけではなく、さりげなくメイの仲間も度胸とか覚悟が相当あるんですよね。相棒たるドリーがメイと一蓮托生な覚悟をしていることはもちろん、ドランやリーンもメイを信頼しているし自分のできることをわきまえている。無理についていくことはせず、自分にできることをやるし、メイもそれを求めているものだから、こいつらのチームワークはすごい。だからこそ、そのチームワークが発揮できない状況においての絶望感が凄まじいわけですが。

しかもこのお話、ただただヘルモードがすごいだけではなくて、話の広げ方もすごい。起伏にとんだ展開とはまさにこのこと。ダンジョンの成り立ちも深く考えられているし、それに関するエピソードを外伝にすることで、徐々に徐々に本編が真実に近づき空気が張り詰めていく様子も直に味わえるし、何より物語の落とし方が異常にうまい。どこまで読者を絶望に叩きこめば気が済むんだ……。
とりあえず現在の最新話は、絶望から軽く持ち上げている状況なので、次の話以降どれだけ下に突き落とされるか楽しみです。

2012年9月16日日曜日

SSメモ:竜殺しと龍喰らい

竜殺しと竜喰らい(三上康明)

見事なまでの真正面からの正拳突き。
いやー、すごい。真っ向から全力で一切の妥協なくブレもなく、ただただこういう物語が書きたいんだという作者の思いが、一つのSSとなりガツンと心を打ってきます。くはー、これは堪える。体の芯が痺れるほどの衝撃。敵わないなぁ。

題名どおりこのSSの世界には竜がいて、竜を殺す人たちがいて、そして殺した竜を解体する人たちがいます。基本竜が圧倒的に強いわけですが、人が力を合わせればかろうじて戦えるレベル、といったところ。戦闘がだいたい命がけなあたり、お察しください。

それにしてもこの世界の竜、ファンタジーらしくない。
すべての竜種が毒をもっているところとか、子供は襲わないとか、人を殺すと土くれに変えるとか。なんかこう竜の眼! とかブレス! とか げきりん!! とかもうちょっとなんかないのかよ、と。敢えて竜という存在の設定を既存概念から外しているあたり、正直何かの伏線があるのだろうと訝しんでしまうわけですが、後のお楽しみなんですかねえ。

そして実は竜を討伐する側も、あんまりファンタジーらしくない(笑)
一般的なファンタジー世界で竜を倒すとき、なんか魔法使いがサポートしたり、剣士が必死に斬りかかったり、あるいは扱いがぞんざいなものに至るとなんか魔法で消し飛ばされたり、剣士が一瞬で戦闘終わらせたりと、一言で言えばザ・モブって感じなんですよね。危ないと言われている割に主人公サイドからすると倒せる、みたいな。
が、しかしこのSSではことがそう単純ではなく、斥候だして竜の特性を探り、爆薬と香料で竜を混乱させて、最後に武器で倒す、と。なるほど、たしかに現実的に考えて、強大なものに挑む際は相手の弱点を突き、弱らせて仕留めるよな、と感心しています。どっかの兵法書の基本みたいな形でのってそうな、なんというか合理的な戦い方ですよね。ファンタジーとしてはどうなのと思いますが(笑)

お手本みたいなSS、とはちょっと言い過ぎかもしれませんが、少なくとも多くの物書きにとって見習うべきところはたくさんあると思えました。序盤のつかみ、物語の展開、次の話しへの引き方、どれをとっても上手いという他ありません。もちろん粗とも言えるべき場所はたくさんあり、対立構造の様子がちょっとあっさりしていたり、クライマックスの盛り上げ方とかもう少し工夫できるんじゃないかと思ったり、欠点を上げればきりがありません。某理想郷やなろうでこの作品を掲載すると、おそらく感想欄に批判コメが殺到するんじゃないでしょうか。

しかし、そんな親の仇を探すみたいに目くじら立てている感想なんてどうでもいいんです。重要なのは自分の思いに正直になって書きたいシーンを書けているかどうかです。安易に「あいつは心の中で生きている」だとか、「憎しみは憎しみを生むだけだ」とかありきたりな表現に逃げるのではなく、自分の言葉で、自分の思いで、書きたいものを書きさえすればいいんです。このSSはそういった点において、多くの作品のお手本になるのではないでしょうか。

読者に媚を売るなんてしなくていい、他作品の都合のいい解決法なんてもってのほか。SSなんですから、もっと自分の欲望に忠実になって、このシーンが書きたかったんだ! と堂々胸を張っていればいいんですよ。SS読みの人たちなんて意識してるにせよ無意識にせよ、そういう作者の思いを見たいがためにSSを読んでるはずなんですから。

最近読んだSSの中で、もっとも繰り返し読みたいと感じましたねー。ここまで作者が自分の欲求に従って書いたSSも滅多にありませんから、SSの書き手にとってはとてもいい上達材料になるのではないかと思います。もし創作に煮詰まっている人がいたらぜひ。

2012年9月13日木曜日

SSメモ:未来は見果てぬ旅路の先

未来は見果てぬ旅路の先(彩守るせろ)

これまたなんというか……。
敢えて紅茶で例えるなら、このSSはダージリンのファーストフラッシュでしょうね。セカンドに比べて渋く、オータムに比べて風味がなく、人によっては青臭いとさえ蔑まれる若々しい茶葉の香りは、まさにこの物語にしっくりくる。

若いっていいなぁ。
このSSの主人公であるリョウくん、本当若くて一途で人一倍思いやりがあって、そして人一倍「医学」に関しては頑固なんですよね。自分はどうなってもいいし、どう思われてもいい。だけど、人の病を治すことに関しては、誰がなんと言おうと、それこそ宗教的禁忌を犯してでも、譲らない。たとえそれが誰かとぶつかり合う事になっても。

実際、医学の発達が薄い世界で、しかも宗教が信じられている世界で、異端の考えを持ち込むのは非常に困難なことです。こっちの世界の歴史的に見ても、地動説が受け入れられるようになった経緯や進化論が認められるようになる途中で、多くの人々が宗教信仰の前に苦渋をなめさせられています。そして科学が発達した今尚、それらの事象を信じない人もたくさんいます。そんなことわかった上で、それでも自分の医学への思いを貫くのだから、大したものだ。

もっとスマートで理性的で妥協的で協力的な選択ができるはずなんですよ。仕方がないと割りきって、届かないと諦めて、見なかったことにすることだってできる。それがたぶん賢い生き方で、楽な生き方なんですけど、リョウは決してそれをしない。馬鹿だとわかっていても、自分の思いを貫くことを選ぶ。人はそれを愚者と呼ぶかもしれないけれど、そこに何か若い頃に忘れてしまった大切なものがある気がして、無意識のうちに彼の行動に惹かれ、見守り、草陰の中からそっと応援してしまう。

主人公であるリョウも魅力的なんですが、それ以上に彼の周辺にいるキャラクターが魅力的なんですよね。友人であるヘイ、仄かな好意を寄せるカリア、その他よき理解者たるヘイル夫妻やクレイなど、揃いも揃ってこいつら見ててハラハラするリョウを支えているんですよね。まるで子の成長を見守る大人のように、時に叱り導き、時に叱咤し励まし、時に喜び笑い合う。そうやって彼らが傍にいるからこそ、リョウはこの世界に降り立って、自らの夢を折られても、まっすぐ前を向いて進めるんでしょう。

いやぁ、ひたすらに丁寧だわ、このSS。
若い人の理想と、諦めない思考と、応援したくなる周りの気持ちを、段階立ててゆっくりしっかり描いているせいか、臨場感あふれる、とまではいかないものの作中時間と各キャラクターの感情の進行が手に取るようにわかるんですよ。医学という一つのテーマに対して非常に真摯に向き合い、多少の小説舞台というギミックはあれど、ここまで丁寧に書かれるとじっと腰を添えて読まざるを得ません。むしろ読ませて下さいと土下座したいくらいです。

人によっては文章や展開がくどいとか、もっと展開を早くしろとか文句あるでしょうけど、個人的にはそんなものが欲しかったら別のSSを読めと言いたい。というかむしろそれはこのSSの楽しみ方として間違っていると言いたい。このSSみたいに、ただ忠実にキャラクターたちの世界を描いているフレンチな料理と、ド派手な戦闘と泣ける展開という調味料を目分量でどかどかつっこむ中華料理の味わい方を一緒にするのはさすがに違いますよ。私はフレンチも中華も大好きですけどね!! ……コホン、ともかく静かに丁寧に味わってこそ、このSSの面白さがわかるものなんです。エライ人には(ry

2012年9月3日月曜日

SSメモ:クロスマテリア

クロスマテリア(キサ)

じれってぇーーーー!!!
なんだこの甘酸っぱい青春モノは。この世界ふぁんたじぃなのに、どうしてこう恋愛がこんなにも現代みたく苦しんで傷ついてそれでも一途に想ってそれでいて誰も彼もが良い人なんだ! いやちょっと待とう、このSSは恋愛モノではない。愛というものをテーマの一つにはしているのだろうけど、端的にいえばとある少女の冒険譚であり、成長モノであり、1人の男の救済物語である。それがこうまでじれったいとおいおい、高校時代の有りもしない青春を思い返してしまうではないか。くあー、お前らの愛で世界が爆発だよ!!

主人公のミリアは天才で馬鹿で天然で、でも優しくて思いやりがあって、それでいていろんな意味で残念な女の子なわけですが、だからこそ目が離せないくらい見守ってあげたくなる魅力があるんですよ。温泉にミルクぶち込むとか、蜂の巣退治で家崩壊させるとか、危なっかしくて目が離せませんが、そうやってすべてを終えた後でえへへと笑い過ごすことのなんと無邪気なことか。偏屈な馴染みも不幸な魔神もおせっかいな妖精も、そしてとびっきりの傲慢で自己中な神父も、そんなミリアの毒手にかかった連中なわけです。結局のところ揃いも揃ってこいつらみんな良い人なんですよね。やれやれとか言いつつ、実に内心心配してるのが読み手にはバレバレで、余計にこいつら~~!!ってなります。

しかしこのSSはただただ甘いだけではない。最初からフルスロットルにこれでもかとファンタジーを全面に押し出し、この世界が甘いだけではないことを知らされます。何もいきなりこんなにもドロドロしなくてもと思うんですが、舞台説明とかミリアの強さとか、あとは周辺登場人物の紹介とかも違和感なくさらっと物語に組み込んでいるのはすごいところ。序章でこれだけ魅せるSSもなかなか見ないのではないだろうか。

舞台となる世界は法が支配する世界なわけですが、これだけ聞くとやたら厳格で神聖なもののように思えますが、実態はもうちょいファンタジーで、法を司る組織の長たちもちょっと抜けてて、でもやる時はまじめで、弊害も怨念も悲劇もたくさんありつつ平和に回る世界なわけですよ。コメディチックなところからドシリアスに至るまで、とても同じ世界とは思えないほど破天荒な明るさと暗さに満ちています。女性主人公でここまでコメディを交えたシリアスな冒険ファンタジーは、ちょっと他に思いつかないなぁ。

後半からの物語の加速具合は非常に絶妙で、過去から続く因縁や伏線、親世代の話と現世代が繋がり始め、そしてそれらを一気に引き上げてくる展開は徹夜モノ。まだかまだかと期待が溜まっていた中で怒涛の回収劇は、ああこれぞSSの醍醐味と至高の幸福を覚えます。しかもこの物語、長編ファンタジーSSとしては見事に風呂敷を畳み完結に至っているので、後ぐされなくすっきりと読み切ることができます。むしろ後日談をもっと読みたいほどにはキャラに愛着を覚えています。

ただでも、個人的に一番好きなのは番外編なんですよねぇ。
それもボーイミーツガールのやつ。
主人公と馴染みの出会いを描いたこの短編、なんとなく望郷の念というか郷愁を匂わせる少年時代を思い起こさせるんですよ。本編もいいんですが、さりげない些細な日常とその変化を描いた番外編に、自分としては非常に心を打たれました。

ファンタジーな世界で冒険と恋愛と甘酸っぱさとほろ苦さを手にしたいならぜひ。

2012年8月28日火曜日

SSメモ:Re:ゼロから始める異世界生活

Re:ゼロから始める異世界生活(鼠色猫)

昨日と同じ今日が延々と続くとしたら、それはまさしく絶望なんだろうなぁ。
人が自殺を考えるのは、辛いからではなく、辛いのがこの先延々と続く確信を抱いた時なんだと個人的には思ってます。日本の社会ってかなり固定化されていますから、ちょっとやそっとじゃ自分の立ち位置から抜け出せないんですよね。だからこそこんなにも年間で自殺者を排出しているんだろうと。まぁ、自殺の9割は他殺という言葉は言い得て妙なりですよね。

さておき、この作品は主人公のスバルくんが死んだら特定の時間軸まで記憶を保って戻ってくる死に戻りループものです。

ループ、そうループ!!

まさかSSでこのネタを使ってくるとは思いませんでした。ノベルゲームなどではすっかりお馴染みの手法なわけですが、ことSSになるとなかなか難しい。なにせ周回プレイという概念がありませんからね。しかしそれを逆手に取り、「周回プレイで少しずつ情報を得ているプレイヤー」自体を描けばご覧のとおり、この作品の完成ですよ。

たぶんこの手の死に戻り設定は既存の作品として(あるいは既存のジャンルとして)存在しているんでしょうけど、少なくとも私が知る限りこのSSほど優秀に、それでいて薄ら寒さを感じさせるようなものはありません。無駄に明るい性格をしている(努めている)ちょっとバカで一途なスバルという主人公だからこそ、一見重い設定にもポップな雰囲気が醸し出されていますが、これ普通の個性のない主人公でやったらめちゃくちゃ重苦しくなるぞ(笑)
仲良くなった人から他人行儀な目で見られ、必死の繕いはさらなる不信を呼び、かといってこれまでのことを一切忘れて過ごそうにも制限時間が課せられ、その先には絶望しか見えない……。おいおいおい、冗談じゃなくこれ主人公がスバルくんでよかったと思えてきたよ。基本的に芸人体質なスバルくんがいるだけで、コメディチックな舞台と登場人物とのコントのような掛け合いが生まれるので、シリアスだけじゃなく物語の空気を味わえます。

1章の時点ではまだ物語の方向性が見えなかったんですよね。スバルくんがこの謎ワールドに突入して、傷つきながら文字通り命を代償に多くの情報を得て、なんとかこの世界で生きていくための基盤を作ることに成功した、というまぁありふれたお話。ちょっと変わった異世界ものだなぁとしか思わなかったんですが、2章で世界から突き放されてどん底に落ちた瞬間は、ループしてないこっちもズシンと腹の下に何かが来るような感触がありました。見てられない、という状況をまさかSSで味わう日がこようとは思っても見なかったので、だからこそ余計に作品の行方を見届けたくなるんですよね。

現段階で物語としてはようやく世界の全容が見えてきたところ。なぜスバルが死に戻るのか、魔女の正体とはなんなのか、どうして1章が存在したのか、様々な謎を提示しつつ風呂敷を広げていく作者のSSを魅せる力には感嘆を覚えます。

だがしかし、テヘペロ☆はいただけないぞ、スバルくん。
そこはせめてメンゴ♪って謝らないと。(3章13話)

2012年8月26日日曜日

SSメモ:―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE

―遺産の子達へ― To the children of an INHERITANCE(蒼月)

ふむふむ、半オリジナルKanonファンタジーとな。

なるほど、ようするにゲーム「Kanon」の主人公祐一くんを魔改造して俺tueeeする所謂U-1ものか。どうせ祐一くんがなぜか初めて会ったヒロインから好意持たれたり、力を隠してランク低かったり、無駄に悲しい過去を抱えていたりするんだろう。強そうな敵キャラ出して一旦負けて、自分の過去を仲間に懺悔し、悲しみを乗り越えた先の友情パワーやらで互角の勝負を演じるも、敵キャラの覚醒に圧倒され、あわや負けそうなところでライバルキャラが駆けつけて一緒に敵倒して大団円、そしてエピローグでヒロインといちゃいちゃするんでしょ、はいはい。


……のはずだったんだ。


何も間違ってない。
上述した内容は決して嘘でも想像上のものでもなく、単なる事実だ。
本当に何一つ間違ったことは書いていない。
にも関わらずなんだこのSSの面白さはっ!?(笑)

ちょっとちょっと、もはや「Kanon」というゲームの登場人物の名前だけを借りた、まったく別の濃厚なダークファンタジーじゃないか。しかもヒロインなんてあれだけ濃い「Kanon」のヒロイン勢をすべて押しのけなんとオリキャラ。もはや原作の面影なんて名前とちょっとした設定しか残されていない。最初から半オリジナルって書いてくれよ!!(書いてます)
あー、ちくしょう。騙された。これは騙された。半端無く面白い。KanonSSの中でもトップクラス魔改造を誇っている癖に、間違いなくこれがKanon SSの中でトップクラスの面白さを誇るだろうと断言できる。主人公の過去に思わずホロリとしてしまうではないか。いや、ホロリじゃないな、なんでこんな生き方しかできないんだよってボロボロしてしまうのが正しいな。

物語の展開はまさしくテンプレといってもいいかもしれない。学園要素がないくらいか?いや、しかしそれすらも気にならないくらい、これでもかと厨二要素を搭載している。武器の二段開放とか、おいおいそれオサレ先生の得意技じゃないかと(笑) しかし読んでいる最中はそんな意識はどこ吹く風、熱い展開に思わず画面越しに息を張り詰めてうおおおぉぉ、と叫びたくなるくらい熱中してしまいました。
これこそまさにSSの醍醐味だよ。とても商業作品ではできない陳腐でテンプレート的な展開をものともせず、面白いものを面白く書いて何が悪い! と開き直るこの勢い。そして結果として凄まじく面白かった時のこの満足感。これだからSS読むのはやめられない。

やや特殊な文体ですが、ほとんど気にならずにすらすら読めました。特にこの作者の戦闘描写は圧巻モノ。ただ切り結ぶ描写をするだけが戦闘描写ではないと思い知らされるくらい、なんというか「かっこいい」です。厨二ともいいますが、今の時代のSSを見渡してこれほど純粋に自分の「かっこいい」と思うものを描写できている人が果たして何人いるか。
くだらない厨二は見飽きて、思わず息を呑むような厨二を見たい人にはおすすめのKanon SSです。